ブルーム〜極甘CEOの包囲網〜》Bloom1 縁は異なもの味なもの……?【5】

「香月、座らないの?」

「あ、ううん……。えっと、座るよ」

椅子を引いてくれた諏訪くんに、どぎまぎしながらも微笑んで見せる。肩がれるほど近いわけじゃない。それでも、下手にけばきっとのどこかが當たってしまう。そう思うと、石のようにけなくなった。

「なに飲む? アルコールは平気?」

そんな私の目の前に、彼がメニューを広げて見せてくれる。小さく頷けば、ふわりと微笑まれた。

がきゅうっ……と締めつけられる。あの頃よりもずっと大人になった諏訪くんの笑顔に、まるで心が捕らわれる気がした。

もう心はないはずなのに、私の唯一のだったせいか、どうしたって平靜を裝えない。彼の隣にいると、心臓が持たないんじゃないと思うくらいだった。

(こんなことなら、もっとちゃんとヘアセットすればよかった……。服も変じゃないかな? どこかおかしかったりしないよね……?)

ひとり揺でいっぱいの私を余所に、いつもの子會とは違う飲み會が始まった。

誰が言い出したのか、早々に近況報告をすることになり、それぞれの狀況を語っていく。陣の現狀は私も知っていて、みんな変わらず、OL、看護師、アパレル関連……と様々な職業に就いている。男陣は、川本くんが外資系、殘りのふたりはサービス業なのだとか。

「ちなみに、諏訪はすごいよ! こいつは今、自分の會社を経営してるからね」

「ええっ 社長ってこと 」

「やだ、諏訪くんすごいじゃん!」

諏訪くんの代わりに川本くんが答えると、友人たちの聲が高くなり、明らかに目のも変わった。私は驚きつつも、諏訪くんの方を見られない。

「お前が答えるなよ。會社って言っても小さいし、別にすごくないよ」

(諏訪くん、夢葉えたんだ……)

盛り上がるみんなを余所に、私はが熱くなる。

きっと、諏訪くんはもう覚えていないだろうけれど、高校時代に彼とお互いの夢を教え合い、々と話したことがあった。

私にとって大切な思い出であり、今もまったく褪せていない。つらいときや容師を辭めたいと思ったとき、諏訪くんが卒業式の日に『頑張れ』と言ってくれたことを何度も思い出し、踏みとどまることができた。もっとも、それも今年の三月までのことだけれど。

「そういえば香月は? 今なにしてるんだ?」

「えっ……? あ、えっと……」

ぼんやりとしていると、唐突に川本くんに話題の矛先を向けられた。悪気はないとわかってはいるものの、みんなの話を聞いたあとだからこそ言い淀んでしまう。

「あのね、志乃は――」

「私は三月までは容師をしてたんだけど、々あって求職活中なの」

フォローをれてくれようとした敦子を遮り、できるだけ明るく返す。けれど、場の空気が強張った。

(しまった……。もっと他の言い方の方がよかったかな……)

「そうなんだ。うちの會社にも転職してきた人は何人もいるし、今どき珍しくもないよな。希の就職先が見つかるといいな」

すると、程なくして諏訪くんが優しく微笑んだ。なんでもないことのように言ってのけ、ごく普通に微笑む彼は、きっと本心からそう思っているんだろう。空気はすでに和らぎ、みんな口々に「そうだよね」と相槌を打った。

「あ……ありがとう」

話題が切り替わったことにホッとし、諏訪くんを見てお禮を告げる。

「なにが?」

彼はワイングラスを片手に、斜め分けにした濡れ羽の前髪から覗く瞳をふっと緩めた。ビジネスショート風に切り揃えられた髪がふわりと揺れる。

笑うと意志の強そうな二重瞼の瞳がらかくなるのは、あの頃と変わっていない。けれど、憐悧さを滲ませた眉と、作りのようにスッと通った高い鼻梁、そして突き出た仏や管が浮き出た手の甲から肘までは、當時よりもずっと男らしい。

諏訪くんは、白いシャツに黒いジャケットというシンプルな服裝なのに、ジャケットの袖を捲っているせいでいっそう前腕が際立っている。見慣れない彼を直視すると、やっぱり戸ってしまう。

それを隠すように笑みを返し、目の前の敦子にどうでもいい話を振った。

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