《代わり婚約者は生真面目社長に甘くされる》16
車で一時間ほどでたどり著いたのはコンベンションホール。
そこの地下駐車場から上ってきた私たちは、案の人が持つ看板に従って中へっていく。
「広い…」
エントランスの時點で學校の育館がってしまいそうな広さだ。見上げれば吹き抜けの天井ははるか上。
「いつ來ても広さにびっくりするよ。つばきさん、俺からはぐれないように気を付けてくれ」
スマホの電波も悪くなる時があるからと、悠馬さんは出り口付近の自販売機を待ち合わせ場所にした。
「あはは、私だって大人なんだから迷子になったりなんてしないよ」
「……前に書と來た時、一瞬目を離したすきに見失ったんだ」
「書さん……」
「捕獲するまで十分かかった」
「書さん……」
同じ目的の人たちなのか、フォーマルななりの人たちも周りに多くいる。
私だけかもしれないけれどなんだか張りつめた空気をじ取って張してしまう。
「大丈夫だよ」
そんな私の様子を見て、仕事モードの顔を一瞬崩し悠馬さんはほほ笑んだ。
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「う、うん」
「みんな人より展示のほうを気にするから。そんなに注目されることはないはず」
そうだろうか……。悠馬さんは人より家のほうを見るタイプなんだろうけど。
指定されたホールにると、想像以上の人數があちこちを歩いていたり、立ち止まっていたり、話していた。ここもかなり広いはずなのに、狹く錯覚してしまうぐらいだ。
等間隔にブースがあり、そこに家が展示されている。小さな部屋がそこかしこにあるみたいだ。デザインした人や職人らしき人が説明していたり実際に使用してもらっている。
「よくお世話になっているインテリアの會社から行こう」
もらった地図を一瞥してスタスタと迷いなく悠馬さんは歩き出した。私は地図を読むことが下手なので尊敬の念しかない。
悠馬さんについていきながらきょろきょろとまわりを見る。まるでお祭りみたいだ。
「こんにちは、志島さん。香月です」
「ああ! 香月さん! 來てくださって嬉しいです」
『ハッピースマイルインテリア』という名前に反して和風を売りにしている會社のブース。悠馬さんが聲をかけると、相手の人もすぐに分かって握手をしていた。
互いに近況を話した後、志島さんは私を見て首を傾げる。ついに來たか。
「そちらのは?」
「婚約者です」
「……こんにちは」
涼しい顔の悠馬さんとは対照的に私はし赤面してしまう。
志島さんは私と二度見した後、目を丸くしながら何度も頷いていた。
「そういうこともあるんですね……」
そこまで驚くことありますか?
ハッピースマイルインテリアのブースを離れ、次へと歩いていると「香月ー!」と後ろから聲が聞こえた。
二人で振り向くと、悠馬さんと同じ年ぐらいの男が駆け寄ってくるところだ。とても元気に満ち溢れた顔をしている。
「久しぶりだな香月! 元気にしていたか?」
「ああ。湯川も相変わらずみたいでなによりだ」
「お前も……お前、その人は?」
「婚約者のつばきさん」
私が頭を下げてから上げるまで、湯川さんは微だにしなかった。
「え? 誰の?」
「俺の」
「香月の!?」
「つばきさん、こちらは湯川翔。俺の大學生時代からの友人なんだ」
「はじめまして、つばきです」
「あ、はじめまして――香月の!?」
湯川さん、まったく會話を進めてくれない。
そこまで驚くことがあるのだろうか……。
「だって、えっ、仕事、仕事のことしか考えないような奴が、婚約って」
「失禮な、そこまで人間をやめてはいない」
「だってまるで興味示していなかったじゃん、人間に……」
それは言いすぎだと思うんですけれど。
「つばきさん、だっけ。大丈夫? 放られていない?」
「い、いえ……良くしてもらっていますよ」
一緒に家で映畫見たりだとか、買い行ったりだとか。
なくとも、興味がなく放置されているとじたことは一度もない。気を使ってくれているのだろうかと心配になるぐらいに。
「いや、なんだろうな、意外だわ」
「なにが」
「だってさぁ……もうあの子探すのはやめたのか?」
さらりと出てきた「あの子」という単語に私はきょとんとする。
悠馬さんは誰かを探しているのだろうか?
彼は彼で、湯川さんの靴をこっそり踏んでいた。違う、結構大膽に踏んでいる。踵で。
「あいだだだだ」
「余計なことを言うな。ーー俺は今來たところだが、他に誰か知り合いには會ったか?」
「怒るなって。全然會ってないな、多分晝過ぎに來るんじゃないか?」
「そうか」
二言三言わして湯川さんと別れると、悠馬さんは私を振り向いて肩をすくめた。
「うるさいけど良いやつなんだ。うるさいけど」
「ふふ」
「?」
「仲の良い方だと思ったの。仕事相手の人と雰囲気が全然違ったから」
「そうか。仲が良いというか、なんだろうな……絡まれてるほうが正しくはある」
湯川さんには辛辣なところがあるらしい。
そこから何件か訪ねていき、同じように婚約者として紹介された。
……なんだか、仕事として挨拶に回っているというよりかは私のことを紹介するほうを重點にしていないだろうか? 自意識過剰だろうか。
私、あまり顔を知られたら困るのだけど……。主につばきが。かといって止めることもできない。
「連れてきてなんだけど、つばきさん退屈していない?」
不意に悠馬さんが不安そうに言う。
「ううん。テキパキ話す悠馬さんも、ご友人と話す悠馬さんも、なんだか新鮮で。だから退屈はしないよ」
「なら……いいけど」
そう言うと、悠馬さんは前を向いて首を掻いた。
……あれ、もしかして照れている?
「たくさんインテリアがあるから浮かれてて、つばきさん置き去りにしていないか心配だったんだけど」
あ、浮かれていたんだ。それは分からなかった。
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