代わり婚約者は生真面目社長に甘くされる》43

「うわすごいクマ!」

葉月が私の顔を見るなりんだ。

「どうしたの? 寢てないんでしょ」

「うん……」

小さい聲で応えると、葉月は眉を下げた。

「なにかあったんだね」

「……」

頷く。だけどもう話す気力もない。

這う這うので仕事に來たというのだ、そこで力を使い果たしてしまった。

朝禮を後ろのほうで聞き流し、席に戻ろうとすると伊勢さんがズイと鍵を差し出してきた。會議室Aだ。

「間島さん、本條さん。會議室使えます。二時間」

「え? でも私たち、會議することなんて……」

「いいから」

つばき嬢でしょ。伊勢さんは口パクで伝えてくる。

頭を縦に振るとため息をついて私たちの背を押した。

「……職権用では?」

用してなんぼですから」

それはどうかと思う。

が、もう何も言えずに私は葉月に引きずられて會議室Aへ向かった。

中にり、鍵を閉める。

葉月が椅子を並べて寢転がれるスペースを作ってくれたのでありがたく橫になる。

その隣に葉月が座った。

「私、そんなにひどい?」

「ゾンビかと思った」

「それはひどい……」

沈黙が落ちた。葉月は気を使って何も言わないでくれる。

悠馬さんはいまごろドイツについただろうか。

「ねえ、葉月……。これは友達の話なんだけどね」

「うん」

「本來見合いする子が逃げて、仕方がないから代わりに友達が出たの」

「……うん。続けて」

「それで、見合い相手の人と良い仲になったんだけど、そこに本來見合いする子が戻って來て、『そこはわたしの場所だから返して』って言うの」

「なるほど……」

「返したくないんだけど、どうすればいいかなって……」

「それが答えでしょ」

は腕を組む。

「返さなきゃいいのよ」

「でも、その友達はごちゃごちゃめんどくさい契約とかが……」

「その契約を潰しちゃいなさいよ」

すごい力技だった。

思わず言葉を失う。

「好きなら好き、それでいいでしょ。狀況が複雑だからその友達やらは混しているんだろうけど、シンプルに『好きだから離れません』でいいんじゃないの?」

「そんな単純な話?」

「あのねえ、沙汰って惚れた腫れたとはいうけど、底には『好きか嫌いか』しかないのよ。好きだって言うなら好きを押し通しなさい」

好きを押し通す……。

「そういうもんかなあ……」

「結婚相手と友達の関係は? 好き合ってるの?」

「うん」

「じゃあもう言うことなし。返さなきゃいいのよ。馬に蹴られてしまえってね」

なんだか葉月がいうととても簡単な事のように思えて、勇気が出てくる。

昨日つばきに大敗北をしてしまった私には耳が痛くもあるけれど。

『婚約者』である立場に縋っていたから駄目だったんだな……。私と悠馬さんは短いながらも関係を築いて、好きになった。それこそが、私の最大の武だというのに。

冷靜になってくるとまだもうし戦える気がしてきた。

……次は正一郎おじさんだろうけど。

「……その友達は、抱え込みやすいのね。馬鹿だと思う。きっと周りも苦労してる」

「かもね……」

「まあ、話してくれたから良しとするけど。ちょっと寢たら? 時間になったら起こすよ」

「うん……」

なんだか安心してしまって、眠気が襲ってきた。

――悠馬さんに會いたい。

私と一緒にいてほしいと、言いたい。

あの家は私と悠馬さんがすむ家で、彼は戻ってくると言った。だからあそこから私は出ていかない。

ずっと……。

「あやめー」

肩をゆすられて私は起きた。

「退室十分前。どう? 気分は良くなった?」

「うん、さっきよりはマシになった」

頭も幾分かすっきりしている。

「みたいだね。伊勢さんにお禮言っておきなよ?」

「うん」

起き上がると腰がちょっと痛い。即席のベッドだから文句は言えないけれど。

びをする。うん、どうにかこの後の仕事は頑張れそう。

「行き詰まったら相談しなさいよ、あやめ」

「そうする。ありがとう、葉月」

私たちは會議室から出た。

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