《同期の曹司様は浮気がお嫌い》3
「じゃあ働いてみますか?」
「へ?」
「再來月新店がオープンするんです。そこのスタッフとして働いてみませんか?」
驚いて慶太さんと優磨くんを互に見た。優磨くんはニコニコして私を見返す。
「どう? 波瑠」
「まだ言ってなかったのか?」
「波瑠を驚かせたくて」
慶太さんは呆れた顔をする。
「以前の會社では営業職だと伺いました。接客、販売は未経験でも大丈夫だと思います。新店舗のパン製造は専門のスタッフがやりますので、接客とパンの販売、店飲食時のドリンク提供をお願いします」
「どうかな? 慶太さんのとこなら俺も安心だし」
優磨くんは考えがあって私をここに連れてきたのだ。願ってもない話だ。
「あの……やりたいです。働かせてください」
私が慶太さんに頭を下げると橫に座る優磨くんも頭を下げた。
「ありがとうございます!」
「詳しいことは後日連絡します」
「はい。よろしくお願いします」
慶太さんに手を振りながら店を後にした。
「よかった。波瑠が慶太さんのとこに行ってくれて」
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「言ってくれればよかったのに。心の準備が……」
「波瑠に慶太さんの店を客観的に見てほしかったんだよ」
「いたいた! 優磨くん!」
前から聞こえた聲に目を向けると、が私たちのもとに歩いてくる。
「紗さん!」
優磨くんは手を上げて応える。
「波瑠、慶太さんの奧さんだよ」
「あ、こんにちは」
目の前で止まったは慶太さんとお似合いの綺麗なだった。
「こんにちは」
は私と目が合うとニコッと笑う。
「紗さん、こちら俺の人の波瑠です」
「安西波瑠と申します」と慶太さんにした自己紹介と同じことを紗さんに言う。
「初めまして波瑠さん。淺野紗です」
微笑んだ紗さんが「こちらが優磨くんが何年も大事に想ってた人ね」と言うから私も優磨くんも顔を真っ赤にする。
「紗さん……その話はもう……」
「ふふ」っと紗さんは笑う。
「店には行ってくれた?」
「今食べてきました。それで、お話していた波瑠の件、よろしくお願いします」
「はい。よろしくね」
紗さんに「よろしくお願いします」と頭を下げた。
「そうだ波瑠さん、主人から聞いたかもしれないけど一応履歴書を準備していただけたら助かるな。契約のことは後日連絡するから」
「わかりました。よろしくお願いします」
紗さんと別れて駐車場まで歩き出す。
「今日はありがとう。波瑠に二人を紹介できてよかった」
「私もありがとう。仕事も決まって安心した」
「慶太さんのそばなら俺も安心だよ」
車に乗るとしばらく私は無言で考え込んだ。
「波瑠?」
「優磨くん……聞いてもいい?」
「ん?」
「どうして慶太さんには麗さんのことを言ってはダメなの?」
「あー……」
「ごめんね、踏み込んで聞いちゃって。でも今後慶太さんのところで働くなら知っといた方がいいことがあるなら教えて」
「………」
ハンドルを握る優磨くんは眉間にしわが寄る。やっぱり聞いてはいけないことだったのだろうか。
「前に波瑠を姉さんに近づけたくなかったって言ったでしょ?」
「うん」
「あれは姉さんが下田と同じだからなんだ。姉さんは慶太さんと付き合ってたんだよ」
「え!?」
「慶太さんと婚約中に姉さんが浮気したんだ。それで慶太さんは一時期ボロボロになった。それはもう見ていられないくらいね。だから俺はあんまり波瑠と姉さんを近づけたくない」
「そうだったんだ……」
麗さんが慶太さんと……。
「今住んでる部屋は俺の親が謝料代わりに慶太さんに用意したんだ。でも慶太さんは紗さんと結婚して引っ越したからそのまま俺が住んでる」
そうか。どうして優磨くんの親が慶太さんに家を貸したのだろうと不思議に思ったけれど、これで納得した。
「俺にとって慶太さんは家庭教師で友人で兄みたいなものなんだ。だから姉さんには失した」
優磨くんと麗さんは仲が悪いというようには見えなかったけれど、きっと優磨くんは思うところもあるのだろう。
だから浮気や不倫、人を裏切る行為が嫌いなんだ。傷つけて傷ついた人を間近で見てきたから。
「でも姉さんも今では反省してるし、最終的に慶太さんは幸せになったから俺も姉さんを責めないようにしたんだ」
「マンションに泊めてあげるくらいには関係を修復したんだ?」
「まあ、あれは勝手に押しかけてきてるだけなんだけど。両親も姉さんの扱いには困ってるしね」
「今麗さんはその浮気相手と続いてるの?」
「いや、そっちともダメになったよ」
「そっか……」
「あいつは俺の姉とは思えないくらい滅茶苦茶なんだよ。多分姉さんは俺のところに來ているというよりはあの部屋に居たいだけなんだ。慶太さんの存在をじる書斎には特にね」
「前に麗さん本人もそんなこと言ってたよ」
「そう……」
優磨くんは何やら考え込んでしまった。
麗さんがどことなく寂しそうな理由がしわかった気がした。結婚を考えた慶太さんの存在を今もしでもじたくて、優磨くんに會うのを口実にあの部屋に來てしまうのではないのだろうか……。
「紗さんはそのことを知ってるの?」
「知ってるよ。それでも二人とも変わらず俺と接してくれる。俺が悪いわけじゃないって言って」
「優磨くんにとってお二人は大切な人なんだね」
「そう。波瑠もそうだけどね」
優磨くんが照れたように笑った。
「ありがとう、話してくれて……」
「波瑠には何も隠したくないから」
優磨くんの片手がびて、膝に置いた私の手を握る。溫かい手のをもっとじたくて、私は更に指を絡めた。
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