代わり婚約者は生真面目社長に甘くされる》24 悠馬side

社長という肩書はどうにも仰々しい。

俺は一介のデザイナーでありたかったが、父親がを壊した時期もあり頼まれて継いだ形になる。々丸め込まれた気もするが、一方で気を使ってくれているのも知っていたのでそこまで反発はせず今の席にいる。

仕事が出來れば良かった。以前までは。

「これが昨日頂いた名刺だ」

け取ります」

數枚の名刺を寫真に撮りデータ化している書の東は俺の昔なじみだ。

表では俺の後ろにいるが、ふたりだけになると鋭い意見を口にしてくれるので助かっている。――どうにも、上の立場になると止めてくれる人間が減ってくるので。

「海外の方もいらっしゃっていたのですね」

「和風の家を目當てに來ていた。どのあたりまでを和と呼ぶのか聞いておけばよかったな」

「難しいところです。――ということは、ハッピースマイルインテリアの方もいたのですね?」

「ああ」

々くせのある和風家を作っているところだが、俺は好きだ。

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あそこで作られるものはらかさと鋭さが同居している。と、以前に東に言ったら理解できない顔をされた。

「驚いていたよ」

「訪ねてきたことにですか?」

「いや、婚約者がいることに」

東の手が止まった。何かあったのだろうか。

首を傾げつつ俺はメールチェックをする。ああ、この依頼はうまく行きそうだ。良かった。

「婚約者ぁ!?」

「話していたはずだが」

「あ、あの、無理やり縁談持ち込んできた本條家の娘さんだよな!?」

「そうだな」

「連れて行ったのか!?」

「東」

ドアを指さすと、彼は気付いたように慌てて鍵を閉めに行った。

そして俺のところまで戻ってくる。犬みたいだとなんとなく思った。

ともあれ、これで俺たちは『社長と書』ではなく『香月と東』という関係になった。仕事かどうかと言われたらプライベート寄りの話だと判斷したので。

「連れて行った。顔見せで」

「いやいやいや――香月、お前自分が以前に話していたことも忘れたのか?」

「覚えているよ。『つばきさんは何か隠し事をしている』って言ったことだよな」

どうにも消化できない部分があったので東に相談していたのだ。

どうしてだかよそよそしかったり、こちらの顔を窺っていたり。俺のことを嫌いならばそれでいいのだが、別の事が絡んでいるような気がしていた

本條は力技でのし上がってきた家だ。なにかしらきな臭い裏側はあると踏んでいたのだが。

「そんな怪しい、取引先に紹介しに行くか!?」

「怪しいが信頼は出來る」

「お前は何を言っているんだ」

人に興味はないが、悪意ぐらいは嗅ぎ取れる。

小さいころから當時社長だった父親に引っ付いて回った果だ。

「俺を騙して名譽やら金を目的にしているならすぐ分かる。だが、彼の場合は何かに怯えながら隠し事をしているようにじ取れた」

「そういうところは敏だから信じるけどな……。でもその何かっていうのはまだ分からないんだろう?」

「ああ」

「駄目じゃないか」

「分かったことはある。『本條つばき』は本名ではない」

「ん?」

東がフリーズした。この反応は予想していた。

「香月は――『本條つばき』と見合いをしたんだよな? 本家令嬢の……」

「そうだ」

「だけど、今香月と住んでいるは『本條つばき』ではないと?」

「そうなる」

「そうならねえよ……! 誰なんだよ、その人は!?」

頭を抱えている親友を見ながら、普通はこういう反応になるのだなと冷靜に考えていた。

薄々、つばきさんがつばきさんでないとじていたので明かされた時も「やっぱり」としか思っていなかった。

――むしろ、『本條つばき』ではなくてよかった。

「得の知れない人とよく暮らせているな……」

「かわいい人だぞ。料理もうまいし、気配りが出來る」

「惚気るな」

怒られた。

「……待てよ、本條家は知っているんだよな? その、つばきさんがつばきさんではないこと」

「多分そうだな」

「まずいって。香月をどうして騙しているかは知らないが、いわゆる偽を婚約者として差し出してきたことだろう?」

「しかも、目的としては香月と本條がつながりを持つためのいわゆる政略結婚だろう。そこに代理を出してくるのは……理解できない」

「意図が分からなすぎてホラーだろ、これ」

しつこいぐらいに縁談を持ちかけ、いざ本番になると『本條つばき』のフリをした誰かを連れてくる。

ここまで予想できないことをされるとどこかにドッキリの看板があるのではないかと疑ってしまう。

「考えられるのは、『本條つばき』が逃げたから仕方なく代わりを用意した……とかかな」

「香月、さすがにそれは無理な推理だと思うぞ。本當にしていたら本條は相當馬鹿だろ。俺が集めてるアメコミにかけてもいい」

大きいため息をついたあと、東は手元の名刺を見てなにか思い當たったようだ。

「そうだ! 免許証か保険証見て名前知ればいいじゃん!」

「……確かに思ったが、俺は出來ない」

「なんでだよ……。人の荷を漁れないと言っている場合か?」

「彼がなおも隠していたいなら、自分から話してくれる日まで待つことにした」

あの狀況で『つばきのふりをしている』までは話せても名前を言うことはしなかった。

はまだ、つばきを演じるつもりなのだ。

「後悔しても知らねえからな……。なにより香月は社員を雇うだ、下手なゴシップをとられて會社の信用を失ってしまうことも考えてみたほうがいいぜ」

「耳に痛い忠告をありがとう。そうだな、俺には分がある」

のままにいてはならない。

冷靜に、積み木を積み立てるように著実にかなければ。

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