《めブルーム〜極甘CEOの包囲網〜》Bloom2 災い転じて同居が始まる【7】
翌朝、事の始終を敦子に話すと驚かれたけれど、「よかったね」と笑ってくれた。
「諏訪くんなら信頼できるし、なにかあっても助けてくれるんじゃない? それに、知り合いの會社で働ける方が、志乃だって心強いでしょ」
「でも、ここまでしてもらっていいのかな。ただの同級生ってだけで、こんなに良くしてもらうのは申し訳ないっていうか……」
気がかりなことを口にすれば、彼が明るい笑みを浮かべる。
「なに言ってるの! 本人がいいって言ってるんだからいいじゃない。志乃はなんでも自分でどうにかしようとしすぎるから、諏訪くんみたいな人が傍にいてくれる方がいいんだよ。ついでに付き合っちゃえば?」
「え……?」
「だって志乃、高校のときずっと諏訪くんに片想いしてたし」
チャンスじゃない? なんてニヤニヤする敦子に、ボッと顔が熱くなる。
「そんなの、昔の話だから……!」
「でも、本當はまだちょっと忘れられないよね? 昨日だって張してたみたいだし」
「だって、久しぶりに會ったし……。その……すごくかっこよくなってたし……」
「しかも、志乃の話になったとき、すかさず優しくフォローしてくれたし? 変な男に絡まれてるところを助けてもらったし?」
「敦子、おもしろがってるでしょ。っていうか、諏訪くんは親切にしてくれてるのに、そんなこと考えるのは失禮だよ!」
「そうかなぁ。諏訪くんだって、どうでもいい相手にそこまでしないと思うけど」
「そんなことないよ。諏訪くんは優しい人だもん」
を尖らせて異議を申し立てる私に、彼が苦笑混じりに肩を竦める。それから、優しい眼差しを向けられた。
「まぁ、こんなに突然出ていくとは思わなかったけど、私も安心した。うちにはあと半月しかいられないし、私も引っ越し準備を始めると志乃のことは助けてあげられなかったと思うし」
「たくさん迷かけてごめんね。でも、長い間置いてくれてありがとう」
「なに言ってるの。これくらい當たり前だからね! 志乃だって、逆の立場だったら私を置いてくれたでしょ? 困ったときはお互い様! それに、同棲や結婚生活が嫌になったら、今度は私が志乃の家に押しかけるから! おいしいご飯食べさせてね」
冗談めかした敦子に「もちろん」と返したあと、顔を見合わせてクスクスと笑う。
迷をかけてしまったけれど、この一ヶ月ほどは楽しいことがたくさんあったし、なによりも彼に傷を癒してもらった。本當にどれだけ謝しても足りない。
約束の時間の五分前に迎えに來てくれた諏訪くんに、敦子は「志乃をよろしくね」とまるで母親のように言い、彼は真剣な顔つきで頷いていた。その景を見ていた私は、しだけくすぐったいよな面映ゆいような気持ちになりつつも、こうして思いやってくれる友人がいて幸せだと思った。
諏訪くんは、レンタルスペースまで車を走らせ、荷を積み込んでくれた。
「あの……ごめんね。こんな高そうな車に、いっぱい荷積ませちゃって……」
車種はよくわからないけれど、スタイリッシュなブラックの車は見るからに高級そうだし、左ハンドルに加えて車のデザインも洗練されている。いわゆるスポーツカータイプらしい車には、どう考えてもこんな大荷は似合わない。
「そんなこと気にしなくていいよ。それより、香月って車に興味ない?」
「うーん、特には……。自分が運転するなら軽がいいし、そうじゃなくても乗れればなんでもいいかなって。地元と違ってこっちは通量が多くて怖いし……」
前を向いたままクスッと笑った彼が、「そっか」と相槌を打つ。
その後も他のない話をしていると、諏訪くんが重厚な門構えのマンションの地下駐車場に車を停めた。
「あの、諏訪くん……ここが寮なの?」
「うん。荷は一気に運べないから、あとでまた取りに來よう」
怪訝に思いつつも、彼があまりにも普通に答えたからそれ以上は尋ねられない。
「ひとまず、最低限の荷だけ持って降りて」
地下にある駐車場に車を停めた諏訪くんは、助手席に回ってくるとドアを開けてくれた。周囲を見渡せば、高級そうな車がずらりと並んでいる。疑問がいっそう大きくなり、しだけ不安に思いつつも彼についていくと、エレベーターに促された。
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