ブルーム〜極甘CEOの包囲網〜》Bloom4 ぬるま湯に浸かりすぎないように【1】

六月最後の日曜日。

午前中は家で仕事をしていた諏訪くんにわれ、ランチに行くことになった。歩いて行ける距離にある彼のおすすめのカフェはスタイリッシュな雰囲気で、店に設置された二十席ほどのテーブルとは別にテラス席もある。メニューも富で、日替わりや週替わりのラインナップは特に人気なんだとか。

「おすすめはハンバーグと窯焼きピザかな。ピザはどれもうまいけど、俺のイチオシはマルゲリータ。定番だからこそ、味の差が出るっていうか」

「食べてみたい。私、ピザはマルゲリータが一番好きなんだ」

「俺もなんだ。川本には定番すぎるって言われるんだけどさ」

諏訪くんとの共通點が、私を笑顔にする。ドリンクも決めたあと、彼は店員さんを呼び止め、前菜の盛り合わせとマルゲリータを注文してくれた。

諏訪くんと一緒に住むようになって、今日でちょうど一週間。最初は不安もあったけれど、今のところ毎日がとても快適だ。平日は彼が仕事に行っている間に買い出しや食事の支度をし、朝食と夕食は一緒に摂る。日中は手持無沙汰ではあるものの、おかげで部屋の片付けは早々に済んだし、周辺の散策もゆっくりできた。

諏訪くんはとても気遣ってくれ、毎日それなりに會話もある。決して無理強いや獨りよがりなことはしない彼のおかげで、しずつ仲が深まっていっていると思う。

あんなに戸っていたし、不安もあったのに、不思議とそんな気持ちは和らいでいき、今では諏訪くんと話せることが楽しみだった。

もっとも、彼に迷をかけ続けるわけにはいかないため、一刻も早く引っ越し先を探さなければいけないのだけれど……。仕事に慣れるまでは一緒に住むという約束をしたから、すぐに家を探すこともできない。

目星くらいはつけておくつもりではあるものの、諏訪くんの言う『仕事に慣れるまで』がどの程度かわからない以上、あまり早くからくのも憚られた。

そんなことを考えていると、ピザが運ばれてきた。焼きたて特有の香ばしさとトマトの酸味が混じった匂いが、空腹中樞を刺激した。ふたりで「いただきます」と聲を揃え、お腹が鳴る前にピザを頬張る。もっちりとした生地にオリジナルのピザソースとバジル、そして新鮮なトマトとたっぷりのチーズが絶妙に絡み合い、あまりにおいしさに嘆の聲がれた。

「おいしい……! なにこれ 今まで食べたマルゲリータの中で一番かも!」

目を丸くする私に、諏訪くんがの端を吊り上げる。

「だろ? ここのマルゲリータ、本當にうまいんだよ。ときどきテイクアウトもするんだけど、やっぱり店で焼き立てを食べるのが最高なんだよな」

嬉しそうな彼に、相槌を打つ。もう一口かじりつくと、らかな笑みを向けられた。

「香月も気にってくれて嬉しいよ」

「素敵なお店を教えてくれてありがとう。またすぐにでも食べに來たいくらいだよ」

「うちからなら近いし、いつでも來られるよ」

「うん、歩いて五分くらいだったもんね。今度は敦子をって來ようかな」

きっと、敦子も気にるだろう。そんな想像をしてふふっと笑い、近いうちの彼おうと決めると、諏訪くんが苦笑を零した。

その表の意味がわからなくて、アイスレモンティーを飲んだあとで小首を傾げた。

「どうかした?」

「さっきのは香月をったんだけど」

「え?」

「もちろん赤塚とも來ればいいけど、俺とまた一緒に來ようって意味だったんだよ」

頬杖をついて見つめてくる彼のストレートな言いに、うっかりたじろいでしまう。他意はないとわかっている。ただの同居人への配慮に違いない。

そんな思考とは裏腹に、諏訪くんの真っ直ぐな視線に深読みしそうになった。

「そうだね。また休みの日に來れたらいいな」

平靜を裝って頷けば、彼が瞳を緩めた。

友人とご飯を食べに行こう、というだけのこと。それなのに、諏訪くんが妙に嬉しそうに見えてしまうのは、私が男に慣れていないせいだろうか。慣れていないどころか、彼以外の男は苦手だけれど。

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