《冷たい部長の甘い素顔【完】》第29話 名前で

「なぁ、爽」

おもむろに部長が呼ぶ。

「何ですか?」

私は、ハンドルを握る部長の腕に見惚れながら答える。

「お前、いつまで、部長って呼ぶんだ?」

「へ?」

突然、尋ねられて、焦った。

呼び方なんて、全然考えてなかった。

「へ、じゃねぇよ。部長って連呼されると、仕事で店舗回りしてる気分になる」

部長は、一瞬、ちらりとこちらに視線を向けると、変わらず時速100㎞でアクセルを踏む。

「え、でも……

じゃあ、なんて呼べばいいんですか?」

確かに、人相手に「部長」はないかもしれないけど……

「名前で呼べ」

部長は當然のように言う。

でも……

「………ごめんなさい。

あの、名前、覚えてません」

だって、部長が異してきたのって、5日前の月曜日だよ?

好きって自覚したのなんて、昨日の夜だし。

「ぷっ、お前なぁ……」

私が申し訳なくて俯くと、部長は楽しそうに笑った。

「將軍しょうぐんと書いて、“しょうい”って読むんだ」

えっ!?

「將軍しょうぐん!? すごい名前ですね!」

そんなすごい名前の人、初めて會ったかも。

「だろ? 恥ずかしいったら、ないよな」

部長は、照れ臭そうに言う。

「えぇ? 何でですか?

カッコいいじゃないですか!」

うん、部長にぴったり。

「そうか?」

部長の笑顔は、どこか嬉しそうにも見える。

「そうですよ。

でも、軍ぐんって、『い』とも読むんですか?」

「いや。『いくさ』とは読むけど、『い』とは読まないな。親のエゴで付けた名前だよ」

部長は、小さくため息をつく。

もしかしたら、子供の頃とか、名前のせいで嫌な思いとかしたのかもしれない。

「でも、『いくさ』って読むなら、全くの當て字でもないし、いいんじゃありません? 今は、どうやっても読めない當て字の子もいますから」

小學校の先生をしてる友達が、嘆いてたもん。

「で?」

と部長。

「え?」

『で?』って何?

「爽は、名前、呼んでくれないわけ?」

部長は拗ねたように言う。

「え? ああ! でも、なんか、改まって言われると照れくさくて……」

私は、ひとつ深呼吸をする。

「……將軍さん?」

キャ! 恥ずかしい。

でも、私が恥ずかしくて目を伏せる瞬間、部長の顔がほころぶのを、目の端に捉えた。

高速を降り、信號待ちでブレーキを踏むと、部長の手がびて、私の手を握る。

ふふっ

なんか嬉しい。

「將軍さん」

「なんだ?」

「ふふっ

   呼んでみただけ」

ふふふっ。

なんだか楽しい。

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