代わり婚約者は生真面目社長に甘くされる》47

――言ってしまった! けど、不思議と達がある。

つばきとおじさんは目を剝いて私を見た。

「お前…っ」

おじさんはお客さんの前だという自覚はあるのか、怒気は含めこそ怒鳴りはしてこない。今は。

思わずを強張らせていると、悠馬さんが肩を震わせた。

「ふ、ふふっ」

「ああ、失禮した。どうやら勘違いをしているようで……」

「いやいや。安心しました。――今まで俺が一方的に好きなのではないかという不安があったので」

「は?」

「もう一度言いましょうか? 俺は、本條あやめさんが、好きです」

ゆっくりと悠馬さんは繰り返した。

ちょっと恥ずかしい……。

ハトが豆鉄砲食らったような顔とはこのことだろう。つばきもおじさんもぽかんとしており、すぐには頭にってこないようだった。

「なので、本條つばきさんとは結婚しません」

朗らかな口調で、彼は言い切った。

「何を言って……!」

「あくまでも父が頼まれたのは『見合いをしてくれ』ということのみ。『本條つばきさんと結婚してくれ』などとは一言も言われていないとのことでした」

抜けをすり抜けていくなあ、この人……。

「そもそも婚約破棄も珍しくない世の中ですからね。ぜったい結婚しなくてはいけないというわけではないですよ」

「ではなぜ、婚約をけた!?」

「彼に一目ぼれしたので。ああ、見合い寫真ではなくて、実際に會ったあやめさんにですよ。それもずっと前」

……それって、あの、パーティー會場で會った時のこと?

聞きたかったけれど、今は口をはさむべきではないだろう。

絶句するおじさんへ悠馬さんは畳みかける。

「さて、この話は終わりで良いですか? 次はビジネスの話をしましょう。し頑張ったので、聞いてしくて」

ビジネス……?

それは私含めて全員思ったようだ。

「おいで」

悠馬さんに手招かれて、そっと彼の橫に座る。

二人の目が怖いので悠馬さんの手だけをじっと見ることにした。

彼は手際よく書類を出し、機に並べていく。

「これは、なんだ……?」

「海外でブライダル関連の計畫にわれまして。有難く參加させていただくのですが、問題が一つあったのですよ」

「問題?」

「日本のブライタル會社を必要としていましてね。日本人需要も高まっている昨今ですから、私もいいところがないか探していました」

「――まさか」

ビジネススマイルを悠馬さんは浮かべている。

「『たまたま』見つけたのですが――本條ブライタル會社。ホテルグループと同じ系列だったなんて知りませんでしたよ」

「業務提攜をしたのか!?」

「はい、こちらを見て頂ければ分かります。おや? 何か不味いことでも?」

「勝手に提攜を……」

「ちゃんとブライタル會社の社長にアポイントを取り、契約して業務提攜しましたから法律違反なんてしていませんよ。そちらも、まさか獨占していませんよね? それはないですよね、獨占止法に引っ掛かりますから」

おじさんは私をものすごい形相で睨みつけた。

「自分のことを話したのか!」

「落ち著いてください。なんですか? もしかして、彼の実家がそのブライタル會社なのですか? すごい偶然ですね」

し、白々しい……。

「彼、なんにも話してくれませんから……。知っていたならあなたを通してお話していたかもしれませんけど」

悠馬さんはにこりと笑うが、その目は一切笑っていない。

おじさんは完全に言葉を失ったようだった。

「話は以上ですか?」

「……」

「では、失禮させていただきますね。あやめさん、行きましょう」

「あっ……うん」

「ちょっと!」

我に返り、聲をあげたつばきへ悠馬さんは冷ややかな目を向ける。

「つばきさん、おを大事になさってください。長旅でお疲れでしょうし」

手を引かれ、私たちは和室を退室する。

し離れたところでかえで君が立っていた。面白くてたまらない顔だ。話を聞いていたのかな。

彼は無言のまま悠馬さんに拳を見せる。悠馬さんも拳を作り、コンとぶつけた。

「お気をつけて。またね、あやめちゃん」

おばさんが玄関口にいた。

「はい。……荒れるかもしれませんが」

「良い薬よ」

見送られ、外へ出る。

悠馬さんはタクシーを呼んだ。

「……」

「……」

私と悠馬さんは無言で互いの顔を見つめ合った後、笑う。

「おかえりなさい」

「ただいま」

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