《ただいま冷徹上司を調・教・中・!》仮がホントに変わるとき(1)

腰砕けって、こういうことをいうのだろうか。

「凱莉さんのバカ……。仕事行けないじゃない……」

歩けば抜けそうになる腰をでながら、私は一人で憎々しく呟く。

凱莉さんとの思いがけない一夜に、私のはすっかり悲鳴を上げていた。

洗面所の鏡に映る私の顔は、昨日の私と何一つ変わらない。

けれど。

私のルームウエアの下には、確かに昨日はなかった赤い痕が散りばめられている。

凱莉さんが求めてくれた自分のおしくて。

私は朝から何度もその痕をなぞった。

けれど出勤時間が近づくにつれて、私は次第に怖くなる。

私は凱莉さんのことが好きで、求められて抱かれたことに後悔はない。

では凱莉さんは……?

凱莉さんはいったいどういうつもりで私を抱いたのだろうか。

その場の雰囲気に流されてのことだったのかもしれない。

男の人は心ではなくてさえ反応すればを抱けると聞いたことがある。

凱莉さんが不誠実な男だとは思わないが、私に本気になってくれたとも思えない。

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だったらいったい昨日の出來事は何だったんだろう。

私はいったい、どんな顔をして凱莉さんに會えばいいのだろう。

考えれば考えるほど混してしまうので、私は勢いに任せて家を出た。

會社に著いてすぐ、私は一事務員の顔でデスクで既に仕事に取り掛かっていた平嶋課長の前に立った。

「昨日は申し訳ありませんでした。今日は二日分働きます」

張り切ってそう言うと、平嶋課長は心配そうに私を見上げる。

「もう大丈夫なのか?」

「はい。すっかり」

凱莉さんが無理をさせた以外に、調不良なところな全くない。

「そうか、よかった。病み上がりなんだから今日は早く帰れよ?俺も時間合わせるから」

そう言われて私は驚きで目を見開いた。

え?

この人は……なにを言ってるの?

「どうした?」

「……どうしたもなにも……平嶋課長こそどうしたんですか?」

「なにがだ?」

「いえ……何でもないです」

私はのろのろと平嶋課長のデスクを去り、自分のデスクに戻ってパソコンを立ち上げる。

部下を心配するのは平嶋課長として當然のことかも知れないけど。

俺も時間を合わせるというのは、凱莉さんとしての言葉なんじゃないだろうか。

今まで私からプライベート用の言葉でけしかけたことはあったにしても、凱莉さんからこんな風に言葉を掛けられたことはなかった。

絶対に公私混同なんてせずに、冷たいほどきっちりと線引きする人だと思っていたのに。

本當はそうじゃないんだろうか。

立ちあがったパソコンの畫面をぼんやりと見ていると、隣で私の様子を見ていた瑠ちゃんが私に聲を掛けてきた。

「平嶋課長、もう隠したり照れたりするのはやめたんでしょうね。まあ、クールなくせして駄々洩れだから仕方ないんでしょうけど」

意味あり気な言葉に引っかかって、私は「どういうこと?」と瑠ちゃんに聞き返した。

チラリと周りを見ると、同じ課の皆がはにかむように笑っていた。

平嶋課長も周りの表には気付いているはずなのに、全く気にならないのか、いたって普通に仕事をしている。

先週末とは違う空気だ。

一日で何が変わってしまったのだろうか。

「平嶋課長、昨日は可かったんですよ」

何かを思い出したかのように含み笑いをする瑠ちゃんは、平嶋課長に聞こえないようにこっそりと小聲で私に囁いた。

「可かったの?あの平嶋課長が?」

「そうなんです。紗月さんが千尋さんが熱で大変だって話を盛ったら、わたわたしちゃって。紗月さんから簡単に遊ばれてましたよ」

笑いをこらえきれなくなった瑠ちゃんは、ぷぷっと小さく吹き出しながら口元を両手で覆った。

「平嶋課長があんなふうに焦る姿を見れる日が來るなんて思ってもみませんでした。初めて平嶋課長をいじれて楽しかったです。めちゃめちゃ親近湧きました」

「噓でしょ……」

平嶋課長ともあろう人が、瑠ちゃんにいじられるなんて想像もできない。

それだけ私のことを心配してくれたと思ってもいいのだろうか。

「よっぽど千尋さんのことが心配だったんですね。平嶋課長は本當に千尋さんのことが好きなんだなぁってじました」

平嶋課長が思わず凱莉さんになってしまうくらい思ってくれたの?

本當に?

ちゃんの言葉では実できなくて、私は凱莉さんへと視線を向ける。

ふと視線が絡むと、あろうことか凱莉さんは私に緩い笑顔を向けてくれた。

そこにはもう平嶋課長の姿はなく、どこをどう見ても凱莉さんだった。

私が勝手に抱いているイケメンのイメージとしては。

抱いてしまったに対して興味が失せる。

とか。

勘違いされないように急に冷たくなる。

とか。

その他もろもろ、考えればろくなイメージがない。

確かに平嶋課長がこういう人種に當てはまらないのはもう知っている。

けれど仕事とプライベートはしっかりと分けるタイプの人だし、社ではなからず線引きされるのではないかと思い、私自も切り替えて出社したのだ。

しかし今日の平嶋課長はどうしたことだろう。

私が考えていた平嶋課長と全く違う。

人ごっこをするようになって、凱莉さんの優しい笑顔は何度も見てきたけれど、それを社で見たことなんて今まで一度もなかった。

この大きな変化を、私はいったいどう捉えるべきなのだろう。

自分から言い出したこととはいえ、本當に私達の関係は厄介だ。

人同士なら、くすぐったくて恥ずかしくて、この変化をいい意味でとらえられたというのに。

ちゃんの言葉に素直に喜ぶことができない私は、凱莉さんのあの笑顔にどう返していいのかわからない。

「だったら嬉しいな……」

私は瑠ちゃんに本心を吐した。

「大丈夫ですよ。見てくださいよ、あの締まりのない顔。千尋さんがここにいるのがよっぽど嬉しいんですね」

凱莉さんの変化に対応できず、私はぎこちなく微笑み返して私は注書とにらめっこを始めた……。

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