《ただいま冷徹上司を調・教・中・!》始まりは意地と恥(7)

だから……と平嶋課長は短く溜め息をつきながら眉をしかめる。

「ランチはしたがデートではない、ということだ」

おいおい、したことを認めちゃうのかよっ。

心の中で思わずツッコミをれてしまった。

「じゃ、それ以外の噂は本當だってことですか……?」

まさかねぇ?と代わる代わる呟く五人に向けて、平嶋課長は顔を背けて溜め息をつく。

「訂正する箇所はそれだけだが」

さらりと言ってのけた平嶋課長の前で、五人の子社員も含め、通りすがりの社員たちの足も止まり、中には小さく悲鳴を上げる者もいた。

むろん私だってその中の一人だ。

平嶋課長が何を考えてこんなに素直に認めるのかの意図がわからない。

この人はなにを馬鹿正直に答えてしまっているんだ?

もっとうまく立ち回ることができるはずじゃないか。

紗月さんと瑠ちゃんとの三人で視線での會話をするが、三人とも答えが出ずにうろたえるばかりだ。

「ちょっと待ってください!平嶋課長と久瀬さんは付き合ってるってことですか!?」

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いやいやいや、ちょっと待って。

「そんなことを知ってどうするんだ?そもそも俺と久瀬がどういう関係であろうと、他人には関係のないことだろう?騒ぎ立てられるのは好まない」

好まないんだったらきっぱりと否定していただきたい。

平嶋課長に任せていれば今日中に噂は綺麗サッパリ消え失せて、何事もなかったかのように落ち著くと思っていたのに。

「人の噂の本當か噓かを気にする前に、自分の仕事の確認でもしたらどうだ?」

そう言い殘して颯爽とその場を去って行ったが、殘された私達はその場に固まってしまってくことができなかった。

當然のことながら、お晝休み中にこの件は全社員に広まるところとなった。

晝休みに給湯室前という場所であんな話をすれば、そうなることも納得だが。

平嶋課長は晝から営業に出てしまったので、社員の視線を獨り占めしているのは當然私だ。

確かに梨央や和宏を見返すために、平嶋課長を巻き込むことを企てたわけだけれど。

こうなったらなったで頭を抱えてしまう。

冷靜になって思い起こしてみれば、私は平嶋課長が苦手だったのだ。

的な容姿も、仕事に対する姿勢も、冷たいけれど面倒見がよくて人が厚いところも、全てが完璧すぎて逆に胡散臭い。

こんな人を好きになってしまったら、一瞬にして不安が勝り怖くなって重いになりすぐに裏切られるに決まっている。

あくまでも私の勝手な想像だけれど。

なのにこんな噂が広がってしまって、私はなにをどうしたらいいのかわからなくなった。

そんな私に追い打ちをかけるかのように、就業時間後に梨央から線で呼び出されてしまった……。

もう本當に私に関わらないでいただきたいんだが。

溜め息をついた私に小さくエールを送り、紗月さんは帰ってしまった。

ちゃんも心配してくれているけれど、こればっかりはどうする事もできない。

梨央の件は自分自で決著を付けるしかないんだ。

間違いなく梨央の要件は和宏のことではなく、平嶋課長のことだろうから。

仕事が先に終わりデスクを片付け帰りの用意をして席を立つと、瑠ちゃんは眉を寄せて私を見上げた。

「千尋さん、怯まないでくださいね。平嶋課長が完全否定をしなかったのは、千尋さんにとってある意味チャンスです。千尋さんも否定せずに上手くわす、が得策ですよ」

そう力を込めて言われると、私もそう思えてきた。

平嶋課長と比べたら、和宏なんてお末な男だ。

きっと私が平嶋課長と噂になったことで、また梨央の興味と闘志を刺激してしまったに違いない。

それならそれで、このまま梨央に負けたと思ってもらっていた方が気分がいいというものだ。

「わかった。絶対にボロは出さないように上手くやる」

自分にも言い聞かせるかのように大きく頷くと、瑠ちゃんは力強くガッツポーズを見せてくれる。

「余裕の表が崩れたら負けですからね」

「思いっきり鼻で笑ってやるわ」

「その意気です。頑張ってくださいね。お疲れ様でした!」

「お疲れ様でした。行ってくる!」

ちゃんにつられて私も小さくガッツポーズをし、周りに挨拶をしながらフロアをあとにした。

気は重いが何故だか足は軽い。

やはり梨央の知らない平嶋課長を知っているという事実があるからだろうか。

スマホを取り出すと梨央からのメッセージを見直した。

休憩室……か。

和宏を拒絶したこの場所で、梨央にも屈辱をあじあわせてやる。

普段はのほほんとしている私も、そう簡単に許せないことだってあるのだ。

梨央の待つ休憩室のドアを、私は大きく開け放った。

並んでいるテーブルの一つに頬杖をついて私を待っていた梨央は、ぶすっとしている私を見るなりニヤリと笑った。

想笑いの一つもしてくれないのね」

「必要ないでしょ」

突き放す言い方で返すと、私は梨央の斜め前の椅子に腰かけた。

「こっちに來ればいいのに」

自分の目の前の席を指差して梨央はそういうけれど、私はふいっと顔を背けた。

梨央の顔なんて真正面から見たくもない。

今さら和宏を取られたなんてどうでもいいことになったけれど、せっかくの同期で一番仲が良かった梨央が、私を裏切るようなことをしたことが許せない。

もう昔のように彼と笑って話すなんて、微塵もイメージできないのだ。

「とっとと要件済ませてくれる?帰りたいの」

腕を組みながらそう言う私を見つめ、梨央が溜め息をついた。

どうして梨央が溜め息なんてつかなきゃならないのか。

そんな姿に腹が立つし、同じ空気を吸うのもがよだつのだから、息すらしないでしいくらいだ。

「聞きたいことと言いたいことがあるの」

「私にはないけど」

「そんな言いかたしないでよ。千尋らしくもない」

梨央に対する私らしさを失わせたのは梨央自のくせに。

どの面下げて言ってるんだろうか。

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