《同期の曹司様は浮気がお嫌い》10

のまま抱き合って寢て、目が覚めてからもまだ優磨くんの腕の中に納まっていることが幸せだと実する。

會社でしか會うことのなかった人に「してる」と言われて「してる」と返す日が來るなんて人生何が起こるか分からないな、なんて思いながら寢顔を見ていると優磨くんも目を覚ました。

「おはよう」

聲をかけるとまだ寢ぼけ顔の優磨くんは私にキスをして掠れた聲で「おはよう」と囁いた。

先にシャワーを浴びると、続いて優磨くんが浴びている間に洗濯機をかける。朝食を作り終わると洗濯が終わった音が鳴る。

洗ったばかりの服をれた洗濯カゴを持ってバルコニーに出て干す。

優磨くんの部屋は高い階にあるから、見下ろす人や車は全て小さく見える。最寄り駅に電車が到著したのが見えた。人がどっと電車から降りてまた乗っていく。

し前の私はあの中の一人だった。今はこうやって毎日のんびり生活させてもらえてありがたい。

優磨くんに甘えて贅沢させてもらっているけれど、やっぱり仕事したいなあ……。

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正社員にこだわらずしずつバイトでもしようかな。営業や事務だけじゃなくて接客もやってみたいかも。

「波瑠、電話だよ」

中から優磨くんが私のスマートフォンを持って顔を出した。

「え、電話?」

け取った畫面には『公衆電話』と表示されている。

「こんな時間に公衆電話?」

「出た方がいんじゃない?」

優磨くんはそう言うけれど、朝早く公衆電話から著信があるなんて不審で出るのを躊躇う。迷っているうちに著信は切れてしまった。

「急用だったかもしれないけど大丈夫?」

「うん……多分」

「実家からとか?」

「ううん、私の実家は固定電話あるし……」

「今時公衆電話からかけてくるのも珍しいから間違い電話かもしれないしね」

優磨くんはそれだけ言うと出勤の準備を始める。

もう一度電話がかかってくる様子はない。急用ならば留守番電話にメッセージをれるだろうけどそれもない。

なんだか嫌な予がした。退職して友人との流もない私に連絡をしてきそうな人は下田くんしか思いつかない。

電話もメッセージも無視するだけじゃなく、一切連絡してこないでと言うべきだろうか。もう下田くんの聲すら聞きたくないのに。

類を干し終わって部屋の中に戻ると優磨くんは既にスーツに著替えて髪も整えていた。

「波瑠、夜は何で來るの? タクシー?」

今夜は延期になっていた退職のお祝いで外食する約束をしていた。

「タクシーなんてもったいないよ。電車で行くね」

「電車はダメだって。帰宅ラッシュで混むよ」

「でも電車の方が早いし、混む方向とは逆だよ?」

「それでも、波瑠には電車に乗ってほしくないの」

優磨くんは私の前に立って頬を両手で包む。

「波瑠が心配だからタクシーで來て。カード使っていいから」

優磨くんは妙に心配なところがある。毎回呆れるのだけれど、優磨くんがそれで安心するならそうするべきなのだろう。

「わかったよ。タクシーで行くね」

「泉さんに迎えに來てもらおうか?」

「それはもっとダメ! 泉さんは優磨くんの書だけど、私はそこまでのことをしてもらうわけにはいかないから」

それに、泉さんを呼ぶと麗さんがセットでついてきてしまう気がしている。麗さんは悪い人ではないけれど、今夜は優磨くんと二人で過ごしたい。

「夜を楽しみにしてる。いってきます」

「いってらっしゃい」

お互いに顔を近づけて毎朝お決まりのキスをした。

鏡の前で自分の姿を念りにチェックする。

優磨くんに買ってもらった服の中で彼が一番好きだと言ってくれたものを著て、髪を合わせてセットする。

定時で帰ると言っていた優磨くんが會社を出る時間に合わせて著くようにタクシーを手配して部屋を出た。

待ち合わせのホテルに行くとロビーには既に優磨くんが來ている。

「ごめんね、待った?」

「今來たところだよ」

自然と手を繋いでエレベーターに乗ると優磨くんは私の全を見る。

「やっぱりよく似合ってるよ。可い」

「あ……ありがとう……」

優磨くんに可いと言われることにはまだ慣れない。

レストランまで手を引かれ、案された席は大きな窓の目の前にあり、各テーブルとは數メートル距離が離れている。まるでここには二人だけしかいないような覚になる。目の前はオフィス街の夜景が一できた。

「綺麗……」

思わず呟いた。建や車が集した夜の景をこんな高さからゆっくり見たことがなかった。

「このホテルは都會の景を最大限活かして別世界をじさせることをコンセプトに作ったホテルなんだ」

「もしかしてこのホテルって……」

「そう。城藤系列だよ。この席は特別な客しか座れない席なんだ」

「う……」

張してきた。その特別な席を取れてしまう優磨くんがすごい。テーブルマナーなんて知らない私がここに居ていいのだろうか。

「大丈夫。張しないで。俺たちしかいないんだから、マイペースに食事しよう」

こんなところに慣れた様子の優磨くんの一面に驚くばかりだ。一緒の會社だったころは庶民的な曹司だな、なんて思っていたのだから。でも今の姿が本來の正しい姿なのかもしれない。

「波瑠は何飲む? ノンアルコールにしようか?」

「せっかくだから最初は優磨くんと同じものを飲みたい」

「俺はワインにするんだけど大丈夫?」

「うん」

一杯だけなら眠気をじ始めるくらいの酔いだろうから大丈夫なはず。

運ばれてきたワイングラスを優磨くんと一緒に軽く掲げた。

「今までお疲れ様。これからもよろしく」

「うん。よろしくお願いします」

ワインを一口飲んだ。

「ん、これ味しい……」

ワインが苦手な私でも飲めるほどほんのり甘くて味しい。

「波瑠が好きそうなものを選んだからね」

「優磨くんの飲みたいもので良かったのに」

「今日は波瑠のための食事だから、波瑠が気にるものがいいんだよ」

微笑む優磨くんは窓からの夜景のに照らされていつも以上に気がある。こんな人にされているなんて私はとても幸せ者だ。

ワインを飲んで気分が良くなる。もう一度同じワインを頼んだ。

「そんなに飲んで大丈夫?」

「うん……とってもいい気分だから」

自分でもコントロールできないほど頬が緩んでいる。

「波瑠って本當にお酒弱いね。去年の忘年會を思い出すよ。波瑠が別人のように子供っぽくなって」

「ああ、あったねー」

忘年會でつい上司に勧められるまま飲みすぎてしまい、途中で記憶がなくなった。後から聞いた話によると橫に座った後輩社員に抱きついて、でまわしていたらしい。後輩も酔っていたから気にしていないらしいけど、今思うととんでもない先輩で申し訳なかったと思う。

「抱きついたのがの子だからよかったけど、男だったら後々気まずかったよね。俺は嫉妬してたかも」

「反省してます……」

「今後はそういうのは無しね」

「え?」

「俺がいないところで記憶を無くすまでお酒を飲んじゃダメ」

真剣な顔で私を見るから「もう気をつけます……」と答えて下を向く。

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