《冷たい部長の甘い素顔【完】》第18話 私を知ってた理由

乾杯の後、私は、秦野部長とグラスを合わせて、ビールを流し込む。

「部長、今日はたくさん飲んで、食べてくださいね」

「ああ」

部長は、返事をしたものの、いつものように冷たい目でみんなを見ている。

この前のようなにこやかな雰囲気は微塵もない。

なんでかなぁ。

「そういえば、部長、他の部署の平社員の顔と名前も覚えてるんですか?」

平社員の顔なんて覚えてないと思ってたのに、初めからバレてたなんて。

「いや」

部長は、変わらず淡々と答える。

「え? だって、この前、9月の初めに私に気づいたって、言ってたじゃないですか。私、どうせ他の部署の平社員の事なんて、覚えてないから大丈夫だ、気づかれてないって思ってたんですよ? なんで、分かったんですか?」

部長の目が、私をじっと見る。

「フッ」

ん?

笑った!?

「お前の顔と名前は、部長以上の重役なら、みんな知ってるよ」

「は? なんでですか?」

私、なんかした?

「お前、社した當日に社長に話し掛けただろ?」

そう言って、部長はビールをくいっとに流し込む。

「え?

そうでした?」

そんなことしたかなぁ。

私は、記憶をたどってみる。

・:*:・:・:・:*:・

2年半前の4月。

おそらく定例會議後だと思われる重役の方々が、休憩所でコーヒーを飲んでいた。

そこへたまたま通りかかった私は、そのの中に最終面接で會った社長を見つけた。

「社長! 採用してくださって、ありがとうござました! 今日からがんばります!」

そう挨拶した私は、その場でペコリと頭を下げた。

・:*:・:・:・:*:・

「え? でも、挨拶しただけですよ?」

それで、なんで、重役全員が名前を覚えることに繋がるの?

「くくっ、普通は、挨拶なんてしないんだよ。しかも、重役連中が勢揃いのところでなんて、せいぜい會釈して終わりだ」

部長は、楽しそうに、またビールをあおる。

「あ、それ、昨日、真由にも言われました! でも、私はお禮を言いたかったんです。社長にお禮や挨拶をしちゃ、ダメなんですか?」

だって、子供の頃、挨拶はちゃんとしなさいって習ったよ?

「いや、ダメじゃない。普通は、しないっていうだけだ。だから、あの一件で、重役連中は、お前の顔と名前をバッチリ覚えてるぞ」

うそ!? 知らなかった。

「えぇ〜!? そんなの困ります。私、どうすればいいんです?」

今さら、言い訳して回るわけにもいかないし。

「くくっ、ま、嫌われてるわけじゃない。むしろ、可がられてるんだから、喜んどきゃいいんじゃないか?」

部長は、私を見て、笑ってる。

若干、笑ってるっていうより、笑われてるって気もするけど、最初の氷みたいな表よりは、ずっといい。

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