《冷たい部長の甘い素顔【完】》第69話 馴れ初め

「ありがとうございます」

將軍さんと共に、私もまた頭を下げる。

「つきましては、社長と専務に仲人をお願いしたいのですが……」

將軍さんが、専務にもそう説明をする。

どうかな?

將軍さんは、仲人は社長以外にいないと思ってるみたいだし、引きけてくださるといいんだけど……

「まぁ、そんな大役、私たちに務まるかしら」

専務は、社長を見やった。

「まぁ、務まるかどうかは分からないが、他ならぬ秦野くんの頼みだからね、一生懸命、務めさせていただこうと思うんだが、いいかな?」

今度は、社長が専務を見て尋ねる。

「あなたがいいなら、いいですよ。

仲人って、喋るのは、夫だけですからね。

私は、隣でおとなしく座ってます」

そう言って、専務はくすくすと笑う。

この2人は、経営者としても、夫婦としても名コンビだと思う。

専務は、言いたいことは言うけれど、上手に社長を立てて、支えている。

私たちも、何十年かあとには、この2人みたいに素敵な夫婦になれるかな?

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「じゃあ、決まり。

秦野くん、一杯、仲人を務めさせてもらうよ」

社長は、將軍さんにそう告げた。

「ありがとうございます。

どうかよろしくお願いします」

私たちは、揃って頭を下げる。

「で、そんなことより……」

社長が切り出した。

えっ? 何?

仲人をそんなことって言うくらい、大切な何かがあるの?

私は、隣の將軍さんを見上げる。

「はい」

將軍さんの返事を聞いて、社長は続けた。

「仲人としては、君たちの馴れ初めを披宴で語らなくてはいけなくてね」

社長も専務も目をキラキラさせて、を乗り出す。

そういうことかぁ……

私たちは、顔を見合わせて、互いの顔に自分と同じ困った顔を見つけた。

「ふぅぅ……」

將軍さんは、大きく息を吐くと、話し始める。

「実は、社長に異させていただいたその日に食事にいまして……」

「ほう!」

目を見開いた社長は楽しそうに聞いている。

「2日後に彼が発起人となって開いてくれた歓迎會でも、彼を連れて抜け出しまして……」

「まぁ!」

専務も楽しそうだ。

「金曜には、際を申し込んで、その場でOKをもらいました」

「へぇ!

秦野くんは、奧手だと思ってたけど、なかなかやるねぇ」

社長は、心しきりでうなずいている。

確かに、こうして聞いてみると、すごく早い。

すると、橫で聞いていた専務が口を開いた。

「園部さんは、そんな短期間で、よくこんな前評判の良くない男ひとと付き合う気になったわね?」

確かに、言われてみれば、そうだ。

でも……

「多分、その前から、気になっていたからだと思います」

うん、きっとそう。

「その前から?」

専務だけでなく、將軍さんまで、不思議そうな顔をしてこちらを見る。

「実は、私たち、行きつけの居酒屋さんがあるんですけど、同じお店なんです。

將軍さんが、うちに異してくる直前に見かけてから、ずっと気になってて……」

將軍さんが、驚いた顔をする。

「そんなこと、初めて聞いた……」

そうよね。

「だって、私も、今、思い出したんだもん」

それを聞いて、専務が、ますます楽しそうに笑みを見せる。

「あらあら!

でも、一目惚れってわけじゃないわよね?

それ以前にも會社で見かけたことは、何度もあったでしょ?」

私は、専務に向き直って答える。

「はい。

あの、將軍さんは、社では、怖いとか厳しいって評判があるんです……けど……」

そこで、私は、ちらりと將軍さんの方を見て、表を確認する。

こんなこと言って、怒ってない?

すると、將軍さんは、フッと笑って、

「大丈夫。分かってるから」

と、私の手を握った。

私は、その手を握り返して、話を続ける。

「その、會社では、ほとんど笑わない秦野部長が、お酒を飲んだら、笑うのかな?とか、どんなお友達と來てるんだろう?とか、學生の頃はどうだったのかな?とか、考え出したら、キリがなくて……」

「うんうん。そうだよね」

社長が相槌を打ってくれるので、私は調子に乗って、話を続ける。

「だから、その秦野部長と食事に出かけてみて、意外と話しやすいし、よく笑ってくれるし、すごく優しいし……」

「まぁ! 分かるわ!

は、ギャップに弱いものね」

今度は、専務が、うんうんとうなずく。

「まぁ、何にせよ、良かったな、秦野くん」

社長に言われて、將軍さんは照れ臭そうに

「はい」

とうなずいた。

私たちは、最後にもう一度、きちんと挨拶をして、社長宅をあとにする。

玄関を出るなり、將軍さんは、私の手を握った。

「厳しいふりをしてて、良かった」

將軍さんが、ぼそっと呟いたのを私は聞き逃さなかった。

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