《ただいま冷徹上司を調・教・中・!》仮がホントに変わるとき(7)

凱莉さんは覚悟を決めたのか、渋々ながらバスルームへと消えていった。

私は寢室に戻ると、タンスから『凱莉さんのおうちセット』を取り出した。

ずっとお泊り計畫のためしかった、凱莉さんのルームウエアと下著。

この前のデートの時に嫌がる凱莉さんをさて置いて無理やり購したものだ。

「著替え、置いておきますね」

シャワーを浴びている凱莉さんに向かって聲を掛ける。

「ああ。悪いな」

答えが返ってきて、私はし満足した。

一先ず『お家でお風呂大作戦』は功を収めたようだ。

「さてと」

次は『凱莉さんにお酒を飲ませちゃおう作戦』を実行に移さなければならない。

軽いおつまみでも作っておかなければ、お酒も進まないだろう。

とはいえさっきのパスタでお腹は膨れている。

結果として、トマトとモッツァレラチーズのサラダと生ハムミニバゲットを用意した。

これでもう逃げられまい。

私はほくそ笑んで凱莉さんがお風呂から出てくるのを待った。

そのうちドライヤーの音が聞こえ、凱莉さんが部屋に戻ってきた。

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私は素早く冷蔵庫からビールを取り出して、あえて手渡しはせずにおつまみを並べたテーブルの上に置いた。

「私もシャワー浴びてきます。軽いもの作ったんで、ビール飲みながら待っててください」

凱莉さんの返事も聞かずに私は急いでバスルームに向かった。

ビールを手渡ししなかったのも、風呂上りにビール以外の飲みを出さなかったのも、全ては自分の意志で乾いたをビールで潤してもらうため。

さあ、飲め飲め、飲むんだ凱莉。

今日こそは逃がさないんだから。

急いで、でも丁寧にを洗う。

髪を乾かすけれど、全然水分が飛んでくれない。

いつもこんなに時間のかかるものだっただろうか?

もっといいドライヤーにしとけばよかった。

もどかしくじた私は、半乾きのままリビングに戻った。

「やっぱり……」

私がテーブルに置いたビールには手を付けず、どうやら車で飲んでいたお茶を持って上がってきていたようで、そっちでの乾きを潤していた。

まぁ、予想はしていたが、ここまで頑なにだと本気で腹が立つ。

確かにルームウェアでくつろぐ凱莉さんは本當に素敵だ。

たかだか特売2980円のウェアをこんなに完璧に著こなせる男ないだろう。

そりゃ見惚れてしまうのは仕方ない。

けれど、それとこれとは話が違う。

どうして凱莉さんは最後の一線は超えてくれないんだろう。

……あんなことやこんなことしたくせに。

やはり私たちの関係が曖昧なせいだろうか。

……だったら手を出す前にハッキリさせてくれればよかったのに。

いや、全ては凱莉さんのせいではないとわかってる。

やっぱり私は本當の意味で凱莉さんの人になりたい。

「どうした?ぼーっと突っ立って。早くおいで」

そう聲をかけられて、私は素直に凱莉さんの橫にちょこんと座った。

「ちゃんと髪乾かしてないじゃないか。風邪ひくぞ」

するりと私の髪をでて、凱莉さんは心配そうに私にそう言った。

「凱莉さん。私、凱莉さんに大切な話があります」

その手を膝の上でぎゅっと握り、私は真剣に凱莉さんを見つめた。

「どうしたんだ、改まって」

私の真剣さが伝わったのか、凱莉さんも真剣に私を見つめ返す。

私の言葉を真正面からけ止めようとしてくれるところが大好きだ。

「私達の……今後についてです」

私がそういうと、凱莉さんはハッとしたように目を見開いて黙った。

唐突すぎただろうか。

きっと凱莉さんは私が何を言い出すのかはわからないだろう。

「私達の今の関係って、一なんなんでしょう?」

話を周りから攻めて核心をつく、という手もあったかもしれない。

けれど私は、そんなに上手く言葉を選べない。

どのみち最後に核心をつくのなら、最初であろうが最後であろうが何も変わりはしない。

「最初は私の見栄で無理矢理お願いした人ごっこでした。打算的なことしか頭になくて、凱莉の下手を逆手に取って、脅しのように始めてしまいました」

あの頃の私は凱莉さんにとって、相當嫌なだったに違いない。

自分の弱點をネタに、強引に関係を迫る

今までのどのよりも最悪だっただろう。

「凱莉さんには……いえ、平嶋課長には本當に申し訳ないことをしたと思っています」

「千尋。俺はちゃんと伝えたはずだぞ?自分の意思で選んだことだと」

「違いますよ。平嶋課長は選ばされたんです。選ばすを得なかった」

「それは違う」

凱莉は優しく私を諭そうとしてくれたけれど、私は大きく首を振って凱莉さんの言葉を遮った。

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