《代わり婚約者は生真面目社長に甘くされる》45
小さなの子が泣いている。
とても無視は出來なくて、近寄ってしゃがみ、その子の視線に合わせる。
「どうしたの? 迷子になったの?」
の子は首を振る。
彼が抱いているテディベアには見覚えがあった。試供品でもらったウェディングベア。
「おそかったの。もう、わたしはいらないの」
「どういうこと?」
聞き返した橫で、大きな歓聲が響く。
驚いてそちらを見ると結婚式が行われていた。教會から新郎新婦が出てくる。
つばきと、悠馬さんだった。
幸せそうな表でフラワーシャワーを浴びている。
「これでいい」
私の後ろで正一郎おじさんが言う。
「良くない。私は、私は――」
足元が崩れた。真っ逆さまに坂を落ちていく。
誰も私の手を取ってはくれなかった。
背中に走る痛みで目が覚めた。
ベッドから落ちたようだ。最悪な夢を見たせいで私の息は荒く、汗びっしょりだった。
しばらくそうしていると目覚ましが鳴った。
「そういう夢は求めていないんだけどな……」
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ゆっくりと起き上がり目覚ましを止める。
夢見が酷いせいで一日分の疲労を覚えていた。こういうのを見てしまう理由は分かるけれど、ストーリーが最悪すぎる。恐れていたバッドエンドをまざまざと見せつけないでほしい。
私だけしかいない空間、靜かすぎる空気の中でしばらく立ち盡くした後に気持ちを切り替えようとコーヒーをれる。
傷の痛みからするに雨が今日降りそうだ。天気予報を見れば當たっていた。折り畳み傘、會社に置いていたっけ。
悠馬さんからメールが屆いている。私からは、つばきが帰ってきたことを伝えていた。
【深夜には空港につきます。あやめさんも無理をしないでください。あなたに早く會いたいです】
最後の文面を見てわずかに力が抜けた。どんな顔をして書いていたのかな。
深夜ということは、早くて明日の朝には會えるということか。
……明日有給使ってしまおうかな。でも一か月前申請だから伊勢さんに絞められてしまいそう。いっそ仮病を使うとか。
それは會社に行ってから考えよう。
用意をしていると同棲して間もない時にもらったネックレスに気づいた。事務服を著ると隠れるし、お守りとしてに付けておこう。
「行ってきます」
ウェディングベアに聲を掛けて、私は家を出た。
「おっ、なんか決意に溢れている顔だね?」
葉月が私の肩を突きながら言う。地味に痛いからやめてほしい。
「葉月セラピストのおかげかもね」
「相談料は高いからね。ケーキフェスタ行きたい、ケーキフェスタ」
「ぼったくりじゃん……」
依然悩み事はあるけれど、一人ではないと思うと心強かった。
なにより悠馬さんが帰ってくるのだ。嬉しさと安堵を覚えている。
融資の件は、今日実家で話すとして――いつごろ本家から連絡が來るかなんだよね。
つばきには三日前の段階で一週間と伝えてあるけれど、それより早く彼は帰ってくる。そうなると、悠馬さんと話し合う時間はまだある。大丈夫だ、きっとうまく行く。
「本條先輩! ここどうすればいいんでしたっけ」
……その前に目の前の仕事をどうにかしなくてはいけない。
〇
終業時間を迎え、私はロッカールームで著替えていた。
葉月と里ちゃんが先に帰り、私もバッグを手にした時だった。マナーモードにしているスマホに著信がる。
……つばきからだ。
張しながら、すぐ近くにある休憩室にり込む。誰もおらず薄暗い。
生唾を呑みこみながら電話を取る。
「……もしもし。どうしたの、つばき」
『私だ』
思わず悲鳴がれそうになった。
正一郎おじさん!?
『いい加減、直接の連絡のほうがいいと思ってね。娘のものを借りている』
わざわざつばきのものを使わなくても、家の電話機からかけても良かったのでは……。そう手間は無駄だと判斷したのかもだけど。
「ど、どうしましたか?」
『明日には香月くんが帰ってくるそうだな』
「――え?」
どうして……。つばきもかえで君も、帰國の正確な日數は知らないはず。
私の疑問に答えるように、おじさんは続ける。
『香月くんの會社に問い合わせた。――海外出張とは聞いていなかったな』
「……いちいち報告することでもないと思いましたので」
服の裾を握りしめる。
息をしろ、あやめ。大丈夫、大丈夫だから。私はひとりではない。
『ふん、まあいい。つばきが帰って來た。これでめでたく君の役割は終了ということだ』
「……そう、ですね」
『いや、まだひとつ仕事が殘っているな』
なんのことだ?
あまりにも心臓がいて、耳の中で鼓が聞こえるようだ。
『香月くんに別れを告げなさい』
「……ッ!」
『騙していたことを詫びて、を引くんだ。どうせこの先會うにしても、わずかな時間だけだ。君の人生に影響は及ぼさないだろう』
「だ、騙していたのは――そちらも、ではないですか。おじさんは、どう言い訳するんですか」
正一郎おじさんは眉をひそめたようだ。電話越しでも分かる。
『いくらでも手はある』
「……」
『今日は本條の実家へ帰りなさい。もうあそこは君の戻るところではない。引っ越しの手配をしておこう』
いやだ、とべない。聲が出てこなくて、がひゅうひゅうと鳴るだけだ。
『明日の十時、私の家へ。香月くんも呼ぶ』
たぶんそこにはつばきもいるのだろう。
『その場で、別れなさい』
対面で。ふたりきりにもなれずに。
人のはそこまで単純ではないのに、彼はまるで簡単に言い放つ。
『期待しているよ』
私は暗がりでいつまでも電子音を聞いていた。
傷が痛くて、痛くて、たまらない。
それからどうやって実家に戻って來たのか。
出迎えた母親が驚いた顔をしていたのまでは覚えているけれど、次の瞬間には朝になっていた。私の部屋だ。
始業時間五分前。普段なら大慌てだけどが一切かない。しばらくぼんやりとした後、緩慢な作で會社に電話を掛ける。
「調が悪いので休みます」
伊勢さんが何か言っていたが、頭にぜんぜんってこなかった。
著信がおびただしいほどにっている。悠馬さんからだ。気付かずに寢込んでいた。
メールも屆いていた。
【なにがあった? 連絡してほしい】
そんな容がいくつか。かえで君からも來ている。
【香月さんが心配していた。連絡してあげて】
し迷った後に、電話を掛けた。
留守番サービスに繋がってしまった。寢ているのかな。何を吹き込んでいいか分からず、そのまま切る。
「あやめ、起きた?」
母親が顔を覗かせる。
「お母さん。仕事は?」
「わたしは休みよ。あやめも今日は――」
「うん、もう休みの連絡をれた。だけど本家にはいかないと」
時間ぴったりにつくわけにはいかない。
し余裕を持たせるなら、もう用をしなければ。
「……そんな調で? 顔面真っ青よ」
「だって、これでお終いだもの。どんな顔していてもやるべきことはやらないと」
ぐらついているのは視界だけではなく、心もだ。
私の手から悠馬さんが離れていきそうな覚が、恐ろしい。
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