《ただいま冷徹上司を調・教・中・!》誰も知らない彼の(9)

「でも、俺の趣味に無理やり合わせるのは……」

「そんなこと気にしなくていいんですって」

確かに自分のこと以外に興味を持たないもいる。

自分のことだけを考えていてほしいなくはない。

けれど平嶋課長の現在の彼は私なのだ。

「私は『彼』として平嶋課長のこと、もっとたくさん知りたいですよ?」

平嶋課長には、私の知らない顔が山ほどあるだろう。

それをしづつでも見ることができたら、きっと私の中でなにかが大きく変わる気がした。

「そんなこと言われたのは初めてだ……」

なんだか嬉しそうに、はにかむように笑った平嶋課長の表は、格好良いと言うよりも可かった。

「私の行きたいとこ、ちゃんと著いてきてくださいね。平嶋課長の行きたいとこにも著いていきますから」

「わかった。ありがとう」

「でも、その前に……」

私は大きな平嶋課長の手のひらに、するりと自分の手をり込ませた。

「久瀬っ。ちょっと……」

キュッと手を握ると、平嶋課長大袈裟なくらい慌てふためく。

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「さっき迷子になりかけたでしょ?これが一番自然です」

繋いだ手を平嶋課長にみせつけるかのように掲げてみせると、平嶋課長は観念したかのようにクシャっとあどけない笑顔を見せてくれた。

「よろしく、彼さん」

優しい顔でそう言われ、私の心臓がドキッと大きく音を立てた。

簡単に心をされるなんて、全くイケメンはこれだから恐ろしい。

「よろしく、彼氏さん」

負けじと平常心で切り返し、私と平嶋課長は緩く手を繋いだままでショッピングを再開させた。

それからの私達のデートは、驚くほどスムーズに進んでいった。

平嶋課長は苦笑いをしつつも、ショップにって私の隣で手に取るものを眺めてくれていた。

何度か「これ、どう思います?」と聞くと、たいてい「いいんじゃないか?」と返してくる。

「怒らないから、ちゃんと考えて答えてください」

そうお願いすると、それからの平嶋課長は真剣に私を見て考えてくれるようになった。

私がよく著ている服のや、可く見える形など、前々からよく見てくれていたのだということがわかって、とても嬉しくじた。

平嶋課長はというと、かなりシンプルなものを好む。

無地に紺と赤のワンポイントがメジャーなブランドや、スポーツ選手なんかが著るブランドなど、ほとんどが無地に近いものを選ぶのだ。

せめてもと切り返しやデザインの変わったものを進めてみるが、思い切ることはできないようだった。

ならばと思い、私は平嶋課長に緒で一番おすすめのシャツを一枚プレゼント用に購することにした。

毎回私がレジに向かうたびに財布を出す平嶋課長に、「貢ぐのは男の義務じゃないんですからね」と言い放ち、自分のものは自分で購する。

お晝に食べた生パスタは絶品で、サラダやスープ、デザートに至るまで全部殘さずペロリとお腹にってしまった。

食事は気持ちよくご馳走になると、平嶋課長は嬉しいような安心したような表で笑う。

そんな顔を見ると、しは甘えた方がいいのかもしれないと思えた。

「ところで平嶋課長」

カジュアル系からファンシー系まで幅広い品揃えの雑貨店で、何気に目に付いたマグカップを眺めながら平嶋課長を振り向いた。

「ん?」

「ペアの食って持ってます?」

「は?」

そんなに悪いことを聞いてしまったのかと思ってしまうほど、平嶋課長は思いっきり眉間に皺を寄せた。

「なんで一人暮らしなのにペアの食が必要なんだよ」

「いや、彼とのペアでおウチごはんとか……」

「ありえない」

言い終わる前にバッサリと言葉を切り捨てられ、私は心『アンタの方が有り得んわ』と突っ込んでしまった。

しかしよくよく考えれば、平嶋課長が家で彼の手作りご飯を食べている景は思い浮かばない。

やっぱり外でオシャレなもの食べてるに違いない。

「カゴ、持ってきてください」

そう告げて私はいろいろと食し始める。

そそくさと戻って來た平嶋課長が手にしている買いカゴに、私は自分の好きな食を次々とれていった。

カップ、皿、お茶碗、お碗、お箸……。

セット売りしてあった可らしいプレート皿とコップやカトラリーなどもカゴにれ込むと、平嶋課長の表がどんどん困していく。

「おうちには多めの食を常備しておくものです。買ってきても宅配頼んでも、お皿が充実してないと食べれないでしょ?」

「それはそうだが……」

「それに」

有無を言わせず言葉を被せ、私は白地に水の大小重なったハートがワンポイントになっている、シンプルかつ可いマグカップを2つ平嶋課長の目の前にかざす。

「ひとつくらいペアがあってもいいと思いません?こういうカップで並んでコーヒーを飲むなんて、人っぽいじゃないですか」

まだ足を踏みれたことのないリビングを想像しながらを踴らせると、平嶋課長は私のペースに慣れてきたのか、やれやれと言うように眉を下げてはにかんだ。

「久瀬の思うようにしてくれていいよ。これも人にとっては必要事項なんだろ?」

平嶋課長にそう問われて、『いえ、ただの私の趣味です』と言えなくなった私は、返事を濁すために満面の笑みで誤魔化した。

結局全て私の趣味で揃えられた食類は平嶋課長が買ってくれた。

が重く二重になった紙袋を平嶋課長が軽々と持つと、私達はすっかり當たり前のように手を繋いだ。

この學んだことへと吸収力は素晴らしいと思う。

駐車場に著くとトランクに荷を乗せて、私達はアウトレットを後にした。

とショッピングして楽しかったと思ったのは初めてだ」

平嶋課長からそう言われると、なんだかくすぐったい気持ちになるのはなぜだろう。

苦手意識がなくなった後に殘ったは……。

いやいや、考えるのはやめておこう。

面倒くさいことになってしまいそうだから。

「久瀬には教えられてばかりだけど、それも楽しかったりする。ありがとな」

平嶋課長は前を向いたままだけど、どれだけヤバい笑顔かは橫顔だけでもわかる。

「どういたしまして」

へらっと笑ってそう言えたけれど、この笑顔を正面で見たら、はコロッと墮ちちゃうんじゃないかと思うと怖くなってくる。

もうし一緒にいてもいいかなぁと思っていたとき、車は私の家の前で停車してしまった。

時計は17時を回ったくらい。

軽くドライブして晩飯でも、という発想はなかったのかよ。

どんなに心の中で毒ついても、『どうぞ降りてください』とばかりに車はピッタリと止まっている。

「今日はありがとうございました。楽しかったです」

シートベルトを外して車のドアを開けると、平嶋課長も降りてきてトランクを開けてくれた。

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