《ただいま冷徹上司を調・教・中・!》贅沢なのにもどかしい関係(13)

ふわりと香った安心するにおい。

「凱莉さん?」

くぐもった聲で問いかけると、ゆっくりと頭をでて返事をしてくれた。

「どんなふうにわれたか、なんてどうでもいい。俺はいに乗らなかった。それが事実だよ」

それが私にとって、どれだけ心を癒しくれるか、凱莉さんはわかっているんだろうか。

私は凱莉さんを信じてないわけじゃない。

けれど梨央が絡むと、どうしても不安になってしまうのだ。

「言うのを避けてしまったのは、やましいことがあるからじゃない。酷い斷り方をしてしまったから、千尋と植村の関係にヒビがるんじゃないかと考えてのことだ」

私の想像が及ばなかった凱莉さんの言葉に、の中で私はそっと顔を上げた。

「どう斷ってくれたんですか?」

そう尋ねると、凱莉さんはし困ったような笑顔で、再び私の顔を自分のに戻した。

「簡単に言うと……。千尋と過ごすためにある時間を植村に使おうとは微塵も思わない。千尋と付き合っている俺が、植村を含め他の人になびくこともない。何をしても無駄だからいい加減に諦めろ……って……言ってしまった……」

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「ふふっ……」

思わず笑ってしまうほどハッキリとした言葉。

とっても凱莉さんらしい言葉のチョイスだ。

私だけを。

仮といえども、本當に私だけを見てくれている。

私だけを特別にしてくれて、私だけを大切にしてくれる。

そんな凱莉さんに私がに落ちないなんて有り得なかったんだ。

始めはこんなはずじゃなかった。

凱莉さんに仮の人を提案した時は、本當に打算だけで、こんなに凱莉さんを好きになるなんて、あの時は思いもしなかった。

苦手だった上司から抱きしめられて、こんなにがときめくなんて。

考えられなかったのに。

今はこんなにも……。

想いが溢れる……。

「梨央に言ったその言葉は……本心からですか?」

首を起こして顔を上げると、凱莉さんはキョトンとした顔をしていた。

「本當にそう思って言ってくれた言葉なんですか?」

「當たり前だろ?」

當たり前じゃない関係で膨らんだ、當たり前じゃないこの想い。

ずっと一人で抱え込むには重すぎる。

凱莉さんが私のことをどう思っているかはわからないけど、本當に特別だと思ってくれているのなら。

私の気持ちをしは解放してあげてもいいんじゃないだろうか。

私は凱莉さんの首に両手を巻き付けると、思いきり抱きついた。

自分からこんな事をするなんて初めてだけど。

今はしでも私の気持ちの欠片を伝えたかったんだ。

「すっごく嬉しい……」

耳元でそう囁くと、凱莉さんの首筋に、掠めるようなキスをした……。

そんな自分の行に、顔から火が出るほど恥ずかしくなって、私は顔を凱莉さんの首筋に埋めて火照りを冷まそうとした。

けれど、この行も隨分と恥ずかしいものだと自覚してしまい、もう頭はパニックでどうしようもない。

そうなると今ここでこうして凱莉さんと二人きりでいることも、あろうことかルームウエアのままでいること、極めつけはすっぴんでいることも。

もう全てが恥ずかしくて仕方がなくなった。

「千尋……」

優しいトーンで囁かれては、もうけてしまいそうだ。

「千尋とこうしていると、俺の中でいったい、何が本當のことなのかわからなくなる」

「……」

「千尋が俺を大きく変えるから。変われば変わるほど、こうしていることが當たり前だと錯覚してしまう」

『錯覚』

その言葉に心が苦しくなったけれど。

でも凱莉さんの紡ぐ言葉に何一つ噓はないと思えた。

だったら……今は、錯覚だとしても私と同じ気持ちでいてくれてるんじゃないだろうか。

「千尋にこうされたら、千尋は本當に俺をれてくれてるんじゃないかと勘違いするんだ」

凱莉さん……私の気持ちは錯覚でも勘違いでもありません。

そう心でびながら、腕をし緩めて、真っ直ぐに凱莉さんの瞳を見つめた。

至近距離で見る凱莉さんの端正な顔と、湧き出る魅力的な雰囲気にわれて、私のからは吐息がれた。

その瞬間……。

れた吐息が戻されるかのように。

私のは凱莉さんのに塞がれた……。

凱莉さんを好きになって、ずっとしていた溫もり。

その溫かさに塞がれたは、その先を求めるようにゆっくりと開く。

啄むような可いキスもいいけれど、もうそれで満足できない。

もっと。

もっとしくてたまらない。

そのに逆らえずに自分から舌を差し出すと、凱莉さんはすぐにそれを絡めて応えてくれた。

濃い空気が広がって、そのうちに獨特の水音か響き始める。

「ふ……あ……」

鼻から抜けるような私の恥ずかしい吐息は、凱莉さんの舌をさらに激しく刺激したようだ。

キスだけなのに……。

まだキスだけなのに……。

それでも凱莉さんとのキスは、私の背筋を震わせて。

私のとしての五じさせた。

あの平嶋課長がこんなふうに私を求めている。

いつもクールで、社員からも多大の人気がある人なのに。

私を特別にしてくれて、今こんなに私を貪っている。

そのことがもっと私のと興を煽っていく。

「凱……莉さ……ん……」

必至にしがみつきながら彼の名前を呼べば。

「千尋……っ」

凱莉さんはさらに深く深く。

私の口を荒々しく犯した。

凱莉さんの手のひらが私のウエアにり込み背中をでると、私はゆっくりとソファーに押し倒された。

もう恥ずかしいなんて思えない。

二人とも本能のままに。

のままに。

ただひたすらに二人激しく求めあった……。

「ごめん。病み上がりなのに無理させたな」

2人の吐息がようやく落ち著いた頃、凱莉さんは優しく私の頭とでながらそう言った。

「いえ。加減しないでって言ったの……私ですし……」

そこまで言って、私は火を噴くほど真っ赤になってしまった。

そうだ。

冷靜になればなんて恥ずかしいことを言っちゃったんだ。

顔を上げられず、私は凱莉さんのに顔を填めた。

「安心しろ。ちゃんと加減はできた」

「…………」

うっそ。

あれで加減できたって?

驚くべき凱莉さんの発言に、私は自分のが壊れるのを想像して。

……ちょっと期待してしまった……。

変態か、私は。

長いこと私のを気遣ってくれていた凱莉さんが、「明日、會社で待ってるからな」と言い殘して部屋を出たのは、ちょうど日付が変わった頃だった。

明日もきっと、いつもと変わらない日常なんだろう。

けれど二人のなかで大きく変わった関係の余韻に浸りながら、私はダルいを抱きながら眠った。

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