《【完結】苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族~》第1章 再婚、義兄、同居!?(5)兄妹なら當たり前だろ

家に帰った途端、仁は部屋に引っ込んだ。

「あれはいったい、なんだったんだろうな……?」

わけがわからないまま、ものの所定の位置を決めてしまっていく。

ごはんを炊いて食事の支度ができても、仁は部屋から出てきそうにない。

――コンコン。

寢室をノックしてみたけれど、中から反応はない。

他の部屋にいるんだろうか。

別に止はされなかたっし、ちょっと探検気分で向かいの部屋をノックしてみた。

――コンコン。

やはり返事はない。

し迷ってそっとドアを開けてみる。

「あの……」

書斎とおぼしきその部屋の中は、本と書類とパソコンでジャングルのようになっていた。

いくつものモニターが並ぶ機の前に座った仁は、一心不にキーを打っている。

「ごはん、できましたけど……」

控えめに言ったのもあるが、仁は気づかない。

打ち込まれた文字が猛スピードでスクロールしていく。

これっていったい、なにをやっているんだろう?

そっとのぞき込んだ他の畫面には、我が社はもちろん、他社の似た商品のホームページ、さらにはチョコレートの特徴なんてページまでで開かれている。

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「仁……?」

もう一度聲をかけてみたけれど、返事はない。

きっと仕事中だというのは理解した。

なら、邪魔はしない方がいい。

音を立てないように部屋を出る。

先に食べるかどうか悩んで、もうしだけ待つことにした。

「凄いな、あの集中力……」

もしかしたら晝間のタブレットは、ゲームじゃなく仕事をしていたのかもしれない。

「私も見習いたいな……」

引っ越しの疲れもあって、うとうとしてくる。

それにこのソファーの座り心地は最高にいい。

そのままつい、眠ってしまった……。

「涼夏」

「ん……」

揺りかされて目を開ける。

途端に目にってきたのは、八雲専務の顔。

なんであなたが私の家に? ……とまで考えて、彼の家に引っ越ししたのだとようやく思いだした。

「すみません!

こんなところで寢て」

「いや、いい。

それより食事はしなかったのか」

仁の目がちらりと、ダイニングへ向く。

そこにはすっかっり冷えてしまったごはんがテーブルの上にのっていた。

「あっ、その……。

待った方がいいかな、って」

「……はぁーっ」

仁の口から大きなため息が落ち、びくっとが震える。

もしかして、ダメだった?

「すまない。

僕のことは気にせずに涼夏は食ってていいから」

「……はい」

これって、叱られている?

私の融通が利かないから。

「別に怒っているわけじゃない。

僕に付き合って君が腹を減らしてるとか可哀想なことをしたくないだけだ」

くいっと、仁が眼鏡のブリッジを押し上げた。

もう學習した、あれはたぶん、照れている。

「わかりました。

これからはそうします」

「うん。

じゃあ、食べようか」

ダイニングに向かった仁はテーブルに著き、おもむろに箸を取った。

「ちょっと待ってください!

溫めますので!」

「別に食えりゃ、冷めてたって……」

「溫めた方が絶対、味しいんです!」

強引に皿を取り上げ、溫め直して出す。

「いただきます」

生姜焼きを一口食べ、ごくりと飲み込んだ仁がにぱっと嬉しそうに笑う。

「うまいな」

「よかったです」

なぜかその笑顔に、私のの中までぽっと溫かくなった。

変なの。

「タダで置いていただくのは悪いので、これからは朝晩私がごはんを作ります。

いらないときは連絡してください」

はぁーっと大きなため息をつき、仁が箸を置いた。

私はそんなに、呆れられるようなことを言っているんだろうか。

「そんなこと気にしなくていい、兄妹なんだから當たり前だろ」

「でも……」

私の母と仁の父親が結婚するからといって、私たちはほぼ他人だ。

なのに一方的に甘えるとかできるはずがない。

「いいと言ったらいいんだ。

それからうちには週三度、ハウスキーパーにってもらっている。

洗濯は出しておけば彼がやってくれるから、涼夏も出しておけばいい。

他になにかあったら遠慮なく言ってくれ」

「……はい」

掃除洗濯も封じられたとなると、完全に私はタダ飯食らいだ。

そんなの、納得できない。

「なにか私にできることは……」

「君は君の好きなように生活したらいい。

足りないものや必要なものがあったら、なんでも言ってくれ。

準備するから」

「……はい」

ぴしゃりとそれで私の反論を封じ、仁は黙々と殘りのごはんを食べた。

私もなにも言えなくて黙って食べる。

「ごちそうさま」

キッチンへ食を下げ、リビングを出ていこうとしていた仁が戻ってくる。

「そうだ。

おやすみ、涼夏」

ちゅっ、と額にれたらかいもの。

おそるおそる見上げると、レンズ越しに視線のあった彼は目を下げ、眩しそうに私を見ていた。

「えっ、あっ、その」

口からはまともな言葉が出てこない。

いや、二十四歳の反応としてはおかしいのはわかっている。

がしかし、私はいまだに、どころか、だ、男にとにかくキスなどされたことがないのだ。

「兄妹ならするだろ、これくらい」

普通な顔をして仁が言い放つ。

歐米の家庭ならたとえ人した兄妹間でもそれが普通なのかもしれない。

でもここは日本、日本なのだ。

「ああ、僕は朝にシャワーを使うから、風呂は勝手に使っていい」

今度こそ仁が出ていき、ドアがバタンと閉まる。

途端にその場にすとん、と座り込んだ。

「えっ、ええーっ!!!!!!」

遅れてようやく、悲鳴が出てくる。

あろうことかあの男は、私の額にキ、キスなどと。

社長に言い切ったあれは噓だったのか!?

とにかく、こういう危険があるから、この引っ越しは嫌だったのだ。

「出ていく。

さっさと引っ越し先を見つけて出ていく」

贅沢は言っていられない。

とにかく早急に引っ越し先を見つけなければ。

「……はぁーっ」

私の口からドブのため息が落ちていく。

引っ越し先が見つかるまでの暫くの間とはいえ、上手くやっていけるんだろうか。

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