《同期の曹司様は浮気がお嫌い》

毎日夕食を作っても優磨くんが食べてくれることはなく、起きると変わらずラップをかけたお皿がテーブルに置いてある。

「一緒に食べるって決めたじゃない……」

同居するときに食事は一緒にと決めた。それなのに言い出した本人が破るのか。

もしかしたら書斎で寢ていたりしないだろうかと部屋を覗いてみても虛しくなっただけだ。

私が掃除したっきり散らかることがなくなった部屋にる。

本棚には慶太さんが殘していった小説や仕事の參考書、資格の本が並び、古いビジネス雑誌もある。優磨くんが追加したのだろうマンガが置いてあって、手に取ると棚の端に封筒が置かれているのが目にった。

封筒を取り中を見ると臺紙がっている。優磨くんのことが何かわかるかもしれないと、いけないと思いつつも臺紙を取り出した。薄いピンクの臺紙を開くと、驚いて思わず床に落としてしまった。

それは明らかにお見合い寫真だった。著を著たが床から私を見上げているようだ。

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これ……もしかして優磨くんの婚約者?

麗さんが言っていた。城藤はほぼ全員政略結婚だと。私の知らないところでこっそり寫真をけ取っていたのだろう。

お相手は品のある人だ。

私から隠すように置かれているということは、この人と結婚する気はなかったと思ってもいいかな? でも私に裏切られたと勘違いして自分も婚約の話を進めていたらどうしよう……。

私だけが住んでいる部屋を必要以上に掃除して時間をつぶした。ここは優磨くんの家なのだから汚くしてはいけない。例え家主がいつ帰ってくるかわからないとしても。

私はここに居ていいのだろうか。優磨くんが帰ってこない以上出て行った方がいいのではと思い始めていた。

不安で毎晩眠りが淺くなっていて、僅かな音でも目を覚ましてしまった。

ドアが開く音にを起こした。もしかしたら優磨くんが帰ってきたのかもしれないと期待してベッドから下りる。

リビングの明かりがついてドアの隙間かられる。張しながら寢室のドアを開けるとソファーにカバンを置いた優磨くんと目が合った。

「お、おかえりなさい……」

私の聲は掠れた。久しぶりに見た優磨くんの顔は疲れている。

「……いたんだ」

この言葉にが痛んだ。やっぱり優磨くんはもう私がここに居ることを良くは思っていないのだ。

「下田のところに行ったのかと思ってた」

「行かないよ……とっくに別れてるんだし……」

「へー……どうだか……」

冷たい言葉に泣きそうになるのを堪える。

「LINE読んでくれてない?」

「言い訳は聞きたくなくて見てない」

「はなっ……話しを聞いてほしい……」

堪らず聲が震える。

「著替え取りに來ただけだからすぐに出る」

「今どこにいるの? ご実家? ホテル?」

「………」

質問には答えずクローゼットに行ってしまう。しばらくしてキャリーバッグを持って出てきた。

「この部屋は波瑠の好きにして。ここなら満足でしょ?」

「あの……優磨くんも帰ってくるよね?」

「俺は出て行く」

「え!? どうして?」

「波瑠と生活したこの部屋にいるのは辛い。波瑠がここに殘ろうと出て行こうと、この部屋にはいたくない。俺が浮気を許せないの知ってるでしょ」

「浮気じゃない! 話も聞いてくれないの?」

私の目を見てくれない。いくら違うと言っても聞いてもらえない。

優磨くんはリビングにキャリーケースを置いたままキッチンに向かい、冷蔵庫を開けた。いつ帰ってきてもいいように冷蔵庫の中に優磨くんの好きなものを買ってれておいた。けれど無表の優磨くんは何も言わず缶ビールを出して飲み始める。

「あのね、下田くんにおど……」

「聞きたくない」

優磨くんは言葉を遮る。私の目からついに涙が零れ落ちた。

「何も信じられない。あいつの名前を波瑠から聞きたくもない」

優磨くんは缶を握り潰すとごみ箱に捨てた。

「お願い、聞いて。ちゃんと話すから……」

「聞きたくないんだって。これ以上波瑠を嫌いになりたくない」

まで震えてきた。何を言っても優磨くんに信じてもらえない。私が裏切ったと決めつけてしまっている。

「優磨くんこそ……書斎にあった寫真は何?」

「寫真?」

「お見合い寫真みたいだった。婚約者がいるんじゃないの? 優磨くんだって私に緒でそんな話をしていたってことでしょ?」

そうじゃありませんようにと願ったのに、優磨くんの口からは「そうだよ。婚約の話は數ヶ月前からあった」と言われた。

「波瑠が大事だったから斷ってた。でももう一度検討する必要があるかも」

「っ……」

「波瑠と將來を考えてたから、政略結婚させられないよう仕事で力をつけて、親に波瑠を認めさせるつもりだった。でもそれもどうでもいい……」

このタイミングで聞きたくはなかった。自分から聞いたのに優磨くんの婚約者の話がショックだ。

「最初から決められた相手なら俺を傷つけない」

息が苦しくなる。優磨くんは私よりも城藤の名を目當てにしている人の方がいいというのか。

「私たち……もう無理なの?」

「俺は無理……波瑠の言葉を信じられない」

それほどに優磨くんは不貞行為が大嫌い。誤解させた私も悪いけれど、何も信じられなくなるほどに優磨くんのトラウマは大きい。

「もう行くよ。下で泉さん待たせてるから」

「行かないで! ちゃんと話を聞いて!」

キャリーケースを引いて玄関に向かおうとする優磨くんの腕を思わず摑んだ。

「放せ」

思いっきり手を振り払われた。

「他の男に抱かれた汚いらないで」

あまりに冷たい言葉と態度に目の前が真っ白になる。

「あ……ちが……」

聲が出ない。また呼吸がうまくできない。

「さようなら安西さん」

「ゆ……」

引き留めようとしても、また優磨くんに拒絶されたらと思うと怖くてばした手を下ろしてしまう。

玄関のドアから出て行く優磨くんの姿が見えなくなった瞬間、床に座り込んで泣いた。涙がポロポロと頬を伝い、落ちてパジャマを濡らす。

『これ以上波瑠を嫌いになりたくない』って……もう嫌いになってるってことじゃない……。

築いた信頼が崩れるのは一瞬。激高した優磨くんには理由すらも聞いてもらえなかった。

裏切ったと思われたら何もかも拒絶されてしまう。

離れないって言ったのに、一方的に別れを告げられた。優磨くんの方こそ噓つきじゃないか。

広い部屋に殘されても私の居場所はここじゃない。優磨くんがいないのなら私もここにはいられない。

勤務先の店の近くにウィークリーマンションを契約した。

すぐにでも住める環境はありがたかった。減給処分をけた直後もこうすればよかったのだ。あの時は正常な判斷ができずにとにかくお金をかけない生活をすることばかり考えていたけど、今はとても冷靜になれる。

優磨くんに買ってもらった服や靴は全てクローゼットに殘した。お金目當てだと言われてしまったし、貰ったものは持っていけない。

私の荷は片手で持てる大きさのバッグに全てってしまった。殘りは宅急便で送るけれど、それも段ボール1箱だ。

最後にテーブルの上にプレゼントされた腕時計を置いた。この素敵な時計はもう私には相応しくない。

『部屋を出ました。今までお世話になりました。鍵は後日郵送します。』

そうLINEを送った。案の定既読にはならないのだけれど。

最後に部屋を見回して「ありがとうございました」と呟いてマンションを後にする。

優磨くんとの短い生活は幸せだった。

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