《【完結】苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族~》第2章 キス、プレゼント、ランド!?(1)千里部長と仁
翌日、GW明けの木曜。
朝起きて準備を済ませ、朝食の準備にキッチンへ向かおうとしたら、仁がリビングでタブレットを見ていた。
會社でよく見かける、スーツ姿。
黙っていればほとんどの人のイケメン基準をクリアするだろう。
こそっと覗いたタブレットは、株の変を見ているようだった。
「朝食は食べたんですか」
無言でコーヒーカップが上げられる。
コーヒーを飲んだからいい、って?
いいわけがない、そんなの。
「ついでに作りますけど、時間ありますか」
仁の目はタブレットに向いたまま返事はない。
はぁっと短くため息をついてキッチンへ向かう。
手早くスクランブルエッグと付け合わせの野菜、トーストに簡単スープの朝食を用意した。
――二人前。
「朝食作りましたけど、食べません、か!」
し強めに言ったら、ようやく仁の目がこちらを向いた。
「……食う」
タブレットを置いてテーブルに著き、手をあわせる。
「いただきます」
「はい、どうぞ」
あんなに仕事に集中しているのに、食卓にはタブレットを持ち込まないのは、ちょっとじがいい。
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「僕の分は作らないでいいと昨日……」
「うるさいですね。
さっさと食べちゃってください」
しれっと言って私も朝食を食べる。
だって、そこに朝食を食べていない人がいるのに、私ひとり分だけ作って食べるのはなんか、違う。
「ごちそうさま。
いってきます」
「はい、いってらっしゃい。
……!」
昨晩に続き、仁のが私の額にれる。
私がなにも言えない間にリビングのドアが閉まり、仁は出ていった。
「だからー!!!!!!」
今日も遅れて、悲鳴が出てくる。
それほど、私にとってこれは処理不能案件なのだ。
「兄妹だからってここは日本で歐米じゃないし」
足音荒くキッチンへ行き、置いてあるウォーターサーバーから水をコップに注ぐ。
それをごくごくと一気に飲み干した。
「仁にはちゃんと、言わなきゃ」
冷たい水で幾分気分は落ち著いた。
一度は人間だと認めたものの、あの人はやっぱりなにを考えているのかさっぱりわからない。
「それにしても……」
仁の出勤時間が早いのに驚いた。
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通勤一時間と朝活三十分にあわせた、いつもの時間に私は起きたのだ。
それなのに仁はもう出ていった。
ここから會社まで、車で十分もかからないはずなのに。
「専務の仕事ってそんなに忙しいんだ……」
なのに朝食がコーヒーだけとかいいはずがない。
片付けを終え、自分の部屋に戻って參考書を開く。
通勤時間が減った分、朝活の時間が増えて嬉しい。
いまは貿易実務検定の勉強をしている。
試験ももう、來週の日曜日に迫っているし。
資格取得は私の実益を兼ねた趣味だ。
お給料にも結びつくしね。
「そろそろ出なきゃ」
仁が出勤して一時間後、私も家を出た。
最寄り駅から地下鉄通勤を選んだが、會社まで頑張って歩けない距離でもない。
帰りや、寒くなってきた時期ならありかも。
「おはようございます」
「おはよう」
業界新聞を見ながらコーヒーを飲んでいた千里せんり部長が白い歯を見せて爽やかに笑う。
あの笑顔に騙されて、彼を狙っているは數多いるらしい。
もっとも、千里部長の方はオールスルーだけど。
彼が私と気さくに話してかまうのは、私が絶対に、誰ともをしないと知っているから。
「なあ。
仁の家に引っ越したって本當か?」
私の橫に寄ってきて、こそっと耳打ちされた。
途端にびくっ、とが震える。
「ど、どうしてそれを……?」
こわごわ、私よりもかなり上にある彼の顔を見上げる。
仁も背が高いが、千里部長も負けず劣らず背が高い。
「んー、仁が愚癡ってきた。
三ツ森が義兄妹になるうえに同居することになったって」
いかにもいたずらっ子のように千里部長がにぱっと笑う。
彼は仁と同じ年で、さらに親友なのらしい。
社でもよく、ふたりでいるところを見かける。
とはいえ、あの冷徹アンドロイドとこの軽い部長が親友だなんていうのはあまり、信じられないけど。
「そう、なんですね」
千里部長の言葉がにぐさっと刺さってきた。
彼に愚癡るということはやはり、仁にとって私と義兄妹になることも、同居も迷だってことだ。
でも、人に言うくらいならはっきりと私に言えばいいのに。
「まー、あいつ、いろいろ難しい奴だけど悪い奴じゃないから仲良くしてやって。
いや、三ツ森から仲良くしたら絶対喜ぶから、むしろ仲良くしろ」
「……は?」
千里部長がビシッ! とその長い人差し指を私の鼻先に突きつけてくる。
どうしてそんなこと、命令されなきゃいけないんですか?
「いやー、面白くなってきたなー」
ちょうどコーヒーを飲み終わったのか、はっはっはーとかわざとらしく笑いながら、彼は部長室へ消えていった。
「……こっちは全然、面白くないですって」
はぁーっとため息をついて仕事の準備をはじめる。
GW明けで次の休みに挾まれた今日明日は休みを取っている人も多く、仕事ものんびりとしていた。
もっとも、嵐の前の靜けさ、って奴だけど。
週明けからドイツの菓子メーカーとの、業務提攜の話が本格的にきだす。
契約締結予定日は向こうがバカンスにりはじめる七月直前。
それまではとにかく忙しいというわけだ。
「千里はいるか!」
午後になっていきなり仁が私のいる部署、営業戦略部に下りてきた。
「仁、うるせーぞ!」
バン! と勢いよく部長室のドアが開き、こちらも怒鳴りながら千里部長が出てくる。
「昨日、近所のスーパーに行ったんだが、新製品の売り込みが弱い。
そこでだな……」
一分、一秒でも無駄にしたくないのか、話しながら仁は千里部長の下へと向かっていく。
「仁がスーパーに行くとか珍しいな。
明日は大雪か!?」
愉しそうに肩を揺すって千里部長はくつくつ笑っているのに、仁は全く気にせずに話を続けていた。
「宣伝プランをいま一度、見直す必要がある。
それで……」
「はいはい、話はこっちで聞くから」
千里部長に伴われて、仁は部長室へとっていく。
ドアが閉まる前、振り向いた千里部長と目があって、彼の口が「コーヒー」といた。
頷き返して、席を立つ。
コーヒーをふたつ準備した。
きっと仁はスーパーで現狀を見たときから家に帰って私に聲をかけるまで、ずっとあの狀況を改善するにはどうしたらいいのか考えていたに違いない。
「すっごい仕事馬鹿」
上層部には仁の資質を疑い、軽んじている人間もいると聞く。
だから、なのかな……。
「失禮します」
「サンキュー、三ツ森。
悪いけどこれ、コピーしてきてくれる?
あと、いる人間だけでいいから、いま送った資料をすぐにチェックするように、って」
「かしこまりました」
コーヒーを置き、千里部長から書類をけ取る。
思う存分話してが渇いたのか、仁はカップに手をばした。
「こらっ、仁。
わざわざコーヒー淹れてきてくれた三ツ森に禮は?」
「あ、ああ。
ありがとう、りょ……三ツ森、さん」
くいっ、と仁がブリッジを押し上げる。
「い、いえ……」
そのまま、後ずさりで部屋を出た。
一気に給湯室まで戻り、お盆を調理臺に叩きつける。
「なんであそこで照れるの……!?」
こっちまで恥ずかしくなって顔が熱を持ってくる。
し深呼吸して気持ちを落ち著け、給湯室を出た。
みんなに資料の件を伝え、コピーを取る。
「失禮します……」
今度はおそるおそる部長室のドアを開けた。
仁はタブレットを睨んでいて、気づかないようだ。
「コピーを……」
「しっ」
千里部長が、その長い人差し指をに當てた。
「……考え事してるから、邪魔しないでやって」
「……はい」
こそこそと気遣いながら小さい聲で話す。
昨日もそうだったけど、仁は集中すると周りの聲が耳にらなくなるようだ。
「……凄い集中力ですね」
「……だろ?
コピー、サンキュ」
書類を渡し、あたまを下げるだけして部屋を出た。
仁はあんなに仕事に真剣だ。
なのに認めてもらえないのっておかしい。
果が出てないならまだしも。
「じゃあ千里、頼んだぞ」
「わかった。
休み明けからけるようにしとく」
しばらくして仁は來たときと同じで慌ただしく帰っていった。
いなくなり、千里部長が全員の注意を促すようにバン!と大きく手を打つ。
「概要はさっき送った資料のとおりだ。
休み明けからキャンペーンを打ち出す。
お前たちならやれるだろう?」
余裕たっぷりに右頬だけを歪めて千里部長が笑う。
一瞬、水を打ったかのようにしん、と靜まりかえった、が。
「はい!」
次の瞬間、揃って返事をし、みんなわらわらときだす。
うちではいつもそうなのだ、ワンマンの千里部長に引きずり回されている。
でも、それが嫌じゃない。
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