《ただいま冷徹上司を調・教・中・!》仮がホントに変わるとき(2)
営業に出ていた平嶋課長が戻ってきたのは、とても珍しい時間帯だった。
もうすぐ定時の18時。
その時間に平嶋課長がデスクに座るなんて。
「千尋さんと一緒に帰る気満々ですね」
小さな聲で瑠ちゃんが囁いたが、朝と違って営業マンの殆どいないフロアでは、その小聲も平嶋課長の耳に屆いたようだ。
「安松……。聞こえてる。俺は別にそう言う意味で早く帰って來たわけじゃないぞ」
見かされてバツの悪そうに眉を寄せる平嶋課長に、瑠ちゃんは可らしくペロリと舌を出しておどけてみせる。
「いつもと違う平嶋課長が面白いだけです」
「面白がるな。俺はただ久瀬の調がまた悪化したら大変だと思って……」
「そりゃそうですけど、千尋さんが早く帰ればいいだけの話で、平嶋課長が一緒に帰る必要ありますぅ?」
「それは……久瀬に任せると無理するから……」
「私達もいるんだから大丈夫ですよ」
「帰りとか……合悪くなったりしたら……」
「平嶋課長は調の悪くなった社員全員を送ってくれるんですか?じゃ、次は私もお願いします」
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「お前は……」
言い返す言葉も盡きたのか。
平嶋課長はグッと言葉に詰まってしまった。
仕事のことに関しては恐ろしいくらいに頭の回る人だけれど、こういう話は苦手というか、できない人なんだった。
「瑠ちゃん。あまり課長を苛めないのよ」
「はぁい」
紗月さんの一聲で瑠ちゃんは平嶋課長への尋問をやめたけれど、その橫顔を見るととても楽しそうで、朝私に言ってくれた言葉を真実としてけ止めそうになってしまった。
18時を過ぎて紗月さんが帰ると、営業マンが次々と帰社してくる。
平嶋課長はそのたびに墓の社員に驚かれ、私と平嶋課長を見比べニヤニヤと笑われる。
その居心地の悪さったらない。
どうやら私が休んだたった一日の間に、私と凱莉さんは完全に公認の中になってしまったようだ。
私としては嬉しい限りなのだけれど、凱莉さんは……平嶋課長としてはそれでいいのか疑問だ。
平嶋課長から早く帰るようにと言われたことだし、明日の準備を終わらせそろそろ帰ろうかと思ったとき。
「帰れるか?」
私の頭上から平嶋課長の聲が聞こえた。
驚いて振り返ると、既に帰る準備萬端の平嶋課長が、私を今か今かと待っていた。
「あ……。もう終わります」
戸いがちにそう言うと、「給湯室で待ってる」と平嶋課長は一言呟いてフロアを出て行った。
「給湯室が待ち合わせ場所って。社、羨ましいです」
瑠ちゃんの言葉に営業マンたちも頷くものだから、もう開き直るしかないような気がしてきた。
次々に冷やかしにかかる皆を上手くわして、私は平嶋課長の待つ給湯室へと急いだ。
「お待たせしました」
給湯室の壁からひょっこりと顔を出すと、平嶋課長は振り向いてまばゆい微笑みを見せてくれた。
そしてそのまま私の手を取り、給湯室の一番奧まで引きれた。
奧にあったゴミ箱がガタガタと音を立てる。
平嶋課長は壁と自分の間に私を挾んで、私をきつく抱きしめた。
「ちょ……平嶋課長?どうしたんですか?」
あまりの驚きに心臓を跳ね上がらせながら、私は平嶋課長のスーツの背を引っ張った。
「千尋……」
平嶋課長はしだけを離し、両手でそっと私の頬を包み込む。
そのままコツンとオデコをくっつけて、「よかった」と呟きオデコを離す。
「ずっと気になってたんだ。また調崩してるんじゃないかと思って」
私を見つめながら何度も頬をでる平嶋課長は、すでに凱莉さんになっていて、ここが會社だということを忘れてしまいそうだ。
「そんな簡単に壊しませんよ。意外に心配なんですね」
クスリと笑ってそう言うと、凱莉さんはし照れたように苦笑いをする。
なんて可らしい顔ができるようになったんだろう。
もう、悶えしそうになるほど好きが溢れる。
「千尋は仕事に対しては無理するからな。それに昨日は無理させたし……」
凱莉さんの言っている無理させた理由が何なのかを思い出し、私は顔が真っ赤になるのをじた。
「千尋……早く帰ろう」
耳元でそう囁かれた言葉が妙に甘さを含んでいるような気がして、それに反応するようにの芯が疼くのをじてしまった……。
「凱莉さんっ……待って……」
「待たない」
「あ………」
「千尋……」
てっきり私の家に送ってくれると思いきや。
辿り著いたところは凱莉さんのマンションだった。
ドアが閉まるのも待てないというように、玄関で凱莉さんは私を強く抱き締めて急なキスをした。
何度も何度も、深く角度を変えながら。
蠢くように凱莉さんの舌が私の口で絡みつく。
火照る変わりに抜けていく力は、もう凱莉さんをけれる準備がすっかりできている証拠だ。
テイクアウトしたファーストフードの香りに負けない香がその場を一変させる。
凱莉さんがこんな熱量を持った人だったなんて知らなかった。
必死にしがみついてを合わせ舌を絡めると、凱莉さんは私の頭を掻き抱いて求めてくれた。
艶かしいキスが耳から首筋へと移し、私の服をしづつしていく。
「ここじゃ……や……」
玄関先でこんなにされたら、聲なんて抑えられない。
いつなんどき人が通るかもわからないのに。
こんなの恥ずかしすぎて無理。
途切れ途切れになんとか口を開くと、凱莉さんはピタリと止まって私を軽々と抱え、そのまま寢室のベッドに転がした。
ベッド脇にあった小さなライトを付けられると、私と凱莉さんがオレンジに照らされる。
その妖艶なシチュエーションに、私のはまたけてしまう。
凱莉さんのの重みをもっとじたくて。
「もっとキスして……」
そううと、凱莉さんは熱い瞳を細めて私に覆いかぶさり、狂おしいほどたくさんのキスをくれた。
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