《同期の曹司様は浮気がお嫌い》同居の曹司は浮気を許さない

◇◇◇◇◇

プレゼントのお返しに私も優磨くんに何かプレゼントをしたかった。いつもお世話になっているのに素敵な時計までもらってしまっては申し訳なくなる。

無意識に左手首を右手でる。早速優磨くんからもらった時計をつけた。まだ慣れないけれどとても気にっている。

大型商業ビルに來ても何をあげたらいいのかと悩んでしまう。優磨くんは大何でも買えてしまえるだろうし、彼に相応しいものを貧乏な私が買えるとも思えない。

これは本當に必死で仕事を探さないと。帰ったら早速どこかの會社にまた応募しなきゃ。

雑貨屋で可いカトラリーを買った。未だに食は揃ったものがないので優磨くんと違いを複數選ぶ。食事の時間がしでも楽しくなるように。

このビルのどこかのお店もバイト募集してたりしないかな?

きょろきょろと周りを見ながら出口まで歩いていると「波瑠?」と名を呼ばれた。振り向くとビル警備員らしき男が立っている。その人の顔を見た瞬間驚いて聲を上げる。

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「下田くん?」

なぜか下田くんが警備員の服を著て私の後ろに立っていた。

「波瑠……久しぶり……」

「え……うん、久しぶり……」

自然と構える。もう會うこともないと思っていた相手が現れて揺を隠せない。

何度も連絡をくれていたけれど全部無視していた。別の社員を裝って電話をしてきたことはあっても、直接會うのは下田くんの奧さんが職場に乗り込んできた日以來だ。

「ここで何やってるの? その格好は何? 私をつけてきたの?」

驚いて質問ばかりが口から出る。下田くんは最後に見た時より痩せたように思う。顔も良くない。

「つけてきたわけじゃないよ。偶然。今派遣でこの施設の駐車場で通整理やってる」

「え? 會社は?」

減給処分で異が命じられたけれど、解雇ではないのだから會社に在籍しているはずなのに。

「今も會社にいるよ。これは副業」

「そう……なんだ……」

「減給だと生活きつくて」

私と同じだ。下田くんの方が処分の対象期間が長い。

「大変だよね……お子さんも産まれるのに……」

他人事のように言ってからしまったと青ざめる。これではまるで捨てられた嫌みではないか。

「そうだね……」

下田くんは複雑な顔をする。

「今から話せない? もうすぐシフト終わるんだ」

「遠慮するよ」

いに即答する。今すぐこの場を離れたい。

「それじゃあ……」

これ以上話す気はないので下田くんから離れようとすると呼び止められた。

「波瑠は? 今どうしてるの?」

「私は求職中。面接全滅してるよ」

低い聲音で伝える。その原因の相手に訴えるように。

「その割には元気そうだな」

「え?」

「見慣れない格好してる。服の趣味変わった?」

「あ……」

今著ている服は優磨くんに買ってもらったものだ。確かに以前の私では著ない系統だ。

「前はもっと地味だった。今は羽振りも良さそうだし……」

下田くんは私の腕に目をやる。思わず優磨くんからもらった時計を隠す。

「そうでもないよ……」

また嫌みに聞こえたのか下田くんは不機嫌そうな顔をする。

「新しい彼氏でもできた?」

「うん……」

正直に言った。私を裏切った下田くんへの當てつけもあった。

「へー……切り替え早いね。俺のこと引きずってないんだ」

「そうじゃないけど……」

別れたばかりのころはかなり辛かった。でも今こうして下田くんを前にしても、もう恨みを抱いていないのは優磨くんの存在が大きい。

「俺は引きずってるよ」

「え?」

「何度もかけたのに、電話に出てほしかった」

「わざわざ公衆電話からもかけてきたのは下田くん?」

「そうだよ。俺はずっと波瑠の聲が聞きたかった」

「そんなこと言われても出るわけないじゃない。もうブロックするから」

「波瑠のこと、まだ好きだよ」

目を見開く。下田くんは何を言っているのだろう。

「ふざけたこと言わないで」

「ふざけてないよ、本気で」

「浮気してたくせに」

「でも本命は波瑠だった」

意味不明な発言をする目の前の男が理解できない。

「白々しいね。選んだのは下田くんだよ。選ばれなかった私が浮気相手でしょ」

「妊娠しちゃったからだよ。そうじゃなきゃ波瑠を選んでた」

開いた口が塞がらない。目の前の男と付き合っていたなんて信じられない。

「相手が妊娠したから籍しろって言われた。だから仕方なく」

「本當に最低だね」

自然に言葉が出た。避妊しなかったのは下田くんなのにまるで奧さんが悪いかのような言い方だ。

「私ね、つくづく思うんだ。下田くんと離れて良かったって」

こんな男と出會ってしまった奧さんに同する。私を不倫相手だと思って突き飛ばすほどに下田くんをしているのに。

「俺は後悔してる。波瑠を裏切ったこと」

「何を今更……」

「波瑠と居るとプレッシャーだった。自分が清く正しい人間でいなきゃって思ってた」

「え? 何それ……私、そう思わせるほど聖人君子じゃないよ?」

「そう思っちゃうんだよ。自然と、強くいなきゃって。ダメな自分を波瑠には見せたくないって思っちゃう。常に良い男でいたいって思ってた」

下田くんの本音を初めて聞いた。付き合っていた頃もそんなことを言われたことなどなかったのに。

「だから汚い俺を見せてもいいと付き合った」

なんて意味不明な理由だろう。理解に苦しむ。

「波瑠を大事にしたいから……俺の気が済むまで適當に付き合える相手がいると楽だったんだ」

「それで、汚い浮気してどう思ったの?」

「罪悪がすごかった。でも波瑠が好きだから、俺は許されたい」

どんどん腹が立ってきた。

「許されたいって何?」

「また波瑠と一緒に居たい」

「奧さんがいるでしょ? 結婚してるのにバカなこと言わないで」

「でもしてるのは波瑠だ」

下田くんの言葉の數々に怒りが湧く。今更だ。何もかも遅すぎる。

「奧さんと別れるってこと?」

「……今更別れられない」

「私も不倫はごめんです。下田くんにもう気持ちはないの」

「でも波瑠がほしい。俺を浮気相手にしてほしい」

「は!?」

「波瑠がそばにいてくれたら、俺はまともな人間に戻れる気がする。汚い心が綺麗になっていくと思えるんだ。まだ俺を忘れてないなら二番目の男にして」

怒りで中が熱くなる。私がどれほど苦しんだか知らないくせに。下田くんと同じ最低な人間になれというのか。この人はどれだけ私を傷つけるの。

「あのね、私に下田くんと同じことを言った人がいるの。でもその人は私を傷つけたりはしないよ」

私と居ると強くなれると優磨くんは言ってくれた。彼のそばにいると私はただひたすらに幸せでいられる。私を二番目になんてしないし、二番目になりたいなんて言ったりしない。

「浮気相手? 二番目? やめてよ……まともな人間に戻れる気がするなんてよく言えたね」

私をその程度と思っている男と関わりたいとは思えない。

低い聲を下田くんにぶつけても彼は無表を貫く。

「電話には出てくれなくても、こうして今偶然會えた。それってそういう巡り合わせってことじゃん」

「そんな殘酷な巡り合わせは拒否するよ」

籍したことを後悔してる」

「そもそも私は下田くんと付き合ったことを後悔してるよ」

「やり直したい。波瑠のそばにいられるなら、離婚だって考える」

籍したってことは奧さんのことを大事にしようって思ったからだよね? ならもう私のことは忘れて。お互いに今のパートナーを大切にし……」

「なあ、今の彼氏って優磨?」

下田くんは私の言葉を遮った。

「………」

質問に答えるべきか迷う。優磨くんの存在を隠したいわけじゃないけど、下田くんに言いたくないと思う。

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