《【完結】苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族~》第2章 キス、プレゼント、ランド!?(2)仁のいう普通とは
明日は殘業、土日は休日出勤だから、今日は早く帰っていいって言われ、定時で上がった。
帰りに、スーパーに寄る。
作る食事はし考えて二人前にした。
「ただいま」
ちょうどできあがった頃、仁が帰ってきた。
リビングに顔を出した仁が私のところへ寄ってくる。
今朝のあれを思いだし、警戒して一歩、後ろへ下がった。
「なんで逃げるんだ?」
「な、なんでって……」
だって絶対、キスする気ですよね?
なんて口が裂けたって言えるはずがない。
仁が一歩、足を前に出せば、私も一歩、後ろへ下がる。
それを繰り返しているうちに、ソファーに足止めされてしまった。
「……涼夏」
仁の左手が後ろあたまに回り、私を引き寄せる。
レンズの向こうで目が閉じられて、まさかこの人、本気でキスする気!? なんて構えたものの。
「……ただいま」
ちゅっと額にがれて離れる。
これ以上ないほど目を下げ、目を細めた仁はするりと私の頬をでて離れた。
「お、おかえりな、……さい」
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「うん」
これでもかっ!ってくらい、心臓の鼓が速い。
仁があんな顔をして笑うだなんて知らなかった。
あんな――あんな、幸せそうな顔。
「僕の分は作らないでいいと言ったのに、また作ったのか」
ちらり、と仁の視線がダイニングテーブルへ向く。
さらに、はぁーっ、とため息が落ちた。
おかげであっという間に落ち込んでいく。
いらないと言われるかと構えたものの。
「……仕方ないから、食う」
ソファーに鞄といだジャケットを置き、ネクタイを片手でしだけ緩めて仁は食卓に著いた。
「いただきます」
なんだかんだ言いながらテーブルに著いた仁が手をあわせる。
「その、食べてきたとかなら無理に食べる必要はないので」
これは私が勝手にやったことだ、別に仁が付き合う必要はない。
「いや?
食ってないし腹は減っている」
箸を手に、仁は豪快に大口を開いてご飯を口にれた。
「え?
じゃあ、私が作ってなかったらどうする気だったんですか……?」
「なんか適當に、その辺にあるものを食う」
「その辺、って……」
この家には私が買ってきた未調理の食材と、會社からもらってきたであろう試作品のお菓子しかない。
「だから君が、気にする必要はない」
そんなことを言われても、激しく気になる。
「でも……」
「とにかく、君は僕のことにかまわなくていい」
あとはなにも言わず、黙々と仁はごはんを食べた。
ふたりなのにひとりで食べているような覚。
こんなのはいたたまれない。
「ん、うまかった。
ごちそうさま」
最後も仁は律儀に手をあわせ、食をキッチンへ下げた。
「涼夏。
……おやすみ」
今度は逃がさないかのように先に手が後頭部に回り、額に口付けが落とされる。
「だ、だから……!」
リビングを出ていこうとする、仁のベストの紐に指をかけて止めた。
必死に深呼吸を繰り返し、気持ちをしでも落ち著ける。
仁はその間、黙ってそのまま立っていた。
「歐米ではそれが普通かもしれませんが、ここは日本なんです、日本。
普通はそんなこと、しないんです」
目はあわせられず俯いたまま、早口で捲したてる。
仁はなにも言わなければベストを摑む私の手を振り払いもしなかった。
「……普通、って誰が決めるんだ?」
「……は?」
思わず、顔が上がる。
見上げた彼は軽く握った拳をあごに、首を傾げていた。
「我が社の中ではおろちといえば、會社名かキャラクターのおろちくんを指すのが普通だが、神話世界では八岐大蛇のことだ。
もっとも、社名のおろちはそれからきているが。
それにアニメやまんがが好きな人間なら他のキャラクターを思い浮かべるだろう」
「は、はぁ……」
振り返った仁はいきなり語りはじめたが、これはいったい、なんのスイッチがってしまったんだろう?
「このように、おろちひとつにとっても、その人によって指すものが違う。
ならば普通とは、その人にとって當たり前のことじゃないだろうか」
「え、えっと……」
「なので日本での普通とかは僕には関係なく、僕の中では挨拶として涼夏にキスをすることは普通なのだが」
ぐいっと、仁の顔が近づいてくる。
それこそ、もうしでがれてしまうくらいまで。
「そういうわけなので、僕はこれからも涼夏にキスをするが、かまわないだろうか」
仁の吐息が私のに……れた。
まるで本當にキスをしているかのようで、あたまがくらくらする。
「……はい」
私の吐息もきっと、あの形のいい薄いにれている。
なんだかそれは、とても靡にじた。
「なら、よかった」
ゆっくりと仁が私から顔を離し、満足げに頷く。
途端にから力が抜けて、膝がガクンと崩れた。
「おっと!」
慌てて、仁が倒れないようにを支えてくれる。
「あ、ありがとうございます」
そろそろと仁のを支えに、立ち直す。
私を包む、ラストノートの甘い香りと仁の汗のにおい。
その香りは酒にでも酔っているかのように私を酩酊させた。
「その、……仁?」
仁は私をに抱えたまま、いつまでも腕を離してくれない。
「……ああ。
大丈夫、か」
「……はい」
仁の拘束が解かれ、そろそろと腕の中から出た。
あたまがガンガンしているのか、心臓がどくどくと強く脈打ちすぎているのか、それとも両方なのか、よくわからない。
ひたすら顔が、が熱くて目の前がぐるぐる回る。
「僕は涼夏をしている。
……妹として」
最後にぼそっと呟かれた聲は、酷く苦しそうだった。
顔を上げたときにはドアがバタンと閉まって仁は出ていった後で、どんな顔をしていたのかなんてわからない。
「なん、だったんだろう……?」
今度こそ、その場にしゃがみ込んで膝を抱える。
まるで酷く酔ったときのように、心臓は激しく鼓を続けている。
でもこれはきっと、私が男慣れしていないからであって。
「妹としてしている、か」
妹になると紹介されて一週間もたたない人間にそんながもてるんだろうか。
私には――無理。
「私もそうなるのかなー」
でもそのうち、兄として仁をする。
そんなこと、できるんだろうか。
あとで知ったが、仁は日本の大學に行かずにアメリカの大學を卒業しているそうだ。
だから覚がズレている……のとは違う気がするんだけど、なんでだろう?
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