《冷たい部長の甘い素顔【完】》その後 第2話 社外で社のヒミツの関係

あれは、ひと月ほど前のゴールデンウィークの事。

私たち夫婦は、社長夫妻に呼び出され、有名な日本料理店で會食をした。

「こんばんは。

今日は、お招きありがとうございます」

將軍さんの挨拶に合わせて、私も頭を下げた。

「こんばんは。

まあ、座って」

社長に促されて、私たちは並んで向かいの席に著く。

「さ、どうぞ」

社長からお酌をしようと徳利が差し出された。

「いえ、社長から」

將軍さんは、先に社長にお酌をしようとする。

ありがちな男陣のお酌合戦を橫目に、私は、専務に話しかけた。

「専務はいかがなさいます?

確かあまりお酒は召し上らなかったと記憶してますけど……」

社の忘年會などでも、いつもお茶を飲んでいらっしゃった気がする。

「そうなの。

さすが、爽さん、よく覚えてたわね。

私はこのお茶で十分。

爽ちゃんは、たくさん飲んでいいのよ」

専務は、そう笑顔でおっしゃって、手元の湯呑みを持ち上げてみせる。

お料理が順に運ばれてくると、食事を楽しみながら、社長が切り出した。

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「実はね、來月の株主総會で、秦野くんを取締役に推薦しようと思うんだ。

特に反対する理由もないだろうから、多分、満場一致で可決されるんじゃないかな」

私は、隣の將軍さんを見る。

將軍さんは、真っ直ぐ社長を見て、

「ありがとうございます」

とお禮を言った。

「でね、ここからが本題なんだけど。

これは、絶対にまだ緒。

社外はもちろん、社でお願いしますね。もちろん、爽さんも」

と社長は、念を押した。

「はい」

「はい」

私たちは、口を揃えて返事をする。

「うちの會社の將來について。

私もそれなりに年をとったから、將來が気になり始めてね。

でも、まあ、あと10年か15年位は社長としてがんばりたいとは思うんだけど、その後を秦野くんに任せたいな…なんて最近思うんだ」

「え!?」

私も將軍さんも、驚いてそれ以上、言葉が出ない。

「ご存知の通り、社長、専務、常務は同世代だから、そこに引き継いだ所で、數年しか持たないでしょ?

秦野くんと東堂くん以外の部長たちは、他の會社から引き抜いて來た人たちで、仕事はできるけど、この會社に著があるわけじゃない。

利益になると分かれば、多分、売卻や合併だって平気な人たちだ。

まあ、だから冷靜に會社を見て判斷できるんだけど。

その點、秦野くんは、この會社にを持ってこの會社のために働いてくれてると、僕は思ってる。

どうだろう?

將來の社長として、この會社を引き継いではもらえないだろうか?」

社長も専務も、真剣な目で將軍さんを見つめている。

どう見ても、ふざけているようには見えない。

本気……だよね?

「私より、先に東堂さんではないんですか?」

やや困した様子で、將軍さんが尋ねる。

「うん。

東堂くんもいい子だとは思うよ。

でも、あの子は優しすぎて、人の上に立つタイプじゃない。

君は、自分が恨まれても嫌われても必要な判斷ができる人だと思う。

社長は、いい人なだけじゃ、できないんだ」

それはそうかもしれない。

新店舗を作ることも大切だけど、どうやっても収益の上がらない店舗を早めに閉めることも大切。

例え、そのために職を失う従業員がいたとしても。

そして、東堂部長は、明るく楽しく、お調子者なところがある人。

誰とでも仲良くできる反面、人に嫌われるのは苦手そう。

將軍さんも、何か思うところがあるのか、無言で社長を見つめている。

「それに何より君には爽さんがついてる。

君が苦渋の決斷で、誰かを傷つける事になった時、爽さんは誰よりも上手くフォローができる。

2人揃ってれば、最強だと思うんだ」

えっ!? 私!?

「それは、將來、爽も経営陣に加えるという事ですか?」

將軍さんが確認する。

いくらなんでも、それは、あり得ないでしょ!?

「もちろん。

秦野くんを企畫部に異させる時、約束したよね?

爽さんを定年まで働かせるって。

ま、取締役に定年はないけどね」

と言って社長は笑った。

何、その約束!?

初耳なんですけど!!

「待ってください!

將軍さんは、しっかりした人です。

社長も務まると思います。

でも、私にはそんな大役は無理です」

私には、もともと、そんな野心はない。

平社員のまま、平々凡々に人生を終わるのがいい。

けれど、そんな私の言葉を聞いて、社長は真っ向から否定する。

「そんな事ないよ。

僕は、初めから、爽さんを將來の幹部候補として採用したんだから」

「え!?」

何、それ!?

そんなとんでもない話、初めて聞いたよ。

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