《ただいま冷徹上司を調・教・中・!》贅沢なのにもどかしい関係(1)
「正直に言いますね。本っ當に鬱陶しいです」
月曜日の朝禮後。
一人、また一人と営業マンが出ていき、人口度がなくなった営業6課の島で、瑠ちゃんは眉間にシワを刻んでそう吐き捨てた。
「なんなんですか?この甘ぁいじの雰囲気は。今までこんなことなかったじゃないですか」
「確かに今日の6課は、で表すなら無駄にピンクなじよね」
うんうん、と頷きながら、紗月さんも瑠ちゃんの意見に同調し出す。
「最近、平嶋課長の雰囲気がらかくなったような気がするのは気のせいかしら?」
「あ!それ!私も思います!でも相変わらず、言い寄ってきてる共にはメチャクチャ冷たいですよ」
「誰のせいかしらね」
二人揃って私を見るが、どんな顔をしていいのやらわからない。
確かに私の平嶋課長に対する視線は、以前と比べて格段に甘い視線だろう。
苦手だった人が、突然好きな人へと変貌したのだ。
ハートが飛びうのは仕方の無いこと。
それに平嶋課長も、今までの無関心な視線から、人としての視線へとしづつ変わってきたような気もする。
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これは私達にとっては大きな大きな進歩と言えるだろう。
まあ、周りからすればはた迷なことなのかもしれないが。
でも、そんなの知ったことではない。
は、當事者がよければ周りはお構いなしだ。
相変わらず平嶋課長に言い寄っている子社員も、ことごとくフラれている。
それを見たり聞いたりして優越にひたってしまう自分が、腹黒くて嫌なで。
でもやっぱりそれは一番嬉しい。
仕事中であろうとなんであろうと、思いっきり公私混同できる。
これこそ社の醍醐味というものだ。
上手くいっている間の社は幸せ以外の何でもない。
しかしこれには大きな落としも存在する。
大抵の人間はそれを予測すらしていないから痛い目を見るのだ。
自分たちは大丈夫。
そんな拠の無い自信がそうさせるのだろうか。
考えてみれば、私もそう思っていた。
妥協で和宏と付き合い、自分にも相手にも気持ちを偽り、これでいいんだと思い込んでいた。
だからこんな形になってしまっても、傷付くよりも怒りが勝るのだろう。
一度裏切りがあると二度と信じることなんて出來ない。
裏切った方は水に流してもう一度関係を築き直せると思い込んでいる。
しかし裏切られた方は、何をしても、何をされても、心の底から信じることなんてできない。
もう、一生無理だ。
裏切りは、人の心を簡単に破壊することが可能なのだ。
なのに何度も何度もチャンスを貰おうと縋ってくる和宏の甘さを考えると、が腐ってんだろうな、などと思ってしまった。
それに比べて平嶋課長ときたら。
何人もをはべらせて、取っかえ引っ変えしているかと思いきや、には驚くほどの不用さ。
そんな平嶋課長だから信じられるんだ。
仮であろうとも、今は私だけのことを考えてくれていると。
私のことを思って、理解してくれている。
そう。
私は勝手にこの関係に期待しすぎていたのかもしれない。
『仮』であることを忘れて……。
平嶋課長のことばかりに夢中になりすぎていて、私は周りを見てなさすぎたようだ。
だから今までは電話やメッセージでしか絡んでこなかった和宏が、社でも話しかけてくるようになったことにすら疑問をじなかったのだ。
そこで危険を察知すべきだった。
だから私はこんな所でこんなピンチを招いてしまっている。
私はなんて間抜けなのだろう。
深々と溜め息がれた。
「どうしてそんなに隠さず溜め息つけるんだよ」
「あなたが嫌いだから」
もう目を合わせるのも嫌なのだ。
この男……和宏とは。
水曜日の就業後、晩飯のメニューを考えながら會社の階段を下りようとしていた私の腕を、突如強引に引っ張った人がいた。
言わずと知れた和宏、その人である。
「ちょっ……なんなのよっ」
振りほどこうとしたけれど、ビクともしないほどの力に私の足は戻された。
「ちょっと來て」
「嫌よっ。離して」
斷固拒否するのだが、和宏は引き摺るかのように私を小會議室に押し込んだ。
「これでゆっくり話ができるね」
「冗談じゃないわ。話すことなんてない。そこをどいて」
和宏はドアの前に立ちはだかって、私が出ていくのを阻止している。
「いい加減にしないと大聲出すわよ」
「それもいいけど、千尋も恥かくぞ?」
のない和宏のことだから、し脅せば怖気付くだろうと思っていた。
けれど今日の彼はどうしたことか、かなり強気で私ににじり寄ってくる。
「本當にやめて。それ以上、近付かないで」
和宏が歩を進めるぶん、私は不本意ながら後退りをするしか距離をとるはない。
しかしそれも限界があり、とうとうテーブルが私の後退を阻んでしまった。
この時初めて私は和宏を怖いと思った。
「どうして俺の言葉を無視するの?」
私は自分の裏切りを棚に上げて、自分勝手に復縁をむ和宏に、しっかりと自分の気持ちを伝えてきたはずだ。
『裏切った人間とは復縁はできない』と。
「どうして俺の気持ちをわかってくれないんだよ」
どうして裏切られた人間の気持ちをわかってくれないのだ。
「めちゃくちゃ傷付いたんだぞ?」
自分の彼が自分の親友だと思っていたとヤってる聲を聞いた私の方が、數倍數十倍傷付いてる。
「千尋、もう一度やり直そう?」
問うように小首を傾げてそう言う和宏を、どうしたってけれることなんでできない。
「何度も言ってるよね?私達はもう終わってるの」
「それは千尋が一方的にそう決めただけだろ?」
「あんなことしておいて今さら何言ってるのよ」
「だからそれは謝ってるだろ?」
「謝ればなんでも許してもらえると思わないでっ」
あまりにも勝手な言い分に、カッとなった私は思いっきり和宏を睨みつけた。
付き合っていた時は、ただなんとなくいつものように相手に盡くし、相手の都合のいいように振舞ってきた。
そんな私がこんな態度で拒絶するなんてはじめてのことだ。
案の定、和宏は目を見開いて私を見つめている。
もう一括して出ていこうか。
……いや、下手して怒りでもされたら大変なことになる。
これくらいで上手くわしていかなければ。
そう思った矢先、私は和宏の手によってテーブルの上に一瞬で押し倒されてしまった。
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