代わり婚約者は生真面目社長に甘くされる》52

「詳しくは今度教えてもらうとして、結婚おめでとう」

正式に婚約したと伝えると、葉月はからりとした態度で祝ってくれた。

場所は子トイレというなんともムードに欠けたところだけれど、人のいないところでまず葉月に報告したかったのだ。

この二ヶ月、だいぶ迷をかけてしまったので。

「ええーっ!? 本條先輩、社長の娘なんですか!?」

なぜか里ちゃんもいるが。

「聲が大きい!」

葉月が里ちゃんの口を押さえつける。

子トイレでよかった。さすがに休憩室でばれたりしたら々大変だ。

「なんで今まで言ってくれなかったんですか!?」

「隠すつもりはなかったけどオープンにするつもりもなかったからね……」

「ずるい!」

なにがずるいのか。

本條姓だし勘の良い人なら察していると思うけれど……。

楽に社したみたいなけ取り方をされても文句は言えないのだけどこれには訳があり、ちょうど私が大學を卒業する年に事務職員が産休や退職と怒濤の人員不足に陥っていたのだ。私は事務まわりの資格を持っていたので落ち著くまでは手助けしようとしたらここまで來ていた。

同期には明かしているので葉月も當然知っている。

「やり辛いでしょ? 社長令嬢が近くで働いていると。ちやほやされたくもないから黙っていたの」

「わたしはちやほやされたいですけどねえ……」

「今度存分にちやほやってやるわよ。でもいいの、あやめ? これから先あなたがやりにくくならない?」

葉月は心配そうに聞いてくる。

「大々的に言わないとしても、他の部署では態度が変わるのだっているはずよ」

「そうなんだろうけどね……」

社長令嬢に目を使って來る人が居てもおかしくはない。

これまでと同じようにはいかないこともあるだろう。だけど、私はこのまま仕事を続けることを選んだ。

私は私、悠馬さんは悠馬さんだけの世界を持つことも大事だと思って。いやまあ本心としてはずっと一緒にいたいのだけれど。

「本條ブライダルで結婚式することにしてるから、そこで明らかになるよりはいいでしょう?」

「ここの會社でやるの?」

「さすがに他所ではやれないよ。社長令嬢が他のブライダル會社に依頼しましたっていうのは私じゃなくても問題すぎない?」

これは悠馬さんと話し合って決めたのだ。

條件としては本家に口出しをさせないことだけど元よりそのつもりはない。だって私達の式なのだから。

「大変なんですねぇ、本條先輩……」

「これまでのこと考えたら全然だよ。……この二ヶ月間、迷かけてごめんね」

「本當に。緒がジェットコースター並みに上がったり下がっていたりで心配したし」

「うん……」

それは自覚しているのでなんとも言えない。

よく乗り切ったものだ……。

「この前だってハラハラしていたんだからね、いきなり休んじゃったから」

「それは申し訳ない」

「いいのいいの。ハッピーエンドになったなら、ね」

うん、と私は頷く。どんな終わりになるか分からなかったけれど、きっとこれは紛れもなくハッピーエンドだ。

「違いますよぉ」

ちゃんが口を挾む。

「エンドではないでしょう? ここからハッピーが続いていくんですよ。だからこう……ネバーエンディングストーリーみたいな」

「いきなり壯大になったわね……」

「ふふ、でもそうだね、エンドではないね」

そうだ。これはまだ始まりなんだ。

幸せになるための長い長いプロローグが終わって、幸せになった次の話に続いていく。

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