《ただいま冷徹上司を調・教・中・!》贅沢なのにもどかしい関係(9)
「私に何か裏があるとでも思っている顔ね」
「やだ、顔に出てた?」
他の人ならば慌てて取り繕うけれど、梨央相手ならば堂々と疑ってやる。
「噓だと思うなら、平嶋課長に電話してみればいいじゃない」
焦った様子もなにもなく、サラリと連絡をしろと言ってのける。
このに裏はないのだろうか。
「あ、ねぇ千尋。このあと買いに行こうと思ってたの。付き合ってくれない?前はよく二人で出かけてたじゃない」
そう、し前まで私達は本當に親友だった。
時間が合えば二人でよく出掛けもした。
ストレートな言いをするけれど、私のことをとてもよくわかっていて、私にとって必要な優しさと厳しさを兼ね備えた友人だった。
あの時までは。
「千尋?」
「いやよ」
冷靜に思い出せば、思いのほか悪いことばかりじゃなくて、即答できなかった自分に腹ただしくなった。
「じゃ、ランチだけ。千尋が絶対好きになるお店がオープンしたの。行こうよ」
「いやだってば。どうして今さら梨央の顔見ながらご飯食べなきゃいけないの?お料理に失禮だわ」
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「帰る」と殘して梨央の橫をすり抜けた。
私は駅の壁に寄り、一度だけ平嶋課長に電話をかけることにした。
これ以上、梨央に翻弄されてモヤモヤするなんてごめんだ。
スマホのコールが鳴れば鳴るほど、私の不安は大きくなっていく。
『もしもし』
途切れたコールの後に、小さく低い平嶋課長の聲が聞こえた。
「もしもし、千尋です」
平嶋課長に合わせて、こちらも口元を手のひらで覆い小聲になる。
『ああ。ごめんな、わざわざ電話してくれて』
「いえ、こちらこそ、すみません。こんなときに。平嶋課長、大丈夫ですか?」
梨央の話が本當なら、やはり迂闊に電話なんてかけない方がよかったのかもしれない。
どこの病院なのかはわからないけれど、平嶋課長が最近大きな機材をれたところの中に大病院もある。
これは早々に切り上げた方が良さそうだ。
『ああ。問題ない。悪いが今、社なんだ』
「あ、すみません。落ち著いたらまた連絡……」
してください。
その言葉は、『わかった。ごめんな』という平嶋課長の謝罪に遮られた。
なんだか焦っている気もしたし、やっぱりなにか問題があったに違いない。
梨央を完全に疑ってかかってしまったが、結果としてこれでよかった。
デートがダメになってしまったのは殘念ではあるが、仕事とプライベートを迷わず選択できるのは平嶋課長の尊敬すべきところだ。
無事に解決できますように。
私はそう願ってスマホをカバンにしまい、ホームに向かった。
電車に揺られながら、なにも帰ることはなかったんじゃないかとも思った。
確かにデートはダメになってしまったけれど、一人でも十分に楽しめるというのに。
けれど平嶋課長と二人でのプランが頭をよぎると、どうしても一人で行しようとは思えなかった。
やっぱり二人で決めたことならば、二人の時に楽しみたい。
今日はスーパーにでも寄って、常備食材でも作ろうと決めた。
電車を降りてホームを過ぎ出口へ向かうと……。
「そうきたか……」
朝に心配していた雨が、かなりの勢いで降っていた。
これじゃ、スーパーにも行けないどころか、家に帰りつく頃にはズブ濡れかもしれない。
迷ったけれど、私は勢いよく飛び出し、家に向かってとにかく走った。
家に帰ると、すっかり冷えてしまったを熱いシャワーであたためた。
その日はゆっくり過ごしていたので気付かなかったのだけれど。
翌日日曜日。
久々の高熱でダウンしてしまった。
平嶋課長に連絡しようかとも考えたけれど、トラブルが一日で解決したかもわからないし、迷になることも考えて敢えて連絡はしなかった。
明日になれば。
元気に平嶋課長に會えるのだから。
しかし……。
「これは……さすがに無理だ……」
アラームの音がありえないほど頭を刺激するので、私は自分の調の異常に気が付いた。
起き上がろうにも節々が痛いし、は鉛のように重い。
溫計を挾んでその場にしゃがみこむ。
その時點で熱はあるだろうと予測はついていたけれど。
溫計に表示された數字を見て、クラクラしていた頭がさらに回った。
38.6度。
昨日から全然改善されていない調に溜め息が出た。
平嶋課長に會えるのを楽しみにしてたのに。
「最悪だ……」
ベッドに戻ろうとして、立っているついでに、と顔を洗って飲みのもを用意し、保冷枕をタオルで巻く。
テーブルをベッドにくっつけて、飲みとスマホとテレビのリモコンを並べた。
萬全にしてベッドにると、紗月さんと瑠ちゃんに、メッセージで今日は會社を休む旨を伝える。
出社時刻になって會社に電話をし、平嶋課長に変わってもらうようにお願いしたけれど、今日は直行らしく社にはいなかった。
會えもしないどころか聲も聞けないなんて。
調が悪いぶん落ち込みもすごい。
課の皆へ欠勤の理由と謝罪を伝えてもらうようにお願いし電話を切ると、私の意識は深い深い闇の底に落ちていった。
お晝過ぎに目を覚ますと、かなりお腹がすいていることに気がついた。
そう言えば昨日からまともにご飯を食べていない。
お腹が空くってことは、しは回復しているのだろう。
確かにあれだけあった節々の痛みはすっかり消えていた。
臺所をしてみるものの。
「ろくな食べがないじゃん……」
週末に行く予定だったスーパーを高熱で逃したのだから、當然といえば當然なのだ。
「非常食、使うしかないか」
いざと言う時のために取っておいた、カップのうどんにお湯をれ、冷凍の回転焼きカスタードをレンジであたためた。
質素でアンバランスな晝食だが、私のお腹を満たすには十分だ。
後片付けをして熱を測ると37.4度。
もう微熱と言ってもいいくらいに下がっている。
「明日は絶対會社に行かなくちゃ」
責任ある仕事をしている以上、そう何日も休んでなんていられない。
が楽なうちに軽く掃除をして、私は再びベッドに橫になった。
今度は落ちる、というよりも、ゆっくりと自然に眠りにった。
どれだけの時間が経ったのだろう。
私の眠りを妨げたのは、インターホンの音だった。
「……え……なに?」
ベッドから出て時計を見ると、19時前だ。
こんなに寢てたの!?
いつまならまだ仕事をしている時間だけれど。
時間帯からして、もしかしたら紗月さんかもしれない。
そう思って私はパジャマのままで玄関を開けた。
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