《【完結】苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族~》第3章 家族 兄妹 !?(3)MかYか

六月も半ばを過ぎると、會社はいよいよバタバタとしてきた。

もう月末にはドイツの菓子メーカー『オイゲン』との契約が迫っている。

商品部との打ち合わせを終え、足早に社を進む。

「ドイツとのメール確認して、千里部長と八雲専務に連絡……」

今回の契約は仁の主導だ。

社長はオブザーバーに回っている。

これは、仁が次期社長足るか最終試験なのらしい。

「それであとは試食パッケージの手配と……」

私のいる部署は今後の、オイゲンのお菓子の宣伝戦略を一手に擔っている。

契約がまとまれば即、売り出しが決まっているので、契約がこれにかかっているといってもいい。

「戻りました」

さっさと席に戻り、仕事を再開しかけてペンケースの中に例のボールペンがないのに気づいた。

「商品部に忘れてきたのかな」

安いボールペンならそのままでもかまわないが、あれは仁とお揃いなのだ。

なくしたくない。

「……戻る?」

けれどいまは、そんな時間すら惜しい。

仕方なく、商品部に線した。

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「あの。

先ほどお伺いした営業戦略部の三ツ森ですが。

ボールペンを忘れてないでしょうか。

赤で、コネインチェがワンポイントった」

出たからちょっと待ってくれと言われ、保留になった。

もし、なくしていたらどうしよう。

仁、きっとがっかりするよね。

『ありましたけど』

しばらくして保留が途切れ、再び出たの言葉にほっとで下ろす。

「そうですか、ありがとうございます。

では、のちほど取りにお伺いします。

お手間を取らせて申し訳ありません」

見つかったのはよかった。

問題は取りに行ける時間があるかどうかだけど。

「千里はいるか!」

仕事をしていたら、仁が降りてきた。

自分の方が偉いんだから呼びつければいいのに、いつも用があるときは仁の方から來る。

「仁!

でかい聲だすなって何度言ったらわかるんだ!」

バン!とドアが開いて千里部長が出てくるのもいつものこと。

「この計畫書なんだが……」

話しながら仁は進んでいく。

あれは、時間がもったいないんじゃなくて、仕事しか見えないから。

ここまで降りてくるのもきっと、それしか見えていなくてが勝手にいている。

「わかった!

こっちで聞くから!」

今日も仁は、千里部長に部長室へ連行された。

仕方ないよね、あれが仁なんだもん。

千里部長もわかっているから、責めたりしない。

小さくため息をついて席を立った。

給湯室でコーヒーをふたつ淹れる。

今日は暑いから、アイスコーヒーにした。

「失禮します」

「だからこれだと……」

私がコーヒーを出しても、仁の熱弁は止まらない。

小さく千里部長があたまを下げてくれ、私も同じく返して部屋を出た。

ちなみにコーヒーはサービスで淹れているわけじゃなく、千里部長に頼まれているから。

私は彼から勝手に、半ば書的なことをやらされている。

席に戻って再び仕事をする。

しでも早く終わらせて、ボールペンを取りに行く時間を作りたい。

「三ツ森、商品部の人が用があるって」

しばらくして男社員から聲をかけられた。

見た方向には社員が立っている。

「あなたが三ツ森さん?

確認したいんだけど、これ、本當にあなたのなの?」

差し出されたボールペンはけ取る前にさっと取り上げられた。

私と違い、人の部類にる彼の眥は限界までつり上がっている。

「私の……ですけど……」

を怒らせるようなことを私はなにかしたんだろうか。

けれど電話でやりとりしただけで、彼とは面識はない。

「ほんとに?

だってここ、ってる名前はY.Ryoukaって。

三ツ森ならYじゃなくてMよね?」

まさか、こんなことを気にして見る人がいるだなんて思わなかった。

なんて説明したらいい?

間違ってれました、とか?

「Yってもしかして八雲のY?

ときどき、八雲専務が三ツ森さんを迎えに來るってもっぱらの噂なんだけど?」

仁は今月にってからも殘業の日、ちょくちょく私を迎えにきていた。

帰る時間が一緒なんだから、別にいいだろって。

こうなることがわかっていたのに、疲れているからって甘えていた自分が憎い。

「どういう関係?

まさか、結婚したとか?」

さらに矢継ぎ早に訊かれても、どう答えていいのかわからない。

はきっと、仁を狙っている人のひとりなんだろう。

「なんとか言ったらどうなのよ」

黙って立ち盡くす私を、彼が押した。

それは軽くだったけれど、考えがまとまらずに狼狽えていた私は足下がおぼつかず、後ろへよろめいてしまう。

「おっと」

倒れる、そう覚悟したものの、誰かが後ろから支えてくれた。

「危ないな」

ゆっくりと見上げた先には仁の顔が見えた。

私を立たせ、まるで庇うかのように私の前に仁が立つ。

「僕と彼の関係が訊きたいようだから教えてやる。

涼夏は僕の妹だ」

聞き耳を立ててり行きを見守っていた周囲が一気にざわめいた。

社長の隠し子、なんて聲まで聞こえる。

「父が涼夏の母親と再婚するので、涼夏は僕の妹になる。

兄が、妹の世話を焼いてなにが悪い?」

仁が、そのメタル眼鏡と同じくらい冷たい目で彼を見下ろした。

「……悪くない、です」

小さく呟き、彼が後ずさりしていく。

一定距離ができたところでダッシュして……逃げた。

「ひぃーっ、最高!」

隣に並んでいた千里部長は、仁の肩をバンバン叩いて笑っているが、ちょっと酷くないですか?

「なんだ、あれは」

仁にいたってどこまでも冷靜だけど……きっと、怖かったんだと思いますよ?

「涼夏も涼夏だ。

はっきり兄妹だと言ってやればよかったんだ」

「そう、……ですね」

曖昧に笑って仁の顔を見る。

そう言えば解決だってわかっていた。

親同士が結婚するからだって。

でも、それを躊躇ってしまったのはなんでだろう。

「ほら、見世は終わったぞ!

仕事に集中しろ!」

空気を切り替えるように、千里部長が手を叩いた。

って、見世だと思っていたんですね、こんなに私は困っていたのに。

「今日も殘業だろ。

終わったら迎えにくる」

「はい、待ってます」

仁の手がそっと、私の髪をでる。

眼鏡の向こうで目を細めて。

「そんなことしてるから誤解されるんだぞ」

「うるさい。

くて仕方ないんだからいいだろ」

千里部長にからかわれ、くいっ、と仁が眼鏡を上げる。

途端に私も、いまは人前なのだと顔が熱くなった。

「計畫書の件、頼んだぞ」

「はいはい。

お前こそ、早く仕事を終わらせないと、三ツ森を待たせる羽目になるぞ」

「わかってる!」

仁にしては珍しく、噛みつき気味に言って去っていった。

「三ツ森もさっさと、仕事再開しろー」

ぱしぱしとあたまを叩かれ、席に戻る。

私は仁と兄妹。

それ以上でもそれ以下でもないはず、だ。

なのにモヤモヤしているのってなんでだろう?

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