代わり婚約者は生真面目社長に甘くされる》18

「……流石に悪目立ちするな……」

悠馬さんは周りの人たちの服裝を見、居心地悪そうに元のボタンをひとつ外した。

「スーツで水族館は合わないのかもしれない」

「ふふっ。悪いけど……いまさら?」

「館は暗めだからあんまり気にしなかったけれど、外に出ると……場違いさがすごい」

「気にしている人はいないから大丈夫だよ」

「そうか?」

すでにベンチは埋まり、私達は立ち見の場所からイルカプールを見下ろす。

悠馬さんは手すりにもたれかかりながらぽつりと言う。

「昔、遠足で水族館に來たことがあって。バカだったから先生の目を盜んで一番最前列でイルカショーを見たことがあるんだ」

「濡れた?」

「びしょ濡れ。先生にも親にも怒られた」

「あはは、わんぱくだったんだね」

「いやあ……後先考えない子供のほうが近いかもしれない」

「今の様子からじゃぜんぜんそう見えないよ」

「もうし思慮深かったなら――」

悠馬さんの言葉を切るように、彼と反対側の手すりにカツンと何かが舞い降りた。

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真っ黒な鳥。カラス。

「わっ!」

私の聲に反応してかガァとカラスが鳴く。

もちをつくと同時に悠馬さんは手を振って追い払った。

「大丈夫?」

「う、うん……」

いや、心は大丈夫ではないけれど……恥ずかしい。

視線をいくつかじたけれど、直後のイルカのダイナミックジャンプのおかげで注目はそれ以上されなかった。

「立てる?」

悠馬さんが手を差しべてくる。思わず私は、彼の顔と手を見比べてしまう。

もう子供ではないのだから自分で立てた。

だけども咄嗟に私は彼の手を握ってしまう。

大きな手。私よりも溫が高い。強く握られた手に引っ張られて私は立ち上がる。

「ここで売っている軽食を狙いに來ているみたいだ。賢い鳥だ」

「びっくりした……」

ばくばくと鳴る心臓をどうにか落ち著かせようとしながらため息をつく。

「どうしてか苦手なんだよね、カラス……」

「昔――襲われたとか?」

「うーん、多分。小さいころになにかあったのかもしれないけど覚えていなくて」

稚園で飼われていたにわとりに突かれたことは何度もあるが特に苦手意識はないし、鯉にエサをあげようとしてハトにたかられたこともあったけれどそれもどうってことはない。あれっ、鳥関係であまり友好的な関係を作れていない気がする。

だけどカラスだけはどうも無理だ。そこには理由があるはずなのだけど、思い當たる節はない。忘れてしまっているのだろうか。

「そう、か」

どこかのある相槌に私は首を傾げながら、私は肩からずり落ちたバッグを直そうとして気づく。

まだ、手を繋いだままだった。

「あ、ゆ、悠馬さん! もう手は放していいんじゃない?」

った聲で訴えると、彼はどこかいたずらっぽく笑う。

これ、気付いていたけれどわざと何も言わなかったんだ……!

「もうしこのままでもいいと思うけどね、俺は。まだカラスがいるかもしれないし」

「いやいや、もうどこか行っちゃったよ! それにほら、目立っちゃうじゃない手を繋ぐって…」

「気にしている人はいないから大丈夫だよ」

悠馬さんは逃さないと言わんばかりに力を込めてくる。

そうして困ったように眉を下げた。

「俺のわがまま。もうしこのままでいい?」

「……しだけだからね」

仕事の時の顔とはまったく違う表と聲音に私のペースはすっかりされてしまう。

いくらなんでも腑抜けすぎだろう、私……。これを本家に見られたらなんて言われるか分かったものじゃないのに。

……なのに、この手を振りほどきたくない。

まったくイルカのしていることが頭にらないままショーは終わり、私と悠馬さんは館へ戻った。手はまだ繋いだままで。

すれ違った老夫婦があらあらという目で見てきたので溫の上昇が留まるところを知らない。

「ショーの構が上手いね」

恥ずかしがっているのは私だけで、悠馬さんは涼しい顔だ。

クラゲの水槽エリアで彼は立て看板を読んでいる。

「あと五分後にここで短いショーがあるって。イルカの場所からここまで展示を見ながら進んで、たどり著く時間を計算してクラゲのショーを組んでいる。時間もデザインの一つか」

私には理解が出來ないところで納得と心をしている。

まあ、悠馬さんが楽しいのならそれでいいのだけれど。

ざわざわと集まってきた人に追いやられ、部屋の隅に流れ著く。どうやらどこにいても見ることができる作りらしいので特段文句はない。

しばらくすると注意事項を述べるアナウンスがり、ふっと照明が落とされる。

思ったよりも暗い。

音楽と共に水槽にスポットが當てられクラゲがくたびに輝く。

見とれていると隣で悠馬さんが「つばきさん」と囁いてきた。

どうしたのだろうと見上げると、ぼんやりとした郭の彼が近づいて來て――私のの端に、らかいものがれた。

「え」

え?

唖然とする間に手が離れる。

「悠馬、さん?」

クライマックスになり、いっそう大きくなる音響に私の聲はかき消される。

もしかして――キスされた?

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