《代わり婚約者は生真面目社長に甘くされる》48
「やっと我が家だ……」
張りつめた空気を解き、スーツをぎ捨てるとぐったりと悠馬さんはベッドに寢そべる。私は彼の傍に座った。
「帰らなかったの?」
うっすらと開いたカーテンから侵するの帯を眺めながら私は聞く。
「とりあえず帰國して空港のホテルに泊まって、寢ないで書類まとめて……そこからブライダル會社行って、簡単に話し合いをして捺印してもらって本條家に駆け込んだ」
「い、忙しい……」
想像するだけで目がまわりそうになるハードスケジュールだ。
しかも本條家での集まりは午前だったことを考えるとぎちぎちに詰まっている。
「あ、そうだ。私の実家がブライタルだってなんで知ったの? 言った覚えがないんだけど……?」
「最初、見合いをする前に本條系列グループはあらかた調べていたよ。その中でブライタルがあるのも見たけど――その時は気にも留めなかった。転機は、あやめさんがあのぬいぐるみの持ち主だって思い出した時だ」
「どういうこと?」
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「父さんが昔、ぬいぐるみを見て試作品だと言っていた。きっとそういう関係者から貰ったのかもしれないって――。それで、本條家とウェディングベア、そして君が結びついた。きっとブライタル會社の関係者だろうって」
関係者どころか娘だったわけで。
「その後に君が溢した『業績が云々』ってことから考えるに、ブライタル會社はホテル會社に弱い関係であり、人質的に君が差し出された――と、考えた」
「やっぱ聞こえていたんだ……」
「まあね。でも、それでようやく得心がいった。つばきさんの父親に逆らえない理由が」
……。
水面下でそこまで考えていただなんて気づきもしなかった。
自分のことでいっぱいいっぱいだったから。
「そこで考えたんだ。じゃあ、逆らっても大丈夫なようにしようって」
「悠馬さん、時折力技で解決しようとするよね……」
「これでも外堀は埋めていったほうだよ。ブライタル會社に行って社長――あやめさんのお父さんに説明して協力してもらったり」
「え!? 來たの!?」
「行ったよ」
……もしかして社が『イケメンが來ていた』って騒いでいたあれか!
タイミングよくまったく會っていなかったから、ここに至るまで知らなかったけれど!
「今朝は相手方にもいろいろ書類を作してもらっていたからけ取りに行ったんだ。予定より早かったけどしっかり揃えてくれていて助かった」
「でもお父さん、そんなこと一言も……あ」
私が電話したときお風呂にっていたし、実家で話そうとしていたのに私が寢込んだから結局そんなことを言うチャンスがなかったのでは?
あそこまで心をされていなければ平常心で本家に乗り込めたのに……!
「あやめさん、本家と結んだ取引をご両親にも話していなかったんだね。抱え込み過ぎだよ」
「う……」
「でもあやめさんのお父さんは察していたよ。だからこそ行が早かった」
悠馬さんがネクタイをサイドテーブルに置こうともがいている。
ここまで橫著しているのははじめてだ。よっぽど疲れているのだろう。代わりにハンガーにかけた。
「ありがとう。――歴史のある企業グループに、親子二代で立ち上げた會社がビジネスをもちかけても下に見られかねない。いくら海外に出るチャンスだとしてもね」
どこか苦々しい言い方なのは過去にそのようなことがあったのだろう。
そうなると予測していても、悠馬さんは立ち向かった。
「でも、彼は丁重に話と提案を行い、最終的には契約してくれた。會社を守るというよりかは、君を守るためのきだったから、なおさら俺は負けるわけにはいかなかったんだ」
「……そんなに裏でいていただなんて」
「足りなかったぐらいだ。無事に終わって、本當に安心している」
彼は私に手をばしてきた。橫に寢そべると、優しく頭をでてくれる。
それから前髪を掻き分けて額にキスをした。
「なにより最後は君の意思次第だからね。あんなに熱烈で大膽な告白されるとは思わなかったけど」
「も、もう! あれは必死だったから!」
自分でもあんなに大きい聲が出るとは思わなかったのに!
下手すれば近くに待機していたかえで君やおばさんにも聞かれていたのかも。ああ、もうあの家の敷居またげない……恥ずかしすぎる。
「はは。すごく嬉しかった。俺だけがこんなに好きなんじゃないかって心配だったんだ」
「……ごめんね。どうしても私、セーブかけてて」
「これからたくさん言って」
「言うよ。いっぱい」
ようやく、私たちは手にれたのだ。
誰にも遠慮しなくていい関係を。
もう、つばきの影に、本家の聲に怯えなくてもいい。
堂々と手を繋いで、笑いあえて、好きなところに行ける。
「悠馬さんのこと大好き。かっこよくで優しい、私の自慢の人」
「……あやめさん」
「ご飯作るときにフライパンをゆする仕草も、コーヒー飲んでる時の橫顔も、大きな手ででてくれるのも全部好き」
「ちょっと待って」
「なんで?」
口元を覆いながら悠馬さんは目を泳がせる。
面白いほど照れていた。
「キャパオーバー。小出しにして」
「無理だよ、いままでため込んでいた分全部出しちゃうんだから」
「これは……想像以上に恥ずかしいな」
じゃれ合ううちに、次第に言葉がなくなっていく。
「……眠い」
「寢ようよ。悠馬さん、寢ていないんでしょ? すごく張しただろうし……」
「怖くて」
悠馬さんはぽつりとつぶやく。
「……起きた時に、俺はまだ一人暮らしで、あやめさんはいなかったらどうしようって考えてしまって。これが――まだ現実がないんだ」
「夢ではないよ。夢にもしない」
抱き付いて、彼のに顔を埋める。
「あなたの聲が屆く場所に、私はいるよ」
返答はない。代わりに、私の頭に顎を乗せる形で悠馬さんも抱きしめてきた。
あたたかい。
彼からじる溫が、この數日間のささくれた気持ちをでつけていく。
「おやすみなさい」
どちらが先に寢たのだろう。あるいは同時だったのかもしれない。
私は夢を見なかった。ただただ幸福な気持ちで、眠っていた。
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