《【完結】苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族~》第3章 家族 兄妹 !?(6)プリンパーティ
翌日の土曜日はし早く起きて買い出しに行った。
千里部長は晝前に來る予定だが、そこからひたすらプリンだけを食べ続けるのはきつすぎる。
なので軽く摘まめるものを作っておこうと思う。
帰って、キッチンで調理していたら、珍しく遅く仁が起きてきた。
「おはよう」
水を飲みに來たついでに、私の額にちゅっ。
くすぐったいが、嫌じゃない。
「まだ寢ててよかったんですよ」
「寢起きだと彪にからかわれる」
できあがっていた、カマンベールチーズを餃子の皮に巻いて揚げたのを、仁はひょいっと摘まんで食べた。
「うまいな」
「……つまみ食い、止です」
「わるい、わるい」
を尖らせて抗議したら、を屈めた仁のが私のに――れた。
「……!
な、な、な」
「んー、涼夏が可かったから。
歐米じゃこれくらい、普通だ」
悪戯っぽく私にウィンクして、仁がキッチンを出ていく。
しばらくなにが起こったのかわからなくてぼーっとしていた。
「あ、油!」
我に返って揚げをしていた途中だと思いだし、火を止める。
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大學時代をあちらで過ごした仁にとってこれくらい、普通のこと。
わかっているのにあたまがついていかない。
「……あ、ファーストキスだったんだ」
そっと自分のにれる。
予定外に失ったファーストキスだけれど、相手が仁でよかった。
……うん。
仁がしてくれて、よかった。
予定時間にやってきた千里部長は、リビングのテーブルの上に置かれたプリンに大ウケだった。
「仁、お前、なに考えてんの!?
どう考えてもふたりでこの量は無理だろ!?」
「……」
ゲラゲラ大笑いしながら攜帯で寫真を撮っている千里部長を、無言で仁が睨む。
自分でも無理があったと反省したようだ。
「じゃあ、食おうぜ!
いっただきまーす!」
お皿にひっくり返し、切り分けたプリンにスプーンを突っ込んで一口。
らかな口當たり、味もそこまで甘くなくこれならいけそう……?
なんて思った私が甘かった。
「……プリン、飽きた」
ものの十分もしないうちに、千里部長がスプーンを投げ出した。
というか、早くないですか!?
「あ、あの。
おつまみ、作っておいたので」
「三ツ森、気が利くー!」
キッチンへ作った料理を取りに行くと、後ろから仁も著いてきた。
「これを運べばいいのか?」
仁の手がひょいっと私の、手の中のお皿を取った。
「はい、お願いします」
仁が大皿を運んでくれたので、私は取り皿を運ぶ。
二往復しないといけないかと思っていたのに、おかげで一往復で済んだ。
「ふーん」
リビングでは千里部長がニヤニヤ笑って待っていた。
「お前らまるで……新婚夫婦みたいだな」
途端にボン!とあたまが発した。
え、他人から見たらそんなふうに見えているの?
私にしてみればいつもどおり、なんだけど。
「なに馬鹿なこと言ってるんだ、僕と涼夏はあくまでも兄妹、だ」
「兄妹、ねー」
開けたウィスキーを手に、千里部長はなおもニヤニヤと笑っている。
「そうですよ、仁と私は兄妹で」
「ふーん。
お前らがそれでいいなら、俺はいいけどさ」
グラスのウィスキーをくいっと千里部長が飲み干す。
彼はちょいちょい、意味深そうに言うけれど。
あれはいったい、どういう意味なんだろう。
その後もちまちまとプリンを食べ進めつつつまみを摘まみ、ウィスキーを飲む。
ウィスキーは初めてだけど、プリンにけっこうあう。
あと、私はハイボールにしてくれたのもあって、飲みやすかった。
「千里部長、聞いてくださいよー。
仁、ちょくちょく私にプレゼントしてくれるのはいいんですが、子供扱いなんですよ!」
「ふーん、そうなんだ」
お酒も進むと、普段言えない愚癡も出てくる。
さらに聞き役がいるとなれば。
「はい。
大きなクマのぬいぐるみでしょ?
ピンクのキャラクターもののバッグでしょ?
それから今回のプリン!」
「あー、それは仁がわりーわー」
くるくる回していたグラスを千里部長は口に運んだ。
「ですよねー。
私は小さい子供じゃないっていうんですよ!」
仁はさっきから、無言でプリンを食べている。
「そうだぞ、仁。
の子を落とすにはプレゼントが肝心だ。
俺が三ツ森にプレゼントするなら、ピンクトルマリンのシンプルなピアスだな。
仕事でも使える。
……そうだ、今度俺が買ってやろう」
千里部長の視線が挑発するように仁へと向かう。
「……」
けれど仁はやはり、黙ってプリンを食べていた。
「いいんだな、仁。
俺の買ったピアスが、三ツ森のこの可い耳に、刺さるんだぞ」
「えっ!?」
びてきた千里部長の手が、私の耳にれる。
瞬間、仁の手がぴくっと小さく震え、止まった。
「勝手にすればいい。
涼夏は僕の妹だが、僕のものではない。
……ただ」
言葉を切って仁がスプーンを皿に置いた、カツン、というい音が妙に響いた。
「僕の妹を悲しませるような奴は、絶対に許さない」
ギロッ! と眼鋭く、眼鏡の奧から仁が千里部長を睨みつける。
呼吸をするのさえ気を遣う、迫した空気が流れた。
「おおー、こえー」
軽い聲と共にぱっと千里部長が私から手を離し、一気に空気が緩んでいく。
「そう怒んなって。
お前を怒らせることだけは絶対しねーって。
……飲み過ぎた、トイレ」
ヘラヘラと笑いながら、立ち上がった千里部長はトレイに消えていった。
ふたりきりになると、なんとなく気まずい。
「その。
ピアスを買ってもらうとかないので。
そもそも私、をあけてないので」
「……そうか」
小さく呟くように言って、仁はまたプリンを食べはじめた。
さっきからがズキズキと痛い。
なんで?
兄として、仁のあの答えは正解なのに。
この、仁と兄妹だと言われるたびにじる嫌な気持ちは、いったいなんなんだろう。
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