《【完結】苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族~》番外 社長、仕事、書!?

――その日、私は千里専務から社長室に呼びだされていた。

応接ソファーに千里専務と向かいあって座る。

仁は迷いなく私の隣に座ろうとして、千里専務から思いっきり手を引っ張られて止められ、渋々その隣に座った。

「すまない、三ツ森。

俺には仁が言っていることがさっぱり理解できないんだが」

珍しく千里専務は困しきっている。

仁はいったい、なにを言ったんだろう?

「ほら、仁。

當人を前にしてもう一度言ってみろ」

さっきから真顔で座っている仁に、千里専務が話すように促す。

當人、ってことは私に関することなんだろう。

「涼夏を社長室付にする」

「えっと……」

すでになにを言っているのか理解できない。

社長室付なんて仕事は存在しない。

「それで、仕事はなんなんだ?」

「毎日、僕の橫でにこにこ笑っていてくれればいい」

……はぁーっ、と千里専務と私の口から同時にため息が落ちた。

「すみません、千里専務。

私も八雲社長の仰っていることがさっぱり理解できません」

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「三ツ森に理解できないってことは、俺に理解できるわけねーよな……」

「……はぁーっ」

再び私たちの口からため息が落ちる。

仁はそんなことは全く意に介さず、表を全く変えなかった。

「涼夏を僕の目の屆かないところに置いておくなど、誰かに盜られかねない」

またか、と思った私に罪はない。

つい先日も電車通勤なんて、涼夏は可いから誰かに目をつけられるかもしれない、それに襲われたら困るとか言いだして。

必ず一緒に通勤を約束させられた。

思いを通じ合わせてからというもの、なにかにつけて可い涼夏を誰かに盜られたら困る、と仁は私を拘束したがった。

それが嫌かといえば、……まあ、そういうところが可いんだけど。

でも、周りの人を困らせるのはダメだ。

「社員の誰も社長の婚約者を盜ろうだなんて思いませんよ……」

つい一週間前に仁は社長に就任し、千里部長は専務に昇格した。

同時に、私との結婚も発表。

だから社員の誰もが私は仁の婚約者なんだって知っている。

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「いや。

近親相だなんだと事実無のことで涼夏をいじめる奴がいるからな。

なおさら僕の目の屆かないところには置いておけない」

「仁……」

こんなに彼が私を心配してくれているのだとが熱くなる。

結婚が発表されてからというもの、一部の社員からは仁が言うように嫌がらせをけていた。

仁を狙っていたお姉様方はわかるのだ。

彼を私に取られて妬んでいるんだって。

だから、あまり度が過ぎるのは困るけど、大抵は苦笑いでけ流していた。

でも一番嫌なのは、いやらしい目で私を見てくる男社員たち。

やんわりと兄と寢るくらい飢えているんなら、俺が相手してやるって言ってくる。

「僕の傍に置いておけば嫌がらせもけなくて済むし、僕も涼夏が傍にいてくれるから頑張れて、仕事の効率も上がる。

一石二鳥だ」

至極、仁は真面目だが、本當にそうなのかな……?

毎日、仁の傍にいて仕事もしないでお給料をもらうなんて、それこそやっかみの対象にしかならない。

「なあ、仁。

ちゃんとした仕事があってそうしたいのなら俺も反対しない。

でもただ傍に置いておきたいから、なんてダメに決まってんだろ」

バシッ、と千里専務が仁にデコピンし、痛そうな音が響いたが、仁はズレた眼鏡の位置を戻しただけだった。

「だいたい、三ツ森はこう見えても、営業戦略部のエースなんだ。

こんなわけわからん理由で引き抜かれても困る!」

一言多いです、千里専務……。

でも、そんなに買ってくれていたんだ。

嬉しいな。

「じゃあ、僕のデスクを営業戦略部へ移す」

「なおのこと認められるかっ!」

間髪れずバシッ、と千里専務は仁の後ろあたまを叩いた。

痛そうにあたまをさすりながらも仁の表はやはり変わらず、もはや漫才でも見ている気持ちになってくる。

「なら、涼夏は営業戦略部に所屬のまま、仕事はここでするようにしたらいいよな」

「うっ」

千里専務、そこで止まらないでもっと反対して!

「これならリモートワークの実証実験もできて一石二鳥だ。

この先、子育て家庭等の在宅勤務の拡大も計畫しているからな」

「ううっ」

仁がすでに、そんなことまで考えているのだと驚いた。

もう仁は社長として前へ前と進んでいる。

だったら私も、釣り合うようになりたい。

「あの!」

私の聲に、ふたりの視線が集中した。

「私に八雲社長の仕事の手伝いはできますか!?」

なにができるかなんてわからない。

でもいままで取ってきた、たくさんの資格がある。

あれをいま、役に立てるときじゃないんだろうか。

「僕の手伝い……」

むにむにとを隠しきれないのか仁のく。

「仁の手伝いね……。

そういや三ツ森は資格を山ほど持っていたな」

「はい」

千里専務の手がタブレットの上をる。

きっと、私の経歴を確認しているのだろう。

「ふーん。

書検定準一級も持ってるんだ」

それがなにか、関係があるんだろうか。

「よし。

三ツ森は仁の書をやれ!」

「え?」

「涼夏が書……」

仁の手伝いがしたいとは言ったが、それがどうしてその結論になるのかわからない。

そして仁。

さっきまでの無表が噓みたいに、顔がだらしなく崩れていますよ?

「こいつ、集中してると周りの聲が聞こえなくなるだろ?

それで専務時代から書室の連中、困ってたんだ」

それはわかる。

ちょっと強く言わないと仁、気付かないことがよくあるもん。

「でも三ツ森の聲なら気付くだろ。

それだけでも大助かりだ」

お役に立てるのはいいけれど、それはなんか違う気がするんですが……。

「あとこいつ、リサーチに集中して業務がストップ、なんてこともたびたびあるからな。

そのあたりも三ツ森がサポートしてくれたらいい」

千里専務は、もう俺は疲れたんだとでもいうのか、苦労の濃い笑みを浮かべた。

「んで、仁。

お前さっきから、ニヤニヤ気持ち悪ぃんだよ!」

千里専務から鼻先に指を突きつけられ、途端に仁が真顔に戻る。

こほんと小さく咳払いして、仁はソファーに座り直した。

「いや。

別に僕は涼夏が書で喜んだりしてないとも」

言った瞬間、仁の顔がふにゃんと緩む。

でも自分でも気付いたのか、すぐに無表に戻ったけど。

「辭令は追って出す。

三ツ森も仁もこれでいいか?」

「はい」

「ああ」

最初は仁がなにを言いだしたのかとは思ったけど。

でも、こういうのもいいんじゃないかな。

私は仁のお役に立ちたいし。

「ああ、千里。

さっきからずっと気になっていたんだが」

立ち上がろうとしていた千里専務を仁は止めた。

「涼夏は三ツ森じゃない。

八雲、だ」

「は?」

はっきり四白眼になるほど目を見開き、千里専務が止まる。

「まだ婚姻屆出してねーんだろうが」

「それでも涼夏はすでに、八雲涼夏だ。

そこを間違ってもらったら困る」

うんうん、と仁は頷いているが、営業戦略部でもまだ、私は三ツ森ですが?

それにややこしくなるから仕事上は通稱として、三ツ森のままでいるつもりだし。

「訂正しろ」

確固たる信念で仁が眼鏡の奧から千里専務を見つめる。

千里専務はとうとう、あきれたように小さくため息を落とした。

「はいはい、わかりました。

……じゃ、八雲。

そういうことでよろしく頼むな」

「了解いたしました」

千里専務と目があい、同時にぷっと小さく吹き出す。

なんで私たちが笑いだしたかわかっていないようで、仁はぽかんと見ていた。

――その後。

私は仁専屬の書、という形になったわけだけど。

「八雲社長。

そんなことは私がやると何度も言っているじゃないですか!」

気付けば仁は調べごとに忙殺されていた。

「……仁と呼ばないと返事をしない」

畫面を睨んでマウスでカチカチと作しながら、仁はしも私の方を見ない。

「いまは仕事中だから呼べるわけないじゃないですか!

いい加減にしないと営業戦略部に戻りますよ!」

ようやく仁の手が止まり、ゆっくりと顔がこっちを向く。

「……それは困る」

眼鏡の下で眉を下げたけない顔は、他の社員の皆さんが見たらびっくりしそうだ。

「なら、調べごとは私に命じてください。

それからそろそろ會食に出掛ける時間です。

斉藤室長がお迎えにきますので、準備をしてください」

「涼夏も一緒に……」

「やーくーもーしゃーちょー?」

聲は機の上を這っていくし、こめかみがピクピクと引き攣る。

仁はぴくっとマウスの上にあった指を跳ねさせた。

さらさらとペンを走らせてメモし、それを私に渡して仁は椅子を立った。

「じゃあ、いってきます」

「はい、いってらっしゃい」

仁がちゅっと私のに口付けを落とす。

間もなく斉藤室長が迎えに來て、仁は出ていった。

「なーんでああなのかな……」

仁はとにかく私に甘いが、ここでのキスを許している私も甘すぎるとは思う。

「ううん!

お給料もらってるんだから、ちゃんとその分働かないと!」

私が仁付きになってから、彼がなかなか気付いてくれないために約束の時間に間に合わなくなると、やきもきすることはなくなったと、書室の方からは謝された。

実際、遅刻なんてこともあったらしい。

そこはお役に立てて本當によかったと思う。

「私は仁のお役に立ちたいんですよー。

なんでわかってくれないのかな……」

もらったメモを片手に、調べごとを進めていく。

千里専務のようになりたいとは言わない。

でも、私は私にできることで仁を支えたい。

「どーしたらわかってくれるんだろー」

このときはうだうだ悩んでいた私だけど。

本當にわかっていなかったのは私の方だったのだ。

仁が本當にしいものを聞いて、自分にできることを私が知るまで、あとし――。

【終】

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