《冷たい部長の甘い素顔【完】》第37話 家政婦はいらないけど

「メシ、作るよ。」

そう言って、私を腕の中から解放した將軍さんは、スッと立ち上がった。

気づけば、外は薄暗くなり始めていた。

「え?

お料理できるんですか?」

そんなイメージなかった……

「そりゃ、何年も一人で暮らしてれば、できるようにもなるさ。簡単なばかりだけどな」

將軍さんは苦笑する。

「ふふっ、

じゃあ、お嫁さんはいらないですね」

私の何気なく発したひと言に、將軍さんが反応する。

「いや、家政婦はいらないけど、爽はしい」

っ!?

どうしよう!?

嬉しすぎて、どうにかなりそう……

「くくっ、

爽、耳まで赤いぞ!?

ほんとにかわいいなぁ」

そう言った將軍さんは、キッチンに向かっていた足を戻して、私をきゅっと抱きしめる。

そうしてしばらくして、將軍さんは私を離すと、

「さ、メシ作らなきゃ!」

と再びキッチンに向かった。

「手伝いましょうか?」

私は、將軍さんの背中に聲を掛ける。

「爽、料理はできるの?」

足を止めた將軍さんが尋ねる。

「それなりに」

片付けに比べたら、100倍得意かも。

でも、將軍さんは、

「じゃ、今度作ってもらうから、今日は座ってて」

と言うので、私は、

「はい」

と素直に従うことにした。

私は、そのままソファから、料理をする將軍さんを眺める。

將軍さんは、手際よく野菜を洗って刻んでいく。

30分もしないうちに、パスタとサラダとスープが食卓に並ぶ。

「おいしそう!!」

トマトソースのいい香りが充満している。

「いただきます」

私が手を合わせて食べ始めると、その様子を、將軍さんは、目を細めて嬉しそうに眺めていた。

食後、私は手を合わせて言う。

「ごちそうさまでした。

とってもおいしかったです。

また作ってくださいね」

すると、やはり將軍さんは優しく微笑んで答える。

「ああ、いくらでも。

じゃあ、明日も早いし、そろそろ送ってくよ」

そう言うと、將軍さんは立ち上がった。

私も「はい」と答えて、帰り支度をする。

將軍さんは、また車を出して、私のマンションまで送ってくれた。

「今日も楽しかったです。

ありがとうございました」

私がお禮を言って、車を降りようとすると、左手を彼に摑まれた。

振り返ると、將軍さんが私を見つめている。

「しょう…い…さん?」

「爽……」

將軍さんの顔が近づいてきて、が重なった。

何度も何度も角度を変えて重なるから、離れ難い想いが募っていく。

「はぁ……、ダメだ……。

どんどん帰したくなくなる……」

そう呟いた將軍さんは、ぎゅっと私の手を握りしめる。

「……って、俺、大人気ないよな。

  ごめん……」

そう言って、將軍さんは自嘲するように笑うけれど……

そんなことない。

私も、もっと一緒にいたい。

將軍さんが、同じ思いでいてくれることが、嬉しい。

將軍さんは、私の手を離して車から降りると、助手席で茫然と固まっていた私の手を引いて降ろしてくれた。

將軍さんは、ふわりと私を抱きしめて、

「また明日」

と言うと、さらりと離れた。

私は、運転席に乗り込み、去っていく將軍さんを見送ってから、とぼとぼと部屋に戻る。

どうしよう……

毎日、どんどん、將軍さんの事を好きになってく。

28にもなって、こんなにに溺れる日が來るとは思ってなかった。

ついこの間まで、もう一生、はしないって決めてたのに。

私は、また高鳴るを抱えて、寢付けない夜を過ごした。

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