《同期の曹司様は浮気がお嫌い》11
既に頼んでしまっていた三杯目のワインを飲んだところで眠気が強くなってきた。もう本當にやめた方が良さそうだ。
「波瑠?」
「んぁ……はい……」
「目がトロンとしてるよ?」
「大丈夫……まだ意識あるよ……」
自分では笑顔を見せたつもりでも優磨くんは増々心配そうな顔になる。
食事を終えてレストランを出ると足取りがおぼつかない。橫にいる優磨くんの腕が腰に回る。
「波瑠、飲みすぎはダメって言ったばかりだよ?」
「ごめんらさい……もーやめるからぁ……」
自分では大丈夫のつもりでも口がうまく回らない。
優磨くんが小さく溜め息をついた。それに焦って優磨くんに抱きつく。
「波瑠!?」
人目を気にしてか辺りを見回す優磨くんに申し訳なくなる。でも優磨くんから離れたくないと思ってしまう。
「ごめんらさい……」
呆れないで。怒らないで。私から離れないで。
「もー大丈夫らから……歩くるからぁ……」
「大丈夫じゃないでしょ。完全に酔ってる。呂律も怪しいよ」
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「ゆーまくん……おこってる?」
手を上げて優磨くんの顔をぺたぺたる。
「こら、波瑠……」
指がにれると優磨くんは嫌そうに顔を逸らした。
どうしよう……本當に怒っているのかもしれない。
「ゆーまくん、ごめんらさい……」
足がふらふらする。倒れないようにより一層強く優磨くんに抱きつく。
「波瑠……部屋取る?」
耳元で囁かれが熱くなってくる。
「へや……ホテルの? ゆーまくんとお泊り?」
「そうだよ、お泊り」
面白そうな聲で囁くから私は優磨くんの首にをつける。
「ちょ……波瑠、まだだめだよ」
優磨くんが困っているけれど中が熱くて首にキスするのを止められない。
その時優磨くんのスマートフォンが鳴った。
「波瑠……電話でないとっ……」
「んー……」
優磨くんから顔を離すと彼は電話に意識を集中してしまった。それでも私は抱きついたまま離れない。
「もしもし……お疲れ様です……はい……今ですか?」
仕事の電話だろうか。もしかして今から優磨くんは行ってしまうの?
「はい……今出先で……え?」
戸っているような聲に私は顔を上げて優磨くんを見る。
「それは……」
深刻な事態なのだろうか。やっぱり仕事になってしまうの? これからお泊りなのに……嫌だ、行かないで……。
私はつま先立ちになると優磨くんがスマートフォンを當てている耳と反対の耳に口付けた。
「波瑠! ……だめ!」
怒られても寂しいものは寂しいのだ。
「ああ、すみません……今からで大丈夫です」
どうやっても仕事なのだ。仕方がない。仕方がないけれど……。
優磨くんの耳たぶを軽く噛んだ。その瞬間優磨くんのがピクリと跳ね、手からスマートフォンが落ちた。
「波瑠!」
今度は私のが震える。本気で優磨くんを怒らせてしまった。を離して目を伏せる。
床に落ちたスマートフォンを拾うと「泉さんすみません」と優磨くんは謝る。どうやら電話をかけてきたのは泉さんのようだ。
「申し訳ないのですが、今から迎えに來ていただけますか? ……はい、本當にすみません……失禮します」
通話を終えると優磨くんはエレベーターのボタンを押した。
「來て」
私の手を引いてエレベーターに乗る。ドアが閉まると優磨くんは私をエレベーターの壁に押しつけキスをする。
「んっ……ゆーまくん……」
「ったく……酔いすぎでしょ……」
私を壁との間に閉じ込めながら呆れたように呟く。
「だってぇ……ゆーまくん仕事に行っちゃいそうらからぁ……」
目が潤んでくる。顔を赤くした優磨くんが霞んで見える。
「お泊りじゃないの? ゆーまくん……」
「ごめん。お泊りは中止……これから仕事の話で泉さんが來る」
耳たぶを甘噛みされる。私の口から言葉にならない聲が出る。
「それなのに、こんなに波瑠がれるから仕事にならない」
「ごめんらさい……もう邪魔しない……だから離れないで……」
「こんな狀態の波瑠から離れられないよ。可すぎ……」
首に優磨くんのが吸い付く。中が熱いのに、更に首が熱を持つ。服の上からを包まれ甘い聲がれる。
「ゆーまくん……」
顔が再び近づき荒々しいキスをされた。
このまま時が止まればいいと願うのに、エレベーターが一階に著いた音がすると優磨くんはを離し、私の手を取りフロアに降りる。
正面玄関を出ると目の前のロータリーに見慣れた車が停まった。
その車の後部座席のドアが開くと中に押し込まれ、後から乗ってきた優磨くんが私の腕を取りに引き寄せる。先ほどのエレベーターの中でのように荒々しくキスをされ、舌が私の舌に絡みつく。何度も角度を変えてキスを繰り返す。
「優磨さん」
運転席から聲が聞こえて我に返った。
「ご自宅に向かってよろしいですか?」
見ると車はいつの間にかき出していて、泉さんがバックミラーでこちらを窺っている。
「はい……自宅で構いません……」
優磨くんは息をして泉さんにそう告げると、私を座り直させてシートベルトを締めた。それくらい自分でできるのに、今の私は優磨くんに甘やかされている。
「お取り込み中お呼びして申し訳ありません」
「いえ……」
私も優磨くんも顔を真っ赤にする。
お互い夢中になって求め合ってしまった。いい大人なのだから場所を考えないといけなかったのに。
「リゾートの件ですが、明日朝早くからミーティングをしたいと先方が連絡してきました」
「明日……わかりました。俺は大丈夫です」
「それと、商業マネジメント事業部の方でも可能なら明日お話がしたいと」
「そっちは調整します」
「それと、至急返事をしてほしいと言っている部署が……」
私のわからない仕事の話になった途端に眠くなってきた。車の揺れが心地良い。
「波瑠? 眠い?」
「うん……」
優磨くんに頭をもたれていると車が揺れるたびに小さく頭をぶつける。
「ここに寢てな」
そう言うと優磨くんは自分の太ももをポンポンと叩く。吸い寄せられるように頭を載せて橫になると頭をでられる。私は自然と目を閉じた。
優磨くんの膝枕は落ち著くな……。今夜はとっても幸せ。家に著く前に寢てしまうかもしれない。
「例の件ですが、寫真をお預かりしています」
「え? その件は斷ってもらったつもりだったのですが?」
「申し訳ありませんが私では何とも……」
「そうですよね……俺から父に言います」
「寫真はいかがしますか? 今お渡ししますか?」
「いえ今は……彼には見られたくありません。明日會社でもらいます……というか父に返してくださいませんか?」
「私では無理でしょうね。社長はまた優磨さんに渡せと言うでしょう」
頭上で優磨くんの溜め息が聞こえる。
私では二人の會話はさっぱりわからないけれど、きっと深刻な話なのだろう。
「社長は波瑠様の存在をご存じです。それでも私にお相手の寫真を持たせたのは波瑠様を遊びの関係だと思っているからです」
目を開けそうになったけれど寢たふりをした。優磨くんが頭を下に傾けて私が起きているか確認しているような気配がしたから。
「俺も姉さんのように、好きな相手と結婚できないなら死ぬと騒ぐべきでしょうかね」
優磨くんは投げやりな言い方をした。
「差し出がましいようですが、社長に早く紹介なさるのがよろしいと思います。まない相手と無理に結婚させるほど社長は非道ではありません。麗さんの件でもご存じでしょうが」
今度こそ目を開けそうになるのを堪えた。
もしかして、優磨くんは誰かと結婚の話があるのだろうか。
「そうですね……でもまだ……波瑠を待ちます」
目を閉じたまま涙が溢れそうになる。
ご両親に紹介するのは私の気持ちを待っているということなのだろうか。
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