《めブルーム〜極甘CEOの包囲網〜》Bloom5 花は折りたし梢は高し……でもないかも?【1】
諏訪くんの會社で働くようになってから半月が過ぎた。
これまでは學生時代のレポートや、容師時代にお客様のカルテを作する程度だった私のパソコンスキルは、言うまでもなく素人同然だ。パワーポイントどころか、エクセルの計算式も使えないため、ちょっとしたことでつまずいてばかりいる。
「そうそう、ここにあるファイルに保存して……こっちも同じように共有ファイルにれておくものだから、さっき教えたものと間違えないようにね」
けれど、木野さんはいつも丁寧に説明してくれる。しかも、私がメモを取れるようにゆっくり教えてくれるおかげで、なんとかしずつパソコンにも慣れ始めていた。
「こういうメールはどうすればいいんですか?」
「商品の売り込みとか営業メールは副社長がチェックしてくれるから、このボックスに振り分けておいて。ひとまず副社長に回すから」
毎日覚えることばかりで大変だけれど、疑問を尋ねやすいからか今のところつらいこともなく、仕事自は楽しい。周囲に迷をかけてばかりなのは心苦しいものの、彼以外の社員もみんな優しくて話しやすかった。
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「香月さん、ちょっとミーティングルームに來てください」
「あ、はい……!」
ただし、篠原さん以外は……。
木野さんは笑顔で送り出してくれたけれど、篠原さんと話すのはとても張するからこの場を離れるのは微妙に不安だった。
篠原さんとは、まだ數回しか會話をしたことがない。容は毎回どれも業務に関することばかりで、彼はいつも淡々としているため、質問もしづらいのだ。
篠原さん自、社員とはあまり親しく関わる人じゃないようで、諏訪くんがひとりで外出しているときには重役室から一切出てこないこともあった。
この半月で社員全員と會話はしたけれど、男社員と接するときも張はするものの、彼と話すときが一番構えてしまうかもしれない。
「こちらが正式な社員証です」
ミーティングルームにるや否や、篠原さんが社員証を私に見せた。
「あ、はい。ありがとうございます」
首からかけている仮の社員証を外す。それを差し出せば、彼は「確かにけ取りました」と言い、真新しい社員証と換した。
「社員証の裏に記載してあるIDは、今後あなたが重要書類などを確認する際やパソコンを立ち上げるときに必要になりますので、暗記しておいてください」
「わかりました」
「承知しました、です」
「す、すみません……!」
「うちは従業員がない分、役職も擔當も関係なく全員が來客の対応をします。言葉遣いには気をつけてください」
「はい……。すみません」
「謝罪は『申し訳ありません』です」
厳しい表を前にたじろぐ。すると、篠原さんがため息をついた。
「前職では接客業に従事していたのでしょう。即戦力になるとは思っていませんが、せめて言葉遣いくらいはご自でどうにかしてください」
注意されているだけなのはわかっている。ただ、容師時代のことが脳裏に過って、まるで脊椎反のように委してしまう。
「それから、諏訪社長はとてもお忙しい方です。たとえあなたが諏訪社長のご友人であっても、社長の手を煩わせることだけはないようにしてください」
彼の冷ややかな視線が、私を歓迎していないことを語っている。コネ社をさせてもらった私が気にらないのだと、すぐにわかった。
「話は以上です。引き続き業務に戻ってください」
「承知しました」
頭を下げ、「失禮します」と言い置いてミーティングルームを後にする。廊下に出ると、自然と息を深く吐いてしまっていた。
篠原さんはとても有能で、スケジュール管理の一切を彼に任せていると、諏訪くんからは聞いている。諏訪くんがアプリ開発などに集中できるよう、鵜崎副社長が取引先との関係を構築する一方で、篠原さんは社員には預けづらい業務を請け負っているのだとか。
三人には他の社員とはまた違った絆があることは、たった半月しかここで働いていない私の目にも明白で、諏訪くんに頼られている篠原さんが羨ましいとも思う。
私なんて諏訪くんに頼ってもらうどころか彼を頼るばかりで、料理以外はなにもできていないのに……。
(……こんなこと考えてても仕方ないよね。私は仕事を覚えるのが最優先だし、頑張るしかないんだから!)
ただでさえ、私にはなにもない。持たざる者は、しでも早く周囲に追いつけるように努力するしかないのだ。
「あ、おかえり。篠原さん、なにか言ってた?」
明るい笑顔を見せた木野さんに、首からかけている社員証を見せる。
「新しい社員証をもらいました」
「じゃあ、IDを登録してログインしようか。とりあえず個人IDで処理できる仕事を教えていくけど、わからなければ何度でも説明するからね」
彼はいつも通り優しくて、さっきの迫とは反する雰囲気にホッとした――。
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