《ただいま冷徹上司を調・教・中・!》誰も知らない彼の(12)

翌日土曜日の朝。

私は滅多に聞かない目覚まし時計の音で目が覚めた。

耳につく派手な音に顔をしかめながら、ベッドの枕元にあるチェストの上の目覚ましを止める。

時刻は午前7時を指していた。

「もぉ……早すぎでしょ……」

もう一度布団に潛り込み、を丸めた。

平嶋課長とのデートのために、スマホのアラームだけではなくて、しっかり目覚ましをセットしていたんだった。

スマホの電源は切ったままだったけれど、無意識に目覚ましだけはセットしたのだろう。

今日のデートはキャンセルされたっていうのに。

布団の中でキュッと目をつぶるけれど、一度覚めてしまった頭は覚醒するばかり。

諦めてベッドから起き上がり、顔と歯を磨いて冷蔵庫を覗いた。

買いは明日行く予定だったので、冷蔵庫の中はほとんど空っぽ同然だ。

辛うじて殘っていたもので簡単な朝ごはんを作る。

特別味しいとも思わないが、お腹が満たされれば問題はない。

予定を前倒しして、今日は買いと掃除でもしよう。

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洗濯を回し、ナチュラルにメイクを済ませてキッチンを片付けた。

ベランダで洗濯を干しているとき、インターホンの音が聞こえた気がした。

最後の一枚を洗濯ピンでとめ、バタバタと部屋にると、今度はハッキリとインターホンが響く。

まだ9時だというのに、一誰だろう。

「はぁい」

インターホンのを取って応答すると。

「あ……俺……だけど」

ドアの前にいる人に、私はただただ驚き言葉を失った。

どうしてここに彼がいるんだろうか。

「ちょっと待っててくださいっ」

逸る気持ちを抑えて、私は玄関に駆け出した。

鍵とドアロックを外すのさえももどかしい。

「どうぞっ」

大きな聲でそう言いながら玄関を開くと、そこには太に負けないくらい輝いて見える、スーツ姿の平嶋課長が立っていた。

「ごめんな、朝っぱらから」

申し訳なさそうに小さく笑った平嶋課長の笑顔に心臓を鷲摑みにされた私は、昨晩のモヤモヤなんてキレイさっぱり忘れたかのように心が軽くなる。

「大丈夫です。散らかってるけど、上がってください」

を避けて平嶋課長を玄関スペースに招きれてドアを閉めた。

しかし平嶋課長は、私を見た途端にスっと視線を逸らしてしまった。

「課長?」

「いや……悪い。その……久瀬があまりにも……いつもと違う格好をしてるから驚いて……」

そう言われて改めて自分の姿を確認し……。

「あ……」

思わずめてしまった。

なんて格好で平嶋課長を出迎えてしまったんだ私は。

超ミニのショートパンツに、元がV字に大きく開き、にピッタリとフィットした半袖Tシャツを著ている。

思いっきり大膽なルームウェアだ。

「すっ……すみませんっ。お見苦しいものを。とりあえずコーヒーでもれるので、どうぞ」

手で元を抑えながらリビングに移しようとしたのだが、「いや、今日はいい」平嶋課長はそう言って私を制した。

「せっかくのデートをキャンセルしたのがずっと気になって、眠れなかったんだ」

それは私だって同じだ。

その言葉を飲み込んで、私は平嶋課長を見つめた。

「毎週末、一日は一緒に過ごすって決めたのに、早々に守れなくなって」

「もしかして、だから會いに來てくれたんですか?」

自分に都合のいい解釈だが、そうであってしいと願った。

「今から會社に行くんだけど、その前にしでも顔を見れたらいいなと思ってな」

「それは顔を見せなきゃ行けないという義務から……?」

恐る恐るそう聞くと、平嶋課長はし照れたように笑ってくれた。

「いや、俺が久瀬の顔を見たいと思ったんだ」

はい、もう、ガッチリ全部、平嶋課長に持ってかれちゃいました。

平嶋課長の笑顔に、腰砕けになりそうなのを必死にこらえた。

なんなんだ、この長ぶりは。

突然こんな大人の男になられたって困るんだけど。

私に會いたかったって……。

もしかして平嶋課長も私と同じように思ってくれていたりする……?

そう思うと、私はもう平嶋課長に抱きつきたくなってしまった。

……が。

々考えてこの答えにたどり著いたんだが……。正解か?」

止められないにあぐねいている私とは違い、平嶋課長は常に正解か不正解かを考えている。

あまりにも違う私と平嶋課長の溫度差に、さっきまでの熱は一気に引いていった。

「そのセリフがなければ正解でしたね」

無表に私がそう言うと、平嶋課長は慌てて「違うぞっ」と手を振った。

「何が違うんですか。平嶋課長は頭で考えて、今後本當に人になるが喜ぶであろう答えを導き出して、私に回答を求めた訳でしょ?」

何を言っているんだ、私は。

そんなこと當然のことで、そのために私達は人同士を演じているというのに。

いざ本當にそう接されると腹が立ってたまらなとは馬鹿げている。

「それで正解です。どんなタイプのも、こんなふうに思ってもらえば喜びますよ」

冷たく言い放ったことを取り繕うかのように、笑顔を張りつけ優しく言葉を発した。

「だから違うんだよ」

平嶋課長は困ったように眉を下げ、人差し指で頬をポリポリとかいた。

「いろいろ考えて答えを探してたら、やっぱり久瀬の顔が見たくなったんだ。迷かなとは思ったけど、本當の人のように接しろって言われたし、思ったまま行しても問題ないかなと思った結果なんだが」

回りくどい言い方だけど、つまりは本當に私に會いたくなって來てくれた。

そういうことでいいの?

冷めてしまっていた心が、再び熱を帯びる。

「だったらなおさら。大正解です」

私が微笑むと、平嶋課長も安心したように笑ってくれた。

平嶋課長が、なにを思ってここに來てくれたのかはわからない。

私と同じ気持ちだろうなんて自惚れはしないが、なくとも以前には持たなかったを、私に対して持ってくれているということは事実だろう。

いずれ張りになってしまうかもしれないけれど、今はまだこれでいい。

「悪い。もう行かないと。また來週な」

腕時計を確認して、平嶋課長は玄関のドアノブに手をかける。

「ちょっと待ってくださいっ」

咄嗟のことだった。

思わず平嶋課長のスーツの袖を摑んで引き止めた。

「久瀬?」

平嶋課長も驚いているが、1番驚いているのは私自だ。

「お仕事……行くんですよね?だったら……」

ずっと人にしてしかったこと。

平嶋課長ならしてくれるだろうか。

「忘れ……です」

初めてのことで、自分でも恥ずかしくて小聲になってしまう。

「忘れはないはずだけど?」

私が求めてるのはじゃない。

摑んでいた袖を引いて私の真正面に向かせると、意を決して一歩前に出る。

「彼が彼の家から出る時は、お約束でしょ?」

自分の格好もあって、小さく両手を広げてみる。

「……もしかして?」

「もしかしてです」

「俺が……久瀬に?」

個人で求めてしまったら、拒否されるかもしれない。

そんな怯えから、私は平嶋課長を従わせる魔法の言葉を口にした。

「彼が彼に、です」

こう言えば、平嶋課長は絶対にしてくれる。

私の思通り、平嶋課長が一歩踏み出すと、私達の距離は20センチほど。

平嶋課長が両手を広げると、私はすっぽりと平嶋課長の腕に包まれた。

「いってきます。……これで正解?」

そう聞いてくる平嶋課長のの中で目を閉じて。

「大正解」

平嶋課長の背中に手を添えて、偽りの人ごっこを味わった……。

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