《ただいま冷徹上司を調・教・中・!》っていったいなんなんだ?(8)

「ふざけんじゃないわよ……」

私の彼だったから興味を持ってって裏切って、それで付き合う気もないから捨てるだなんて。

このはいったい何がしたいんだ。

「ふざけてないわ。私は千尋のこと好きよ?今でも友達だと思ってる」

「友達?笑わせないで。こんなことしといて友達だなんて、よく言えるよね」

「だから違うんだってば。私の大好きな千尋のことだもの。吉澤さんには他の人にはない何かがあることを見抜いて付き合ってるんだと思ってたの」

私の中の怒りが、梨央のこの一言でしづつ沈下していく。

それもそのはず。

何かを見抜いたどころか、大した魅力も見いだせないままズルズルと二年半も付き合っていたのだから。

「傍から見てても吉澤さんの魅力なんてわからなかったし。付き合えばわかるかもしれないけど、そんなつもりももないし。だったら寢ればわかるかなって思って」

梨央の言っていることはめちゃくちゃで、當然理解できるものではない。

なのにどうしてだろう。

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なんとなく納得してしまいそうになっている。

「でもやっぱりわからなかったわ。頭は詰まってなさそうだし、えば形だけの拒否しかできない。セックスだって単調で自己中心的。ただのスポーツみたいだった」

そう、彼は押しに弱いし、先を見通すことができないし、営みは一人で勝手に進めて終わる。

「いくら私でも、アレには二度としないわぁ」

なんだろう……。

今までの自分がけなくなってきた。

今までの二年半が梨央の言葉でガラガラと崩れ落ちていく覚に襲われた。

こうも的確に突かれてしまっては、何をどう言い返したらいいのかもわからない。

「ダメねぇ、千尋は。本當に男を見る目がないんだから。今度私が紹介してあげるから待ってて」

「嫌よ。どうせ梨央のお下がりでしょ。興味ない」

こういうは絶対に、自分の気にった男を知り合いになんて渡さないんだ。

「とにかく私はもう吉澤さんとは関係ないから。あとは勝手にして」

これ以上ここでこのと話したくない。

私は梨央を橫切り、給湯室を出た。

「関係ないなら今回のことは水に流してね。私達も今まで通りで」

背中から明るく聞こえた梨央の聲に、私の怒りはとうとう頂點に達してしまった。

「冗談じゃないわよ!」

給湯室を出て右に曲がれば、そこはもうエレベーターホールだ。

いつなんどきエレベーターが開き、人が出てくるかもわからない狀況。

普段ならばそう冷靜に判斷できたのかもしれないが、今の私の心的にそれができるはずなんてなかった。

私はその場で振り向き、梨央に向かって真っすぐ指をさした。

「アンタのお手付きなんて恵んでもらわなくても、男になんて困ってないし、アンタみたいに人のモノしがるくらい飢えてない!自分がどれほど上だと思って言ってんの!?」

息も付けないほどの早口でそう言い終わると私は大きく酸素を補充した。

梨央は毎回毎回いつも自分が全て勝っていると勘違いしているだ。

どんな小さなものでも、自分に無いものを人が持っているということが許せない。

それが奪えるものならば奪ってしまえば、優越を味わう事ができ優位に立てる。

そんなことばかりに能力とを使うようなだったんだ。

そんな人間の汚い手になんて負けたと思いたくない。

私の捲し立てに唖然としていた梨央だったが、はっと我に返ったのか、意地悪そうにニヤリと笑った。

「へぇ。言ってくれるわね。面白い。次に千尋がどんな男を手にれるのか、楽しみにしてるわ」

「吠え面掻かせてやるから覚悟すんのね」

フンっと鼻で笑って勢いよく梨央をその場に殘し、右手のエレベーターホールに向かったところで。

「……あ」

も思考もピタリと停止した。

靜まり返ったエレベーターホールで、困った顔をしながら腕を組みこちらを見ているその人。

彼はいったい、いつからここにいたのだろう。

「立ち聞きしてたわけじゃないぞ?久瀬の聲がデカくて丸聞こえだっただけだからな」

若干焦り気味にそう言ったのは、事もあろうに直屬の上司である平嶋課長だった。

見ず知らずの人に聞かれるのも嫌だけれど、毎日顔を合わせる上司に聞かれるのも最悪だ。

會社で男のことでタンカ切る

そんな風に思われてしまったかもしれない。

「……聞き苦しいものをお聞かせしまして……すみません……」

バツが悪くて俯き加減に小さくそう言ってみる。

「いや……なんかスマン」

平嶋課長から逆に謝られてしまうと、途端に何だか慘めな気持ちになってきた。

「今日はもう帰れ。お疲れ様」

平嶋課長は何とも言えない雰囲気から逃れるように、そそくさとその場を立ち去る。

そんな平嶋課長の背中に向かって、「お疲れ様でした……」と呟くように返したが、その言葉は消えるように小さくて、果たして課長に聞こえていたかはわからない。

のろのろとエレベーターの橫の階段を下り始めて……。

私の頭にとんでもない名案が浮かんでしまった。

踴り場で私の足はピタリと止まる。

これが可能ならば、人の彼氏を寢取るのが趣味なの鼻をへし折ることができるかもしれない。

これができるなら、あの大した取り柄もないくせに浮気だけは1人前にこなした男のプライドを砕できるかもしれない。

あくまでも私にソレができるならだが。

誰もが羨むほどの高スペックの持ち主で。

誰もが見惚れるほどの容姿を持ち。

誰にも靡かない男らしい男。

……いるじゃないか。

私達三人の近に完璧な男が。

あまりにも難攻不落すぎて、もはや誰もチャレンジしようとすらしなくなった男が。

平嶋凱莉、35歳、獨、役職課長、冷徹上司。

この高き壁を打ち破り、彼を手にれるほか、私があの二人を完なきまでに叩きのめすはない。

平嶋課長を落とす方法なんて何も思いつかないし、わせるだけの魅力がないのもわかってるけれど。

私もだ。

気はないが、付いてるものは付いてるし、付いてないものは付いてない。

可能はゼロではないはずだ。

まずは平嶋課長と親しくなるとこらから始めよう。

チャンスは週末の歓迎會だ。

絶世のイケメンなんて苦手なタイプではあるが、確実に一歩づつ近づいていかなければ。

とにかく平嶋課長と人が羨む仲になればいい。

長期戦になるが地道に関係を深めていこう。

私は小さな目標を心に決め、會社を後にした。

この時の私は、これから何が起きるかなんて、想像すらできなかった……。

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