《ただいま冷徹上司を調・教・中・!》贅沢なのにもどかしい関係(3)

これは言わない方がいいと自分でもわかってる。

わかっているけど、苛立って仕方がない。

「だから私のこと、諦めなくていいって言ったんですか?」

の親友と浮気して、簡単に彼を裏切った和宏なのに、その和宏の気持ちを考慮して、平嶋課長は『諦めろ』と言わなかった、と?

「いや、俺はただ吉澤にも思うところがあるだろうと……」

「私の気持ちはっ?」

平嶋課長の言葉を遮った私のびが會議室に響く。

「和宏も平嶋課長も同じ誰も私の気持ちを優先してくれないんですね」

涙が溢れそうになって、私はそれを隠すように俯いて呟いた。

「それは違うぞ。俺は二人のことを考えて……」

「私の人なら、ハッキリと諦めろって言ってくれるのが本當なんじゃないんですかっ?」

私の心に一番引っかかったことは、平嶋課長があろうことか、第三者的立場のもとで言葉を発したことだ。

本當は私のことなど微塵も興味を持っていないと言われたのと同じ意味に聞こえたのだから。

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私の言葉にハッとした平嶋課長は、完全に言葉を失ってしまったようだ。

もっとも上辺だけで『そんなわけない』と言われても、信じることなんてできないけれど。

ここにきて『仮』の関係がこんなに腹ただしくてもどかしくじるなんて思いもしなかった。

こんなことを口走って、こんなに後悔するような関係が。

イタイ……。

「すみません。助けてくれてありがとうございました。帰ります」

泣き顔で崩れてしまう前に、私は戸っている平嶋課長の橫をするりと抜けて會議室を後にした。

……私は弱い人間だ。

あんなふうに會議室を飛び出してからというもの、平嶋課長を意識的に避けてしまっている。

電話もメッセージもスルー。

ダメだとわかってはいるけれど、平嶋課長とどうやって接したらいいのかわからないまま週末を迎えてしまった。

平嶋課長からすれば、本當の人でもないからあんなことを言われて、さぞ不愉快だっただろう。

いっそのこと和宏とよりを戻してくれれば、面倒なから解放されるのにと、そう思われても仕方がない。

そう考えれば考えるほど、平嶋課長からの連絡が怖くて怖くて、結果として仕事以外のことは何も話さないまま金曜日の夜になってしまった。

ああ……神様の聲が聞こえる。

『お前はバカだ』と。

わかっているんだ。

けれど和宏も言っていた通り、私は今まで自分のを表に出さずに相手を優先してきた。

だから自分の気持ちを発させてしまったのは初めてで。

発させた後はどうしたらいいのか。

それがわかっていないのだ。

『ごめんね』『いいよ』で済ませてしまっていいものなのかもわからない。

心を教えてやると大口を叩いてみたものの、一番心をわかっていないのは私かもしれない。

そうかんがえると気持ちがどんどん落ち込んで、なおさらに平嶋課長を避けてしまうのだ。

結果として、今日一日はとうとう一度も連絡がくることはなかった。

當然、あれだけ避けてきたくせに自分から連絡する勇気など持てないまま、なんの予定も立てられなかった明日を思い落ち込んでいる。

落ち込んでいたって何一つ解決するわけではない。

とりあえずスマホを片手に部屋を無駄にウロウロしながら平嶋課長の電話番號を表示する。

通話ボタンをタップしようと何度も何度も試みるが、結果として一度も平嶋課長に繋げることはできなかった。

勢いよくベッドへと倒れ込み、自分の馬鹿さ加減を嘆きながら埋もれていると、いつの間にか深い眠りに落ちてしまった。

翌日土曜日の午前7時、アラームが部屋中に鳴り響いた。

のろのろとスマホのアラームを止めて畫面表示を確認するが、やはりあれから一度も平嶋課長からの連絡は來ていなかった。

本當ならば今頃ベッドから飛び起きて、浮かれ気味にデートの準備に取り掛かっていたに違いない。

「なんでこんなことになってんのよ……」

れた髪をかき上げて、私は盛大に溜め息をつく。

いつもより長めに歯を磨き顔を洗うと、ハリのないが気になった。

昨晩はサボってしまったので、今日は朝からおのお手れを念りにする。

おかげで化粧ノリもよく、いつもならば心が弾むところだが、今日は見せる相手もいない。

デートで著るはずだったワンピースを著てみたが、気分は全然晴れなかった。

どうして私はいつも素直になれないのだろう。

相手に合わせて自分を偽って。

本當の自分を見せることに怯えてしまっていた。

平嶋課長の面を知って、私自も今までになくを曝け出したものの、結局はどうすることもできずに逃げた。

その結果がこれなんて笑えない。

せっかく平嶋課長への気持ちを自覚できたばかりなのだ。

今からこの関係を進展させていこうとしていた矢先に、こんなことで躓いてなんていられないのだ。

私が今、一番にしなければならないことは、部屋に閉じこもってウジウジすることじゃない。

かなければ、私は絶対に後悔することになる。

平嶋課長以上の男は、この先きっと巡り合えない気がするから。

そう思うといてもたってもいられなくなって、バッグをひったくるとヒールを履いて部屋を飛び出した。

せっかく手れしたも、會社帰りに平嶋課長とのデートを想像しながら買った服も。

平嶋課長に見てもらえなければ意味がないんだ。

駅に向かって駆けだしたとき。

車のクラクションが私の足を止めた。

私を呼び止めたわけではないかもしれない。

けれど私は思わず反対車線を探してしまった。

そして見つけた。

「平嶋課長……」

そう、今まさに會いに行こうとしていた平嶋課長、その人を。

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