《ただいま冷徹上司を調・教・中・!》誰も知らない彼の(5)

これが、これこそが。

今まで私が耐えに耐えてきたのを不憫に思った神様がくれた、大きな大きなご褒なのだろう。

どんなに強引だろうが、人の弱みに漬け込む汚い手であろうが構わない。

最終的にお互いの利害が一致すれば問題ないのだから。

「課長……」

「……なんだ」

私は未だ私から顔を背けている平嶋課長の正面に立ち、グイッとネクタイを引っ張って無理矢理こっちを向かせた。

「私からの最後の提案です」

「協力でもお願いでもなく提案か?」

「そうです。この提案に平嶋課長がノーと言えば、私はもう平嶋課長に近づきません」

そう斷言した私の顔を、平嶋課長はなんとも不安げに見つめる。

「もちろん、今までお互いが共有した全てのは守ります。約束します」

どんなに平嶋課長のプライベートが殘念であろうと、一切仕事には関係ない。

職場ではデキる上司で、尊敬する上司で、信頼できる上司なのだ。

そこが揺らぐことなど絶対にありえない。

「信じる……。そのうえで久瀬の提案を聞こう」

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しっかりと視線を合わせてくれた平嶋課長の表は、もう不安をじさせなかった。

「私は親友と彼から裏切られて捨てられた。平嶋課長は上手にできなくてにフラれてばかり。そんな私達が、今ここにこうしている」

「仕事以外では関わり合ったこともないのにな。久瀬がここにいることが不思議でしかたないよ」

私だってそうだ。

でもこの関わりには、きっとなにか意味があったはずなんだ。

ならばどんな意味があるのか見つけ出さなければ。

「この関係を無駄にはしたくありません。これは私と平嶋課長、お互いに利益となる提案です」

私の強い眼差しに、平嶋課長はぐっと息をのんだ。

「平嶋課長……。私を課長の彼にしてくださいっ」

平嶋課長の家の靜かな一室に、私の聲はよく響いた……。

突然の私の弾発言に、平島課長はなにを思っているのか。

私を見つめたまま瞬き一つせずに固まっている。

目……乾かないのかな。

あまりの張に、どうでもいいことを考えてしまう。

「確認事項があるんだが……」

私から視線をそらさず、平嶋課長はようやくポツリと呟いた。

「お前は俺が好きで、俺もお前を好きにならなければならない……という意味か?」

「え……」

なんて真面目なイケメンなのだろう。

こんなに顔がいいのだから、もっと適當でも文句は言われないんじゃないだろうか。

「平嶋課長が適當な付き合いができないということはわかります。けれどこの提案はもっと打算的に考えてください」

同じ下手でも、れていない平嶋課長と、れまくりの私。

『打算』という言葉を使うのが恥ずかしいくらいだ。

「私は、私を裏切った元親友と元カレを見返してやりたい。そのためにはハイスペックな彼がしいんです。平嶋課長は自分の問に答えてくれない教科書よりも、リアルな心を伝授できるAIが必要じゃないですか?」

「それは……」

「私が心の裏表を全て教えます。だから私を平嶋課長の仮カノにしてください」

めちゃくちゃなことを言っているのは十分理解している。

それでもこれは互いにとって一番有益な提案ではないだろうか。

平嶋課長が納得し頷いてさえくれれば、私の悩みはオールクリアできるのだ。

さあ。

貴方はこの提案をどう分析する?

平嶋課長が腕を組み眉間に皺を寄せながら考え込んでいる姿を、私は固唾を飲んで見守った。

いつもならばスパッと結論を出す平嶋課長だが、今回ばかりは頭の中を整理するのに隨分と時間がかかっているようだ。

確かに難しい話ではあるが、下手な私だからこそ、面倒くさい心というものが理解できるという利點がある。

平嶋課長はそれを最大限に利用すればいいだけの話だ。

本當に人同士になろう。

平嶋課長からのを求めています。

そう言っている訳ではないのだから、もうし簡単に考えてくれればいい。

「久瀬の提案をのんだとして、俺は一なにをすればいいんだ?」

いけるな。

きっと平嶋課長はこの提案をれる。

平嶋課長の言葉で私は確信した。

人ごっこをしましょう」

「ごっこ?」

「そうです。ごっこでも私は平嶋課長の彼であるという形姿が手にります。平嶋課長はごっこの中でのスキルと心を勉強できます」

自信満々にそう言ってのけた私を、平嶋課長は溜め息をつきながら見つめる。

だいぶわかってきた。

この表は……落ちるな。

私の想像通り。

「わかった。提案をれよう」

ほら……やっぱりね。

「じゃあ、たった今から私と平嶋課長は人同士です。いいですね?」

「ああ。人同士だ」

私のめちゃくちゃな提案は、平嶋課長によって立した。

私のとしての意地と、平嶋課長の男としての恥があって初めて立した(仮)カレカノという関係

私達の新たな結び付きは、恐ろしいほど強引な形から始まったのだった。

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