代わり婚約者は生真面目社長に甘くされる》15

とうとう迎えた日曜日。

私は自室で鏡を前に唸っていた。

夜な夜なメイクの練習をした果が出たのか、思ったよりいいじに仕上がったのでほっとする。…いや、でも派手すぎたかな。

このアイシャドウのはもう人だったら似合っていたかも…だとか、グロスはい印象になっているんじゃないか…とか考えだしたらキリがない。モデルじゃないんだから完璧を目指すこともないと無理やり自分を納得させる。あくまでも主役は悠馬さんだ。

髪をまとめようとして気づく。いけない、買ったヘアスプレーをリビングに置いたままだった。

自室のドアを開け、出ようとしたときに自分の格好に気付く。キャミソール姿のままだった。一人暮らしの時の癖が完全に抜けきっていないとはいえ、一緒に住む人が居るんだから気を付けないと…とUターンしようとした時だった。

「つばきさん、」

かけられた聲。さっと溫が下がる覚。

最悪のタイミングだ。

「…あっ」

とっさに左肩を覆う。

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傷痕。隠さなくてはいけないもの。私が「つばき」ではない証拠で、私のコンプレックス。

「また、著替えたあとに」

それだけ言って部屋に逃げ込む。

うまく笑えただろうか。聲は震えていなかっただろうか。誤魔化せただろうか。傷痕を見られていませんように。

様々な想いがを押しつぶす。

悠馬さんが、この傷痕を見て醜いと思うのはいい。だけど、それで心が離れていったら。

婚約解消なんてされたらどうなるか。本家は激怒するだろうし、実家がどうなるかもわからない。私だって下手をすれば本條家から追い出される。

それに。

――嫌われてしまったら、どうすればいいの。

ズキズキと傷痕が存在を主張する。ただでさえ赤みがあるのに、溫が上がるとさらにくっきりと郭を濃くしていく。今すぐにでも剝がしとれないかと爪を突き立てるが、私の一部であるそれは痛みのみを訴えるだけだ。

考えすぎてうまく息が吸えなくなりつつある私を正気に戻したのは、一回のノック音だった。

「つばきさん」

「は……はい?」

「渡したいものがあるから、著替え終わったら聲を掛けてもらっていいか?」

渡したいもの?

疑問を口にする前に悠馬さんの気配は自室の前から去っていった。

……もう、今日はなんにもしたくない気分だったけれどまだ始まったばかりだ。いつまでもここに閉じこもるわけにはいかない。

緩慢な作で私はワンピースを手に取った。

ぴろりんとチャットアプリの通知音。開くと、以前になんとなく友達といれた占い屋のトークだった。

『今日のいて座の運勢は10位! 思わぬところで隠していたことがバレちゃうかも? ラッキーアイテムは――』

忠告が遅い。しかも順位が低い。最悪ではないか。最後まで読まずに私はアプリを閉じた。

もう今日の私が何とかしてくれると思っていた過去の私すら恨めしい。だいたいこういうときは悪いことが積み重なっていくのだ。

天井を仰いで深々とため息をつくと、私は緩慢な作でワンピースを手に取った。

「ごめん、ちょっと時間かかっちゃった。大丈夫?」

なんでもないような調子でリビングに居た悠馬さんに聲を掛ける。

傷痕が見られいなかったにしろ、絶対に焦った様子と表は見ているので何かあるのだと察しはしているはずだ。考え過ぎだろうか、彼はじっと私を見ている。お見合いの席の時のような眼差しで。

「まだ平気。はい」

渡されたのはアクセサリーブランドの小さな紙袋だ。

思わずけ取り、ぱちくりと見ていると悠馬さんは捕捉をする。

「これは……?」

「ネックレス。つばきさんはつけないと言っていたけど、俺はつけてほしいと思ったから、つい」

開けてみて、と催促されてそっと包みを開く。

しずくモチーフのピンクゴールド。店頭で見かけたらきっと立ち止まって見ってしまうだろう。

それにしてもいきなりどうして……。『つい』で買うものではないと思うんだけれど。

「本條の方から、指はまだ待ってくれと言われているが――これぐらいならいいだろう?」

ちらりと本家でそんな話を聞いたような覚えがあるが、それ悠馬さんにも言っていたんだ!? どうりで指の話は出ないはずだ。

代理で來た人間との婚約指は後々トラブルになりかねないから釘を刺したのだろうけど、それにしたってそんなストレートに伝えなくてもいいではないか……。

いや、そう考えるとネックレスもアウトなのでは?

でもこの場で「いらないです」なんて口が裂けても言えるわけがない。

「ありがとう…嬉しい」

本心だった。苦しい気持ちと共に、嬉しい気持ちもあったのだ。

私のために選んでくれたということが――。

「つけていい?」

「もちろん」

気持ちが先走り、なかなか留めがはまらない。

元からこういうのは不用だったけれど、今日はいつにもまして駄目だ…。

鏡を見ながらしようと思い始めた時、悠馬さんがいた。私の後ろに回り、ネックレスのチェーンを手に取る。

手の溫度が首の後ろに伝わり、私はさっきとは全く逆に、かあっと顔に熱が上がるのをじた。

あっという間にネックレスをつけると、彼は後ろから覗きこむ。

「うん、似合う」

褒められたけど、私はそれどころではない。だってあまりにも顔が近いのだ。

そちらに顔を向けることが出來ないまま、私はか細い聲でお禮を言うことしかできなかった。

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