《ただいま冷徹上司を調・教・中・!》誰も知らない彼の(4)
「なん……ですか、これ……」
目に飛び込んできたのは、正面の壁一面にある、とても大きな本棚。
あれだけ仕事もできれば、ビジネス本なども山ほど読んでいるだろうとは思っていたが。
ここにあった本は、そういう類のものではなかった。
「久瀬……」
絞り出すように私の名前を呼んだ平嶋課長が私の肩に手を置いて、力なく部屋のドアを閉めようとしたが、私は逆にフラフラとその部屋の中に足を踏みれた。
大きな本棚に隙間なくビッチりと並んでいたのは……。
「え……マンガ……?」
平嶋課長からは想像もつかない代、數々のマンガや小説などに関する著書が所狹しと並んでいたのだ。
まるで古本屋のように、多種多様のマンガが意味するところは一何なのか。
まったく考えも及ばないが、さすがにこれは見られたくないものだったのだと瞬時に悟った。
「お前……なんで……開けるんだ……」
今にも崩れ落ちそうなほどの魂が抜けた表の平島課長は、ぽつりぽつりとそう言うと、壁に背を預けた。
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「平嶋課長……これ、どうしたんですか……?」
今さら何もなかったかのように扉を閉めて笑うなんてこと、できるはずがない。
ならばいっそのこと聞かれた方が、平嶋課長もスッキリするんじゃないだろうか。
「どうして平嶋課長の家にマンガが?」
おずおずと問うと、平嶋課長は諦めたかのように溜め息をついた。
「俺の……教科書だったんだ……」
「は……?」
突然何を言い出すんだ、このイケメンは……。
私はその先の言葉をんだ。
「教科書……ですか……」
確かにいろんな本を読んで勉強することは、人にとって大切なことだ。
自分自を高めるためにも、相手の心理を読み取るためにも。
けれど、大の男が……しかもパーフェクトイケメンがマンガを教科書にするなんて。
「なんで……?」
ついつい心の聲がポロリともれてしまった。
平嶋課長は眉を寄せて腕を組んで項垂れた。
なんと絵になる姿だろうか。
とてもマンガを教科書だと暴したばかりの男には見えない。
「久瀬も知っての通り、俺はが駄目なんだ……」
「それは……がダメとか……そっち方面の相談ですか?」
「そんなこと一言も言ってないだろう。俺は純粋にが好きだ」
「だったら安心しました。続けてください」
突然のカミングアウトだったら、間違いなくけ止めてあげられていなかっただろう。
こんなイケメンが子孫繁栄できないなんて、勿なさすぎるから。
「俺は欠陥品なんだ。好きな人はできるんだが、どうしようもないくらい好きだというはよくわからない」
それは本気で好きになれる相手に恵まれなかったということなのだろうか。
「自慢じゃないが告白してくるは數しれない。いろんなと付き合ってはきたが、俺は一度も適當に選んだ覚えはない」
見た目と違って真面目なのは、最近の平嶋課長を見ていれば私にだってわかる。
「けれど絶対にフラれるんだ。もう俺とは一緒にいられない、とか、一緒にいるのが辛いとか。恥ずかしい話、この前みたいなこともなくはない」
バカクズ呼ばわりされてビンタでサヨナラなんて、相當酷いフラれかただろうに、なくはないなんて恐ろしい。
「昔から失敗する度にしづつ、教科書という名の本が増えていった」
フラれるたびにマンガを買って勉強してきた、というわけか。
「だけど……マンガの主人公みたいなの子なんて、実際のところはいませんよ。人間なんて男もも噓と裏があるものなんだから。純粋ななんて、今どき稚園で終わってます」
そう、は打算と妥協で相手を選び、男は噓と裏切りでを捨てる。
そんながゴロゴロしているのだ。
「そうなんだよな。どんなに本を読み漁っても、自分に何一つ當てはまらないし、相手の反応も個々で違うし上手くいかない」
そりゃ、があるんだから當たり前だろうに。
こんなマンガみたいなが溢れていたならば、私だってもっと幸せなをしていたはずだ。
「いつの間にか俺は、が上手くいかなくなる度に読み返して、本と現実の違いに悪態つくようになった……。今ではストレス発散の道だ……」
なんという殘念な男だろうか。
こんなに頭脳、格、容姿、全てに恵まれているというのに……。
不適合者だったとは。
『殘念なイケメン』
それ以外に當てはまる言葉など思いつきもしない。
「平嶋課長……」
「何も言わないでくれ。自分でもやり方が間違ってるとはわかってるんだ。しかし、今さらどうすることもできない……」
私から顔を逸らして深く溜め息をついて目を閉じる平嶋課長の顔は、やはりどんなに殘念であろうと間違いなくイイ男だ。
私だけしか知らない平嶋課長の。
そして平嶋課長だけが知っている私の失態。
それを思い返したとき、私の中でとても眩く輝いた案が生まれた。
私と平嶋課長の2人にとって、このうえない素晴らしい案を生み出した私は、思わずニヤリと笑をらした。
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