《代わり婚約者は生真面目社長に甘くされる》21
手短にお風呂にり、恐る恐るリビングを覗くと悠馬さんがソファに座っていた。
私に気がつくと彼は「おいで」と手招く。こわごわ近寄ると、腕を引かれて座らせられた。
「楽しかったな、今日は」
私が予想していたどの臺詞とも違う言葉に、私はきょとんとする。
「え、うん……」
「いつも淡々と仕事の話をして、帰るだけだったから――事務的な外出ももちろん大切であるけれど、自分のしたいように外出するというのも大事だという事がよく分かった」
「あの……?」
「見ての通り、俺はだいたい仕事のことしか考えていない。その証拠に同棲を始めても帰りは君より遅い日が多いし、読みも共通の話題になりそうなものではなく仕事に関係することばかりだ」
確かにそうだったけれど。
だけれど、そんな悠馬さんのそばにいることが心地よかったのも確かだった。
話しかければ必ず目を見てくれる。會話のない靜けさが好きだ。適度な距離の中で私たちは暮らしていた。
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「なんていうのか。君の橫にいると、呼吸ができる」
長い瞬きのあと、悠馬さんは私に目を向けた。
「だけど君は、息苦しそうだ」
「……」
「俺は人を救うなんて大層なことはできない。頭の中にあるものを図案に書き出すことは得意だが、の中にあるを口にすることはどうしてこうも難しいんだろう」
ぽつぽつとこぼれ出るのは、懺悔だった。
私への懺悔。
「結局、行ばかりが先に出て君を困らせたと思う。それに関しては許してほしい」
「そんなこと……」
キスされたことは驚かなかったと言われたら噓になるけれど。
「……そんなに思ってくれていたの、知らなかった」
「君の悩みに比べたら砂粒程度にもならないよ。――つばきさん」
私たちの周りですべてのものがきを止めたように靜かになる。
耳にるのは、悠馬さんの聲だけ。
「君は誰?」
は、と肺から一気に空気が抜ける。
いつかは來る質問だって分かっていたではないか。そのための答えだって用意していた。
『本條つばきです』と。それ以外の回答はない。
無理だと分かっていても吐き通さなければならない噓を、平然とした顔で言うのだ。
「私は、ほんじょ……本條、」
がカラカラになっていく。
大切な実家。本家。融資。つばきの代わり。避けられない未來。
本名を口にすることなんて出來ない。
「――本條つばき。それが、私の……今の名前」
「そうか」
一瞬、悠馬さんの瞳に冷たいが宿った。
私はを固くさせたが、瞬く間にそれは消え去り後に殘ったのはいつも通りのらかなハイライトだ。
「じゃあ、その『本條つばき』の後ろにいる君に言うよ」
彼は私の手を握る。
「好きだ」
たった三文字。
なのに私の心を揺らがせるには充分だ。
「――そんな、噓ですよね? だって、分かるでしょう? 私は――悠馬さんを騙しているんですよ。ずっと、會った時から……」
「今は騙されていてあげる」
凜とした聲。そのなかには張りつめた強さがあった。
「でもいずれは、すべて明かしてみせる。君が嫌だと言っても、君が苦しんでいる原因を取り除くために」
「どうして?」
どうしてそこまでしようとするの?
考えをくみ取ったかのように、悠馬さんは耳元でささやいてきた。
「君をしているから」
ばくばくと心臓が暴れる。
、してるって!
そんなドラマでしか聞かないような臺詞をよく真顔で……あれ。
冷靜そうでいて、悠馬さんの手の溫度はあがっていく。恥ずかしいのは私だけではないと分かると何故だか可笑しくなった。
「……し損になるよ」
「損にはならない。絶対に」
「本當に?」
「どれくらい俺が君をしているか、言葉で信じてもらえないなら――実際に教えようか」
私が反応するよりも早く彼はを重ねてきた。
水族館の時のような啄むようなものではなく、深いもの。
直に彼の溫をじて頭がくらくらしてくる。このままが溶けてしまいそうだ。
呼吸が苦しくなってきたころに離れた。こんなにキスって気持ちいいものだったの?
「続きは俺の部屋でいい?」
とろとろとする思考の中で、まだどうにか殘っていた理で返事をする。
「部屋を暗くしてくれるなら……」
悠馬さんは微笑んで「分かった」と頷くと、私の手をひいた。
『それはつばきの役割だよ』と、心の聲がささやく。『裏切っていいの? 騙していいの? あなたはみんなを敵に回してしまうよ』とも続けた。
たしかにそうだ。見するわけないにしても、私が今からしようとするのは本家を裏切る行為だ。知られたら実家への融資がなくなるだけの話では済まない。最悪潰されてもおかしくないこと。
私を犠牲にするか、周りを犠牲にするか。
傷跡が痛む。
「戦うよ」
自分にしか聞こえないぐらいに小さな聲で呟く。
「好きだから」
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