《【完結】苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族~》第2章 キス、プレゼント、ランド!?(8)ここは家族で來るところだから

気を取り直してパークの中を回る。

心配に反して、仁は意外とにこにこと楽しそうに笑ってパークを回っていた。

さすがに、私と一緒にわーわーキャーキャーはないけど。

「その。

私はうるさいですか」

暗闇を進むゴンドラの中で、ぼそっと仁に訊いてみた。

だったら、なんて気にかかる。

「いや?

そうやって楽しんでいる涼夏は可い」

「え?

そういえばさっきも……きゃーっ!」

問い返そうとした瞬間、暗闇を抜けたゴンドラが水しぶきをあげて急な斜面をり落ちていく。

おかげで、訊く機會を失ってしまった。

「あんなに水をかぶるとは思わなかった」

そう言いながらも仁は笑って眼鏡を拭いている。

「でも他にも、水をかぶるのってけっこうありますけど……」

「……」

みるみる仁の顔がけなくなっていく。

なんだかそれがおかしくて、つい笑いがれた。

「そういうのはできるだけ、避けましょうね」

「いや、いい。

せっかく來たんだし。

それに僕のせいで涼夏が思いっきり楽しめないとか、あってはいけないからな」

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仁の手が強引に私の手を摑み、歩きだす。

本當にいい人だ、この人は。

あんなに敵視していた自分が恥ずかしい。

お晝ごはんは仁にしては珍しく、軽食のレストランにってくれた。

食えればなんでもいい、時間の無駄だとか言って、ポップコーンとチュロスで終わらせるんじゃないかって警戒していたけど。

「疲れてないか」

大きな口を開けて豪快に仁がハンバーガーにかぶりつく。

「いえ、大丈夫です。

でもなんで急に、ブラウナランドなんですか」

昨日は強引に押し切られてしまったけど、それでも気になっていた。

ただ行きたかっただけだとか言われたらそれまでだけど。

「ここは家族で來るところだろ」

「……はい?」

それはそうだけど。

別に家族以外が來てはいけないところじゃない。

「僕の家族は父しかいない。

その父にねだって一度だけ、ランドに行く約束をしたんだ」

それは私にも覚えがある。

周りの子が家族とランドに行ってきたと自慢するのがうらやましくて、母にねだった。

珍しい私のわがままだったからか、母は約束してくれたけれど。

「でも當日の朝、急な仕事がったと父は僕を置いて出ていった。

わかっていたんだ、忙しい父とこんな約束をしても無駄だって。

でも、それでも信じたかった」

そこも全く一緒だ。

駅に向かう途中で電話のかかってきた母は、私に先に駅で待っていてと言って、家に帰っていった。

でも待てど暮らせど母は來ない。

それでもランドに行くんだって待ち続けた。

あまりに長時間待ち続ける私に駅員が心配しはじめた頃、ようやく母がやってきた。

けれど、その口から出たのは私の期待とは全く反対の言葉だった。

『ごめん、行けなくなった。

帰ろう』

悔しくて泣いて母を困らせたのは、母子家庭になってから後にも先にもあの一回だけだ。

「でも、涼夏という家族ができた。

これで、家族でここに來たかったという願いが葉う。

だから連れてきたが、迷だったか」

ハンバーガーを置いた仁が、伏せ目がちに訊いてくる。

私はふるふると首を橫に振った。

「……私も仁と一緒です。

母と約束したのに、連れてきてもらえなかった」

大きくなってから母と一緒じゃなくても來る機會はあったはずなのだ。

でも、無意識に避けていた。

ここには私にはない、キラキラ輝く幸せな家庭ばかりがいるような気がして。

そこに自分が行くなど、慘めだとじていたんだと思う。

「今日、仁と一緒にここに來られてよかったです。

ありがとうございます」

もう、私にあんなコンプレックスはない。

私にはこんなに素敵な兄ができた。

「また、家族で來ような」

「そうですね」

仁は私と同じ淋しさを抱えている。

それが酷くおしい。

私は仁のおかげでその淋しさが徐々に埋められていっている。

仁も、そうだったらいい。

午後もアトラクションを回る。

意外にも仁は、ショップに寄る時間を作ってくれていた。

「これはどうだ?」

仁が、この間もらったクマよりもさらに大きいコネインのぬいぐるみを勧めてくる。

「えっと……。

さすがにそれは、部屋に置けないので……」

クマだけでもそこそこ場所を取っているのだ、さらに巨大コネインなんておいたら、私の居場所がなくなってしまう。

「むっ。

そうか」

本気で買う気だったのか、半ば持ち上げていた手を仁は戻した。

しいのがあったらなんでも買ってやるから、言え」

ぬいぐるみを味しながら、仁が言ってくる。

「それは遠慮します」

「……なぜだ?」

仁の手が止まり、ゆっくりと私の顔を見た。

「私がしいものは私が自分で買います。

仁がお金持ちだからって甘えたりしたくないので」

「……そうか」

新たなぬいぐるみを持ち上げた仁の口もとはなぜか、僅かに緩んでいた。

ぬいぐるみはしいが、男の子のコネインとの子のコネインチェ、ふたつセットは厳しく、諦めて店を出た。

「あれ、仁は……?」

一緒に出たと思った仁がいない。

し待ったけどまだ出てこないので、中に戻ってみた。

「仁?」

「ああ、すまない。

し気になるものがあったんだ」

しだけ慌てているように見えるのはなんでだろう。

今度こそ一緒に店を出て、次の店にる。

そこは文が多く置いてあり、會社で使えそうなものをいくつか選んだ。

「なあ。

記念にお揃いでボールペンを買わないか」

仁の視線の先には、金屬製のボールペンが並んでいる。

各キャラクターのイメージカラーの本に、シルエットがワンポイントだけった、シンプルなボールペン。

これなら、仁が持っても問題はなさそうだが。

「その。

どうしたんですか、お揃いとか」

私とお揃いのものが持ちたいなんてわからない。

でもすでに仁は真剣に選んでいる。

「僕はコネインの黒にしようと思うが、涼夏はコネインチェの赤でいいか」

「はい、かまわないですが……」

「わかった」

仁はふたつのボールペンを手に、會計に行ってしまった。

「変なの」

もうしだけ見て、私も會計を済ませた。

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