《【完結】苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族~》第1章 再婚、義兄、同居!?(1)……最悪だ

「ママと仲良くするんだぞ」

大きな手が私のあたまをでる。

――どうしてパパはママと仲良くしないの?

そんな愚かな言葉はいながらに飲み込んだ。

だって、もうこの人は私のパパじゃないってわかっていたから。

「じゃあ、元気でな」

パパだった人に見送られ、ママに連れられて玄関を出た。

居心地がいい溫かい日差しが差し込むリビングにも、たくさんの玩を詰め込んでいたお気にりのあの部屋にも、もう私の居場所はない。

「お腹空いたね。

先にごはん、食べちゃおうか。

なに、食べたい?」

ママが笑って私を見下ろす。

でもその目は真っ赤になっていた。

ぎゅっと、繋いだ手を力いっぱい握り返す。

私がここにいるよ、って。

「おにぎり。

それで、公園で食べるの」

「そんなのでいいの?」

「うん」

急かすように、ママの手を引っ張った。

私がしっかりしなきゃ。

もうパパなんていらない。

私がひとりで、ママを守るんだ。

――そして。

――リロリロ、リロリロ……。

「ん……」

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で、攜帯のアラームをスヌーズにしようとしたが、起きた。

「……最悪」

なんで今頃、あんな夢をみたんだろう。

ああそうか。

きっと今日のことで思いだしたんだ。

「何時……?」

確認した時刻はすでに十二時を回っていた。

いくらGW中で前日は夜更かしをしすぎたとはいえ、寢過ぎだ。

ぼーっとベッドを抜け出し、歯磨きをしているうちにあたまもはっきりしてくる。

今日は母から、再婚相手を紹介したいと呼びだされていた。

だからきっと、あんな夢をみたのだろう。

私が小學校一年生のとき、父がを作って離婚した。

相手は最近、社してきた若いで、すでに妊娠していた。

あれから母は手ひとつで私を育てくれた。

きっと母だってやりたいことがたくさんあっただろうに、私のために我慢して。

その母が再婚するというのだ、これほど喜ばしいことはない。

ただし、別れた父のような、最低の男だったら容赦なく反対するけど。

「服……」

一流ホテルのレストランでディナー、となれば最低でもセミフォーマルな格好をしなければいけない。

けれど私の手持ちとなると……。

「昨日、買いに行けばよかった」

ため息をつきつつ、黒レースの七分袖ブラウスと同じく黒の膝丈フレアスカートを引っ張りだす。

これなら、可もなく不可もなくでまあいいだろう。

「相変わらず地味ですね」

鏡の中に私に苦笑い。

背はギリギリの150センチ、顔が薄くて特徴がなく、振り返っただけで忘れる顔だとよく言われる。

さらに重たいあご下までのボブがさらに野暮ったく見せていた。

父似のこの顔が、私は大っ嫌いだ。

「……ママに似たかったよ」

ママは私と違い、どうしていままで再婚しなかったんだろう、ってくらい可い。

まあ、私が最大の理由なんだろうけど。

その母が再婚するというのだ、できるだけ祝福したい。

待ち合わせのホテルのロビーで、すぐに母は見つかった。

「元気にしてた?」

「母さんこそ元気そうね」

再婚を考えるような相手ができたからか、ひさしぶりに會う母はいつにもなく輝いているように見えた。

母がし、うらやましい。

父とはあんな酷い別れ方だったのに、新しいに踏み出せた母が。

あれ以來、私はに、特に結婚というものに否定的になってしまった。

それは、いまでも変わらない。

「そういえば、引っ越し先は見つかったの?」

心配そうに母の眉が寄る。

理由は、わからなくもない。

私も早く、あそこを出たいし。

「休み中に探すよ」

「決まったら連絡ちょうだい。

……向こうはし遅れてくるそうだから、先にっておきましょ?」

「うん、わかった」

近狀をわしつつ、案するスタッフについて歩く。

「こちらです」

「ありがとうござい……!!」

された部屋の中を見た途端に固まった。

ナチュラルにパーマのかかった黒髪を七三分けにして後ろに流し、メタルスクエア眼鏡で妙にいい姿勢で座っている男は、私の會社の専務、だったから。

なんで、あなたがここに?

まさか、母の再婚相手が彼……なんてことはないと思いたい。

だいたい、年が離れすぎている。

もうすぐ五十の母に対し、専務は三十のはず。

「……最悪だ」

ぼそっと小さく、専務が呟いた聲が耳にかろうじて屆いた。

うん、その言葉、そっくりそのままお返しします。

どういう理由にしろ、あなたがここにいるってこと自が最悪です。

「仁じんさん、……かしら?」

小首を傾げる母は、実年齢が霞んで見えるほど可い。

だから再婚するんだろうけど。

「はい。

三ツ森みつもり有希ゆきさんとその娘さん、……ですか?」

彼が上げたくいっとメタル眼鏡がキラリとった。

こんなときだ、その気がなくても社辭令として笑顔くらい作るものだが、彼の表は相変わらず一ミリも変わらない。

「はい、紹介が遅れました。

私、巌いわおさんとお付き合いをさせていただいている三ツ森有希、です。

こちらは娘の涼夏りょうかです」

母が自己紹介をし、私もぺこりとあたまを下げる。

母の言葉からすると再婚相手は専務じゃなくて社長の方?

それはしだけ安心だ。

「初めまして」

専務はやはりしも表を崩さず、あたまを下げてきた。

「涼夏、こちらは巌さんの息子さんの、八雲やくも仁さん」

「……初めまして」

引き攣った笑顔で私もあたまを下げる。

初めましてって白々しい。

あなたは私のこと、ご存じですよね?

ああ、あれですか。

すでに私のことなんて忘れているんですか。

どうせ、薄い顔ですよ。

席に著いたものの、なにを話していいのかわからない。

だいたい、私はこの男のことが大の苦手というよりも敵視していた。

「先になにか、飲みを頼みますか。

この暑さです、が渇いたでしょう」

そつなく、メニューを手に専務が勧めてくる。

確かに五月にった途端、夏が來たのかというほど暑い。

がしかし、それ以上に謎の張でが渇いていた。

「そうですね……」

開かれたメニューを手に、飲みの注文が済んだところでドアが開いた。

「遅くなってすまない!」

「巌さん!」

初老の域にさしかかろうかというのにダンディなその人の登場に、ぱっと母が乙のように顔を綻ばせる。

「悪かったな、有希。

こんな日に仕事がって」

「いいえ、仕方ないですから」

完全にふたりの世界にっている彼らは、私たちが見ている前だというのにキスをした。

「えっと……」

「ああ、すまない」

ようやく男は私たちの存在に気づいたようで、こほんと小さく咳払いして椅子に座った。

しくらいは恥ずかしかったようだ。

「自己紹介は済んだのか」

「はい」

母はさっきからにこにこしっぱなしだ。

それだけこの人に惚れているということだろう。

「じゃあ。

八雲巌と申します。

有希さんとは結婚を前提にお付き合いさせていただいております。

仕事は……ご存じですよね。

君は我が社の社員だからな、三ツ森涼夏さん」

「あっ、はい!

もちろん、です!

……八雲社長」

まさか、母の再婚相手が私の勤めている會社の社長だなんて思いもしなかった。

私の勤めている會社、おろち製菓は國では一、二位を爭うお菓子メーカーだ。

そこの社長と弱小出版社の編集をしている母が、どうやって知り合ったのか謎だけど。

それにしても、社長が一社員でしかない私のことを知っているなんて驚きだ。

社員五千人分の顔と名前を記憶しているって噂は本當なんだろうか。

「妻を亡くして二十二年。

いままで妻以外の人間を考えたことはなかった。

けれど可憐な有希さんと出會って、もう一度がしたいと思ったんだ。

有希さんを絶対に幸せにする。

だから結婚を許してもらえないだろうか」

深々と八雲社長が私へ向かってあたまを下げる。

母のあんな、幸せそうな顔はいままで見たことがなかった。

それに八雲社長が優しい人であることは知っている。

……息子の方は問題ありだけど。

「母をよろしくお願いします」

テーブルにあたまがつくほど、八雲社長へとあたまを下げた。

きっとこの人なら、母を幸せにしてくれる、そう確信して。

食事は和やかに進んでいく。

真顔のまま、當たり障りのない相づちを打っている専務をちらり。

母の再婚は喜ばしい。

が、この男、八雲専務と義兄妹になるとなると、複雑な思いだ。

彼のせいで可がっていたインターンの子が辭めたとなればさらに。

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