《冷たい部長の甘い素顔【完】》第60話 俺は爽と!

「え?」

私は、思わず、耳を疑った。

「だって、あいつが浮気して妊娠させたおかげで、爽はフリーになれたんだろ?

もし、真面目で一途な奴だったら、俺は一生片思いで終わってたかもしれない。

爽は辛かったかもしれないけど、俺には、ラッキーな出來事だったんだよ」

將軍さん……

「うん。

彼との事は、きっと將軍さんに出會うための寄り道だったのよ。だって、そう思わないと、由香のところで出會った偶然が、タイミング良すぎるもん」

私が明るくそう言うと、將軍さんは、私の左手をぎゅっと握って言う。

「爽、かわいすぎ。

こんなかわいい爽の手を離す奴の気が知れないな」

その將軍さんの大きな手が、いつにも増して暖かくじる。

將軍さんのその微笑みが、さっき沈んだ心をもう一度浮上させてくれる。

私たちは、そうして穏やかにのんびりとお茶をして、そろそろ帰ろうかと立ち上がった。

しかし、そこへなぜかタキシード姿の元カレが現れた。

「爽!」

膝に手を突いて、肩ではぁはぁと息を切らしている。

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結婚式を終えたばかりの彼が、なぜここにいるのか、意味が分からない。

「えっ!?

何してんの!?

あなた、今頃、披宴なんじゃないの!?」

私は、思わず、聲を荒げる。

「……お直しで抜け出して來た」

彼は、まだ、息を切らした狀態で、かろうじてそう答える。

「は!?

何やってるの!?

早く戻りなさいよ!!」

トイレに行くふりでもして抜け出したの?

あり得ないでしょ!?

スタッフの人も困ってるだろうし、何より、結婚式の最中に新郎に逃げられたら、新婦の立場がない。

「俺、爽とやり直したい」

彼は、悪びれもせず、そう言った。

私の隣には、將軍さんがいるのに。

「は!?

バカじゃないの!?

今日、結婚式でしょ!?

子供もいるんでしょ!?」

そうよ。

子供がいるんだから、どうやってもこの結婚式をやめるわけにはいかないはず。

いくらなんでも、そんな簡単なことが分からないほど非常識な人じゃないのに……

「結婚式だけど、俺は、爽のことを諦めきれないんだ。

子供は、先月、流産したんだよ。

だから、もういない。

俺が結婚しなきゃいけない理由はなくなったんだ。

だから、爽、やり直そう?」

はぁ!?

何を言ってるの!?

「無理に決まってるでしょ!?

だいたい、流産したって、一生彼と生きて行こうと思ったんでしょ?

ふざけないでよ!

子供がいてもいなくても、自分が選んだ彼と一生、添い遂げなさいよ!

あなた、ついさっき、チャペルで永遠のを誓ったんじゃないの!?」

彼のあまりの言い草に、つい言葉がきつくなる。

の末に捨てられるのも辛かったけど、披宴で新郎に逃げられるのは、もっと辛いはず。

さっきもチャペルで大勢の參列者に祝福されてた。

きっと、親戚一同や會社の上司や同僚も招待してるのよね。

その人たちみんなに、捨てられたことが知れ渡るなんて、ただ振られるよりキツイよ。

「そんなの、向こうの親に責任とれって押し切られただけなんだよ。

信じてしい。

俺がほんとにしてたのは爽だけだ。

だから、俺は、爽と!」

はぁ!?

「いい加減にして!!」

私が聲を荒げたその時、私の肩に將軍さんの大きな手がそっと置かれた。

「爽、落ち著け。

公衆の面前だぞ」

こんな時でも、將軍さんの手は私の荒ぶった心を落ち著かせてくれる。

気づいた私が、周りを見渡すと、私たちは周囲の注目を集められるだけ集めていた。

「ごめんなさい……」

私は、將軍さんに謝ると同時に、周りにも頭を下げる。

すると、將軍さんは、彼から私を隠すように一歩前に出た。

そして、いつもより一段と低い聲で言った。

「爽をしてたなら、なんで浮気した?

全て自業自得だろ。

まずは、それを自覚しろよ。

お前みたいなやつは、この先も絶対また浮気するに決まってる」

私からは、將軍さんの背中しか見えないけど、聲のじでなんとなく分かる。

將軍さん、絶対、怒ってる。

「あんたにそんなこと言われる筋合いはない。

なぁ、爽。

俺、爽とやり直せるなら、二度と浮気なんかしない。

約束するよ」

そんなの信じられるわけないし、何より、私が今、好きなのは、將軍さんだもん。

やり直せるわけがない。

「ふざけるな。

だいたい、爽は、今、俺と付き合ってるんだ。

俺は、爽を誰にも渡すつもりはない。

黙って諦めろ」

將軍さんは、上から彼を睨みつける。

「っ!!」

息を飲んだ彼は、それ以上、何も言わなかった。

將軍さんは、振り返って私の肩を抱き、

「爽、行こう」

と優しく微笑んで、私をその場から連れ出してくれた。

私たちが歩き始めた時、そこに立ち盡くす彼のもとへ、階段を駆け下りてきたスタッフらしき人が駆け寄るのが、目にった。

もしかしたら、ロビーのスタッフから披宴擔當者へ連絡がいったのかもしれない。

私は將軍さんのあたたかい腕に守られているようなその覚が嬉しくて、自分の腕を彼の腰に回して、ぎゅっと抱きついたまま歩いた。

駐車場で將軍さんの車に乗ると、私は即座に謝った。

「將軍さん、今日は、ごめんなさい……」

せっかく私のために連れてきてくれたのに、嫌な思いをさせちゃった。

すると、將軍さんは、ふっと笑って、

「なんで?

爽は全然 悪くないだろ?

全然、気にすることなんかないよ。

むしろ、爽を傷つけたあいつに、言いたいことを言えて、すっきりした」

と言ってくれた。

それと同時に、長い腕をばして、私の頭をぽんぽんとでてくれる。

ほんとに、あの時、あの別れがあって良かった。

あの別れがあったからこそ、私は今、こうして誰よりも幸せでいられるんだから。

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