《同期の曹司様は浮気がお嫌い》

「今日は俺の奢りだからどんどん食べて」

「え、いいよ……私も出す」

「大丈夫。俺が奢りたいの」

高そうなお店なのに申し訳なくなる。私はそこまでボロボロに見えるのだろうかと心配になった。実際こんな高級な店でお金を出せそうにはないのだけど。

「じゃあ遠慮なく」

久しぶりにまともにご飯を食べた気がする。ちゃんと食べ者の味をじる。

味しい」

生ハムを頬張る私を優磨くんはニコニコと見つめる。いくらなんでも豪快に食べすぎかなと恥ずかしくなるけれど、もう今更優磨くんに取り繕ってもしょうがない。引かれてもいいや。既にだいぶ迷をかけている。

食事を終えて店を出てから家まで送ってくれるという優磨くんに甘えることにした。今までこの店を知らなかったけれど私の家まで歩ける距離だ。

お酒に弱いので1杯のカクテルでも酔ってしまった私は、転ばないようにフラフラしながらもゆっくり歩く。それを見かねた優磨くんが手を握ってきたから驚いた。

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「危ないから。の子はヒールで大変だね」

そう言って道路に出ても手を放さない。

「優磨くん……手、もう大丈夫だよ」

「心配なんだ。倒れそうになったら支えられるから」

私の顔を見ないまま答える。

もう調は大丈夫だと言えなくなる。手から伝わる溫が心地良くて、まあいいかと思ってしまう。

「私のアパート、ボロいんだけど驚かないでね……ここです」

「え……」

アパートを見た優磨くんは目を見開いた。それもそうだろう。このアパートは築年數を知りたくないほどボロくて壁は汚れているし、錆びた階段の下には雑草がび放題だ。隣人の生活音も聞こえるほど壁が薄い。

「さすがに引いた?」

「いや……うん……」

城藤財閥の曹司の家とは天と地ほどの差があるに違いない。

「今日はありがとう。ごめんね……々と私のダメなところを見せちゃって」

「安西さんはダメなんかじゃないよ。ムカつくよね、下田が悪いのに……」

優磨くんは心底嫌そうな顔をする。きっと今彼の心の中で下田くんはボコボコにされているのだろう。

「送ってくれてありがとう」

私の言葉に優磨くんはやっと手を放す。

「お疲れ様。また連絡するから」

「うん」

心配してくれる気持ちは嬉しい。でもきっともう優磨くんには會わないだろうと思う。

彼は大企業での大事な將來があるのに、優しいからどん底の私を放っておけないだろう。このまま距離を置かないと。

ありがとう、さようなら。

私はアパートの階段を上りながら、歩いていく優磨くんの背中に別れを告げた。

◇◇◇◇◇

次の日の仕事も吐かずに堪えてアパートに帰ってきた。毎日こんなに張するなら本當に転職活をしようとパソコンで転職サイトを開いた時にチャイムが鳴った。

こんな時間に來るなんて誰? ガス會社を裝った強盜もいるって聞くし……怖い……。

恐る恐る玄関に行き「どなたですか?」と尋ねると「俺、城藤です」と聞き慣れた聲がする。

「優磨くん?」

驚いた私は玄関のドアを開けた。そこには仕事帰りだろう優磨くんが立っている。

「ごめんね、こんな時間に」

「いいけど……どうしたの?」

「俺んちに住まない?」

「え?」

突然の言葉に意味が分からなくて聞き返す。優磨くんは変わらず「俺の家に住んで」と繰り返した。

「いやいや、それはさすがに……」

「部屋余ってるんだ。ルームシェアってことでどう?」

「どうって言われても……」

優磨くんは冗談を言っているわけではないようだ。私を見る顔は真剣だ。

「ここはの子が一人暮らしするには防犯面で不安だし、今の安西さんの調が心配なんだ」

目を見開いたまま固まる私に優磨くんは「取りあえず荷まとめて」と言い放つ。

「今から?」

「そう。今夜から俺の家で暮らして」

って「え? え?」と口をパクパクさせる。

「ほら早く、俺は下で待ってるから」

「え、いや、ダメだって……」

「ここに居る方がダメだから。いいから荷!」

そう言うと優磨くんはアパートの階段を下りていく。困った私は慌てて一泊分の荷をバッグに詰める。

部屋に鍵をかけると優磨くんのもとへ行く。そんな私の荷を見ると珍しく怒り出した。

「どうしてそんなに荷ないの?」

「あの……」

厳しい顔に言葉が出ない。

「まあいいか。また取りに來るから」

私の手からバッグを取って肩にかけるといきなり手を取り歩き出す。

「ちょっと優磨くん!」

逃がさないとでもいうように強く握って早足になるから今度は私が怒る。

「なんなのいきなり、びっくりするじゃん」

「無理だ」

「何が?」

「安西さんが辛そうなの見てられない」

「………」

強引な優磨くんを見慣れないから驚いて何も言えなくなる。

しばらく歩くと高層マンションの前に來た。それは駅からも見えるほど目立つところだと気づいた。

「もしかしてこのマンションに住んでる?」

「そう」

私の手を握ったままオートロックの作盤で暗証番號を力する。ホテルのようなエントランスを抜けてエレベーターに乗った。

「すごい……」

思わず呟いた。

さすが城藤の曹司。住んでいる部屋も格が違う。

「もともとは俺の友人が住んでたところなんだ。その人が結婚して引っ越したから代わりに俺が住んでる」

「その人が購した部屋なの?」

「最初に買ったのは俺の親。というか用意した部屋ってとこかな」

どうして優磨くんの親が息子の友人に家を用意したのだろうと不思議に思ったところでエレベーターのドアが開いた。

「俺の部屋にる前に言っておきたいことがあるんだけど」

「何?」

これ以上何かあるのかと構えると「俺の部屋汚いけど驚かないでね」と言って優磨くんは部屋のドアを開けた。

外観通り中は広くてきれいだけれど、玄関から廊下にかけていくつか段ボールが積まれている。

「どうぞ」

リビングにると中央にソファーが置かれ、壁沿いに大きなテレビが置いてある。その橫にもいくつか段ボールが置かれ、テーブルの上には雑誌や書類がたくさん置いてある。

「ごめんね、これでも安西さんを呼ぶために片づけたんだ。こっちの寢室を使って」

橫の部屋を開けるとダブルサイズのベッドが置いてある寢室だ。

「取りあえずここで寢て。俺は玄関の橫にある部屋で寢るから」

「いや、あの、優磨くんがここで寢て。私は床でもソファーでもいいから」

「大丈夫、ここ使って。それ以外の部屋は荷詰め込んでるからとても寢れる狀態じゃないし」

優磨くんは慌て始める。そのままトイレとバスルームの案をされた。

「何でも好きに使って。他の部屋はごちゃごちゃで見せられるような狀態じゃないけど、徐々に片付けるから」

私をソファーに座らせるとキッチンでコーヒーを淹れ始める。

「どうしてここまでしてくれるの?」

「俺、下田みたいなやつ嫌いなんだ。浮気とか結婚してるのに他の人と、とか。だから安西さんを放っておけない」

カップにコーヒーを注ぎながら「あんなやつと思わなかった」と呟く。

私たち同期は比較的良好な関係で働いてきた。でも今はみんなバラバラだ。下田くんが噓をついていたせいで。

優磨くんもソファーに座ると私は自然と張し始める。まさか優磨くんの家に來ることになるとは思わなかった。同期なのにプライベートを深く知っているわけではない。今までの優磨くん自が深く関わろうとしてこなかったように思う。

「その々買い揃えようか」

「え?」

「この部屋は元々俺のじゃないから。最低限の家は置いてってくれたけど、食も二人分ないし、日用品も足りない」

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