《ただいま冷徹上司を調・教・中・!》始まりは意地と恥(1)

深い眠りから覚めてゆっくりと瞼を開くと、見慣れない天井が私を見下ろしていた。

焦ってベッドから飛び起きようとかすと、襲ってきたのは激しい頭痛と微かな吐き気。

「うっわ……最悪……」

さすがに昨日は飲みすぎてしまったという自覚はある。

何度か紗月と瑠ちゃんに止められたというのに、昨夜は調子が良かったというか、悪かったというか。

がアルコールをし、どんどん吸収していった。

そして最後には……。

最後には……?

「……どうなったんだっけ……?」

飲み會の途中までの記憶は殘っているけれど。

「思い出せない……」

そして思い出すのも恐ろしい……。

何せ狹い部屋に置いてある白くていベッドの上で、下著姿のまま眠っていた自分の経緯だなんて。

私は思わずベッドの上に突っ伏した。

「思い出せないなら思い出させてやろうか?」

「ひぇっ!」

聞き覚えのあるイイ聲に、背筋が震えた。

ゆっくりゆっくりとを起こして顔を上げると、私は眩暈を起こしそうになってしまう。

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「夢ですか……?」

無意識にそう呟くと……。

「俺はこんな夢を一緒になんて見たくない」

洗面所らしき所からそう言いながら出てきたのは、端正な顔を迷そうに歪めている平嶋課長、その人だった。

こんなとき、なんと言ったらいいんだろう。

私の人生の中でこんな経験は一度もなく、當然なにが正しいことなのかの判斷がつかない。

けれど一番気になることは。

「あの……私……平嶋課長にご迷かけちゃいました……?」

恐る恐るそう聞くと、平嶋課長はとても深い溜め息をついて、ベッド脇の椅子に腰かけた。

「久瀬……」

「……はい」

「お前はこの狀況を見て、俺に何一つ迷をかけていないと思えるのか?」

眉をしかめて無造作になってしまった髪をかき上げながら、平嶋課長は長い足を組んだ。

「思いません……」

「だろうな」

平嶋課長の視線は鋭くても気があって、恐ろしいほどの破壊力だ。

きっと何人ものがこの視線の虜になるに違いない。

だから私は平嶋課長が苦手なんだ。

「ご迷をおかけして、本當に申し訳ありませんでした」

いろんなことが気になるけれど、なにをどう迷かけたのかなんて聞けやしない。

たとえ下著姿であったとしても、自分のの変化くらいはわかる。

どうやら私と平嶋課長はいたしていないらしい。

平嶋課長を襲ってしまったとあっては切腹ものだ。

いたしてないだけでもよしとしなくては。

私はそう自分を納得させることにした。

「そう不安そうな顔をするな。俺達は何もない」

「それは心配してません。私なんかに手を出すほど平嶋課長は飢えてないとわかってるので」

私がそう言うと、「なんだその理屈は」と平嶋課長は頭を抱えた。

平嶋課長は先ほど出てきた洗面所に向かい、バスローブを取ってきてくれて私に渡してくれた。

「ありがとうございます」

私がノロノロと袖を通して前を結ぶと、平嶋課長は椅子に座って邪魔になりそうなほど長い足を組む。

「お前、どこから覚えてないんだ?」

「どこからって……」

あらたまってそう聞かれると、一いつからなのだろう。

平嶋課長に対する梨央や社員陣のあからさまなアプローチに付けるスキがないことを悟り。

和宏の私の顔を伺うような気持ちの悪い視線にウンザリして、段々とイライラして、紗月さんと瑠ちゃんが止めるのも聞かずに飲み続けてしまった。

その結果、飲み會開始一時間を過ぎた頃には既にフラフラになったのは覚えている。

帰りの方向が同じ瑠ちゃんが私を家まで送るからという話になっていたのも、なんとなくは覚えている。

けれどどうして今この狀況になっているかの記憶は……。

「潰れてからは覚えてません……」

ガックリと項垂れると、平嶋課長は「はぁぁ……」と眉間を摘まんで溜め息をついた。

「歓迎會のお開き間近に席を立ったら、お前はフラフラしながらトイレから出てきてぶっ倒れそうになってたんだ」

……自分のことなのに、お手洗いに立ったことすら覚えていない。

「何とか支えたら、お前は突拍子もないことを言いながら、そのままぶっ倒れたんだよ」

勝手に夢だと思い込んでいた超絶イケメンのイケボは、平嶋課長だったのか……。

いくら気分が最悪だったからといって、上司に迷をかけてしまうなんて最低だ。

……けれどそれがどうしてこんな狀況を生み出してるんだろう。

私が倒れてしまったのなら、紗月さんか瑠ちゃんに託してくれればよかったのに。

「相田か安松に聲を掛けようかとも思ったんだけどな」

「そうしていただいた方がよろしかったかと……」

「そうすると泥酔したお前を皆に曬すことになるし、何より植村にそんな姿を見られたくないだろうと思っての判斷だったんだが……。余計なお世話だったか?」

……そうだった。

平嶋課長には聞かれたくもなかった梨央とのアレコレを聞かれていたんだった。

「お気遣いいただいて……ありがとうございます……」

みっともないことだけど、梨央に知られなかったことは本當に有難い。

あの場で潰れた私を見たならば、きっと傷心した私が紛らわすために飲み過ぎて潰れた、と解釈されるに違いないから。

「相田に久瀬の荷もらってタクシーに乗せようとしたけど、考えたらお前の家なんて知らなくてな。そのままにもしておけず、このビジネスホテルに連れて來たってわけだ」

……平嶋課長、一杯のお心遣い、痛みります。

「相田には久瀬の狀況を説明せずに荷もらったから、後でちゃんと説明しておけよ?」

「わかりました。でも課長。わざわざ朝まで一緒にいてもらわなくても、置いて帰ってもらってよかったんですが……」

ポツリとそう言うと、平嶋課長はげんなりとした表で私を見つめた。

平嶋課長は會社ではあまり表を崩すことがない。

なのでこんなに多種類な表を見るのは初めてだ。

とはいっても、決していい表ではないのだが。

「俺が朝まで久瀬と一緒にいることになった理由は、できれば語りたくない」

ふいっと視線を逸らす平嶋課長が心底嫌そうなのはわかる。

けれどホテルの一室で下著姿のまま上司と朝まで過ごした理由は、にとってうやむやにはできるはずがない。

「平嶋課長が語りたくなくても、私は語ってもらわなくちゃ困ります。見ての通り、私も立派ななので」

下著姿のままベッドに寢ていたということは、私の服をがせたのは間違いなく平嶋課長だ。

ということは……見られたということでしょう?

だったら説明責任を果たしてもらわなくては。

強気な視線を向けると、平嶋課長は観念したかのように肩を竦めて組んだ足を戻し、椅子に深く座りなおした。

「俺も久瀬をベッドに運んだらすぐに帰ろうと思ってた。でも、それができなかったんだ」

眉を寄せ目を伏せた平嶋課長のフェロモンが恐ろしくて、私は思わず固唾を呑んだ。

もしかしたら私……夢と現実がごっちゃになってしまって、ってしまったんだろうか。

最後までヤッてなくても途中までとか。

「ベッドに寢かせようとしたら、お前がいきなり俺のスーツの元を摑んで……」

やっぱり……私が襲ったのか……。

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