春の気配が薄らいだ、五月の第三月曜日の晝下がり。

「うーん……今どき、資格もないんじゃねぇ……」

メガネをかけた五十代前半くらいの男が、眉間の皺をいっそう深くした。

「あ、いえ……容師資格なら持ってます」

控えめながらも主張すれば、ふっと鼻で笑われてしまう。さっきからどうにも蔑まれている気がするのは、きっと思い違いのはずだ。

「だったら、事務職じゃなくて、容師の資格が活かせるところに絞れば？　今は容系の職って多いよねぇ」

微妙にばされる語尾に、バカにされている気がしてならない。気のせい、気のせい……と自分自に言い聞かせて早十分、気分はどんどん降下していく。

「そうなんですけど、できれば別の職種も経験してみたくて……。容師はサービス業で大変ですし……」

本音は伏せつつも、サービス業以外がいいと暗に込める。すると、男は呆れ混じりの笑みでため息をらした。

「別にどの職種だって大変だと思うけどねぇ。とりあえず、資格がなくて未経験者でも募集してるところ……この三件だねぇ。選り好みもできないだろうしねぇ」

りつけていた笑顔は、すっかり消えてしまっている。お禮を言う聲にも力がなくて、泣きたい気持ちでハローワークを後にした。

賑やかな街には、汗ばむほどの気が降り注いでいる。行きう人たちみんなが楽しそうに見えるのは、今の私がなにもかも上手くいっていないからだろうか。

香月志乃しの、二十六歳。長一五四センチ、重は至って標準。

二重瞼の瞳に、左の目はあまり目立たない程度のホクロがひとつ。鼻と口は小さく、顔は普通だと自負している。肩につくくらいのロブの髪は、先のきを出すために緩くパーマをかけ、ハニーベージュに染めている。

がし大きいのがコンプレックスだけれど、それ以外の容姿に特徴はない。

総評するのなら、〝アラサーに片足を突っ込んだどこにでもいる〟だ。

ただし、家なし、職なし、再就職先の目途もなし――という三重苦を除いて……だけれど。

日がすっかり暮れた、二十時過ぎ。

「ただいま～！　あー、お腹空いたぁ……」

１ＬＤＫのアパートに、高校時代からの親友――赤塚敦子あかつかあつこの聲が響いた。

「おかえり。晩ご飯できてるよ」

「さすが志乃！　ムカつく上司と違って天使に見える！」

「居候させてもらってるんだもん、これくらいしないと」

「それは言わないの！」

彼はムッとした顔を見せたあと、「晩ご飯はなに？」と笑った。

「今日はチキンカレーです」

「やっぱり！　カレーのいい匂いがしてるもんね」

敦子がメイクを落とす間にカレーを溫め直して盛りつけ、冷蔵庫にれておいたサラダを出す。程なくして、洗面所から戻ってきた彼とローテーブルを挾んで、「いただきます」と手を合わせた。

肩の力を抜いたように「おいしい」と連呼する敦子に、重苦しかった心が癒される。

「ところで、志乃はどうだった？　ハローワークに行ったんでしょ？」

中小企業の経理部で働く彼は、ひとしきり愚癡を零したあとで話を振ってきた。