《冷たい部長の甘い素顔【完】》第27話 ドライブ
10時半。
スマホの著信音が鳴る。
ディスプレイには、秦野部長の文字。
「はい!」
嬉しくて、思った以上に元気な聲で出てしまった。
恥ずかしい。
「俺。今、下に著いた」
素っ気ない、事務的な連絡なのに、その「俺」が優しく聞こえる。
「はい。今、行きますね」
私は電話を切ると、1度、鏡の前でだしなみを確認する。前髪をし直して、うん、大丈夫!と部屋を出る。
マンションの前に、部長のシルバーの車が止まっている。その橫に部長が立ってるんだけど、あれ? なんか雰囲気が違う。
そうか!
眼鏡を掛けてないんだ!
細のデニムに白シャツというシンプルな服裝も、背が高いからよく似合う。
なんだか、いつものスーツ姿に比べて、し若く見える。
どうしよう。
カッコいい……
今朝、電話をもらってから、ずっと會いたかったはずなのに、急に恥ずかしくなってくる。
「おはようございます」
私は、し照れながら挨拶をした。
「おはよう」
そう答えた部長は、そのままスッと手をばし、私の髪を優しくでる。
どうしよう。
部長の手は心地良くて、すごく嬉しいんだけど、ドキドキが止まらない。
の奧がキュンとなって、そわそわする。
すると、部長は、し目を細めて、呟いた。
「爽、かわいいな……」
やだ、どうしよう。
すっごく嬉しい!!
「部長も……カッコいいです」
私は恥ずかしいのを我慢して、し下を向きながら告げる。
すると、部長は、穏やかな優しい聲で、
「ありがとう」
と言って、そのまま助手席のドアを開けてくれた。
「どうぞ」
と部長が勧めてくれるので、私は、照れながら、
「あの……お邪魔……します」
と助手席に乗り込む。
部長は、そのままドアを閉めると、運転席に回った。
なんで?
月曜日にも乗ったはずなのに、なんだか違うじがする。
ほんの5日前のことなのに……
私の部長に対する気持ちが変わったから?
部長は、靜かに車を発車させた。
「部長、今日は眼鏡じゃないんですね」
私が言うと、部長は、
「ああ、あれ、伊達なんだ」
と、あっさりと返す。
「へ?
じゃあ、なんでいつも掛けてるんですか?」
目が悪いのかと思ってた。
「その方が厳しそうに見えるだろ? 俺は、役職の割に若いから、年上の部下も結構いるんだ。若造だと舐められない為に、眼鏡を掛けて厳しい上司のふりをしてるんだよ」
えっ、あえて厳しいふりをしてたの!?
「そうなんですか!? 私、なんで會社では笑わないんだろうって思ってたんですよ。部長、優しいのに、みんな誤解してるのが、歯がゆくて……」
それなのに、ワザとだったなんて……
「俺は、爽だけが分かってくれてれば、それでいいから」
っ!!
また、顔面が燃えた気がする。
なんで、そこでさらっと赤面するような恥ずかしい臺詞を放り込むの!?
嬉しいけど、恥ずかしすぎる。
「そういえば、どこに行くんですか?」
私は、照れ隠しに、話題を変えた。
「いつもとは違う夜景を見に」
部長は、ハンドルを握ったまま答える。
「夜景? こんな晝間から?」
「そ、偽りの夜かな?」
偽りの夜?
さっぱり、分からない。
私が部長を不思議そうに見ていると、赤信號でブレーキを踏んだ部長は、
「ま、著いてからのお楽しみだな」
と笑って、右手で私の手を握った。
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